57話 ミルク料理のお披露目だよ!(料理というより加工品)
商人ギルドにて、大々的に『Sランクパーティ、オールラウンダーズのメンバーで、大魔術師であり大魔導師であるインドラ様が、ミルクをメインにした画期的な料理を研究!』と掲示を出した。
私は、商人ギルドに詰めて、ミルクを大きな瓶に詰めて、経過観察中。
冒険者ギルドのマスターもいる。
他には、興味のある商人や、食堂のおばちゃん、あのスタンドの青年もいた。
「……この状態、上の方に固形物が固まり、下の方はサラサラの状態になるだろう? これは、ミルクの中にある、水分と油分が分離している」
「ほほーぅ」
感心してるが、理解しているか?
まぁ、理解してなくてもいい、結果さえ出れば良いんだろうから。
「で、上澄み、中間、下と分ける。今回見やすいように瓶に詰めて経過観察したけど、普通に樽に入れれば汲み取りやすいので、そうしろ。あと、使う樽は、必ず! 熱湯をかけろ! ミルクの日持ちが違うからな!」
「ほほーぅ」
感心してるが、理解しているか?(二回目)
「この上澄みは、脂肪分が豊富なのだ。このままでも用途は広いのだが、是非に作っていただきたいのは……」
瓶に入れて振った。
高速で。
あっと言う間に出来上がり。
「あ! なんか、分離した!」
「そう、その通り! 振るとさらに脂と水が分離し、固形のオイルになるのだ。これは風味も良く、涼しいところにおけばミルクよりは日持ちする。どのくらいかは実際試さないと何とも言えないな」
薄切りパンに塗って試食。
……涙が出そうになった。
「うまい、[バター]、うまい」
その場にいる人間も群がって食べた。
「あ! すごい! これ、おいしい!」
「ミルクの香りがするのに、すごく濃厚!」
「お、確かにうまいな。お前が言ってた[バターモドキ]とはちょっと違うか?」
ソードが食べて評した。
「そうだな、アレはいろいろ入ってるから。……これはそのまま食べてもヨシ、炒め物に入れると炒め物に風味がついて高級そうな料理になるぞ。あと、これを使った、名物料理を開発するので、これは絶対に作れるようにしてくれ。ちなみに、上澄みはクリーム状の部分を使うこと。液状のところを入れてもいいけど、振る時間が長くなり、大変だぞ? 私なら十秒かからないが、普通の人間なら十分~三十分ほどかかるので覚悟して振ってくれ」
みなさん、固まった。
「さて、残りの液体だが、中間層は普通に飲んでもいい。濃厚さはなくなるが、逆にさっぱりと飲めるようになる。下層は、これから別の食材に変える実験をする」
鍋に入れて、弱火で温める。
ところで、「魔術だ……!」「さすが大魔術師様……!」と感心された。
……そっか、当たり前に使ってたよ。
「湯気が立ち、泡立つ手前で止めること。ここに、酸っぱい果汁をたくさん入れる」
そしてぐるぐる。
「冷めたらまた温める。……こんなものだろう」
分離した。
布に入れて、こす。
「一日くらいこした方がいい。このまま放置、だが、水分多めのこちらを食べてみよう」
こす前のを、甘い果物に和えたバージョンと塩漬け肉と和えたバージョンを作って試食。
「うう……[チーズ]だ……!」
感動。
「ちょっと酸っぱいけど甘い」
「面白い味だな」
と、バターより若干評価は低め。
「酒に合いそうだな」
は、ソードの評価。
「これは、本来はお菓子に使うものだが、焼いた野菜に振りかけたり、果物に振りかけたりすると『高級そうに見える』」
「「「なるほど」」」
全員が納得。
「こっちの余った汁は、そのまま飲んでも栄養価は高いのだが、これに塩を加え、野菜を漬け込むと酸っぱくて日持ちのするものになる。体にも良いので、ミルクの酸で漬けたものとして売り出してもいいと思う。特に冬場の青菜が不足する時期に漬けて一番寒いところに置いておけば、かなり日持ちするぞ」
漬け物ね。
「では、次からは時間がかかるぞ。だが、それだけの甲斐はある。これを食堂の名物料理にするといい。名付けて『白いソースの煮込み』」
シーン。
「……あの」
青年が挙手した。
「なんだね? 青年よ」
「ミルクの煮込みは、ありますよ?」
私、ニッコリ。
「たぶん、それとは違う。食べてみれば解る」
魔物肉を骨付きで用意してもらい、サッと焼いて、脂とアクを取る。
野菜も軽く炒め、肉と共に煮る。
「できれば、肉の臭みを取るため、香草や、酒を入れるといい。酒は入れてほしいな、エールでいいからもったいがらずに入れてほしい」
煮詰める。
この時点でミルクの煮込みとは違ってきているらしい。
汁気が大分無くなってきたらいよいよ本番。
「白いソースを作る。覚えたら応用が利く」
小麦粉とさっき作ったバターを炒める。
「おお……!」
「さっきのミルク油はここで使うのか」
と感心されつつ、炒め上がり。
「中間でもいいが、せっかくだから下の方を使ってみるか」
ミルクでのばす。
「どろっとしてる!」
「全然違うぞ!」
「匂いがミルクじゃなくなった!」
との感想。
「ミルクの投入量で固さが変わる。今回は、ちょっと固めでいこう」
塩を振り、ホワイトソース完了。
これを、煮込んでた鍋に投入。
ぐるぐる混ぜて、
「固かったらミルクを足してのばすといい」
固かったのでミルク投入。
のばして、味見し、ちょっとだけ塩を足す。
「これが、『白いソースの煮込み』だ。『白いソース』は応用が非常にきく。肉を焼いて、細かく刻んで炒めた野菜と和えたコレをかけても『高級そうに見える』その場合、肉を焼いた鍋を洗わずにそのまま野菜を炒めコレを入れると味が良くなる」
いちいちが『高級そう』なんだけど、名物料理ってからにはそれも大事かな、と思ってさ。
試食はすごい群がりよう、そして大絶賛だった。
「こんなにうまい料理は食べたことがない!」
「貴族サマでも食べてないぞ!」
「これは絶対売れる!」
ってことで。
「お、確かにいつも作ってる豆汁の煮込みとは似てるけど違うな」
とは、ソード談。
「アレはアレでいいし、今後もアレは作っていく。だが、たまにこういうコッテリしたものも食べたくなるのだ」
何よりミルクは豆ほど気軽に手に入らないしバターを使った料理は他にもいっぱいあるので、シチューは豆乳でいくつもり。
さて。
他にも料理はまだまだある、まだ【生クリーム】使ってないしね、とは思ったけど、これ以上教えても飽和すると思うので、あとはものを見て個人研究してほしい。
基本の変化は教えたから、それをどう使っていくかはそれぞれだと思う。
*
町の皆さんにも快く捕獲の同意を得たので、早速捕獲……の前に、仕込みを行う。
サイレージ? に、似せた飼料を作った。
「いざ! 出陣!」
張り切ってる私に苦笑をしてるソードだが、ミルクの料理がおいしいってのは理解したみたいで捕獲には乗り気になってきた。
危険があるかもしれないから、と、皆がミルクを汲み終わった後、昼過ぎくらいに行くことにし、危険だから念のためその頃までには山を下りてくれとソードを通してギルドに通達してもらったので既に山を下りて、もう商売を始めてる。
皆、好意的に、張り切ってる私に手を振ってくれる。
「頑張って捕獲してくださいねー」
「またおいしい料理開発したら教えて下さーい」
「おう! ちゃんと来てくれることに同意してくれる子を選んでくるぞ! ミルクの料理は、自分たちでも開発しろ! まだまだ無限にあるぞ、ミルクは偉大だ!」
手を振り返しつつ応えると、ドッと笑いが起きた。
なぜだ。
ソードも笑ってる。
「なぜだ?」
「底抜けに明るい冒険者が眩しいんだよ」
「何を言ってる。お前もそうだ。何しろ、私たちはパーティなんだからな!」
「ワーオ。そういえばそうだったわ。じゃ、俺もそう思われてるってコトか」
うなずくと、ソードがまた笑って、頭をなでてきた。
乳製品の基本、バターとチーズとホワイトソースでした。ホエーによる漬物も。
次は少年視点です。