43話 私の実力と胆力を理解してもらうよ
残酷描写あります。苦手な方はお気を付け下さい。
ギルドで依頼を見た。
「うーん、心躍るような依頼は無いな」
「お前のその、冒険に対するポジティブな発想がとっても羨ましいと思うぞ?」
なんか言われたがスルーしておく。
「どっちみち未処理案件片付けたらとっととオサラバだ。ここは【血みどろ魔女】のテリトリーだからな。長居したら面倒が起きる」
何ソレ縄張り的なモノってあるんだ?
「そうか。じゃあ、前人未踏の土地とかないか?」
って受付嬢に聞いたら
「お前、話聞いてた?」
ってツッコまれた。
「縄張りはわかった。それと前人未踏の土地に冒険しに行くのとは話が違うだろ?」
「ありますよ」
受付嬢が教えてくれた。
「北西の森は、瘴気が漂い、魔物が鳴き叫び、日中も陽の差さない陰惨とした場所でして。そこに足を踏み入れたが最後、生きて戻った人はいないという……」
「単に【血みどろ魔女】に折檻されたってだけだろが。けしかけてんじゃねーよ」
「あ、ご存じでしたか」
受付嬢、ペロッと舌を出した。
「ん?」
「この町は魔術師ギルドと魔導師ギルドがハバ利かせてて、冒険者ギルドとは仲が悪いんだよ。冒険者の目的も魔導具買うか、魔術関連の道具買うか、って感じだからな。依頼もあっちに取られやすい」
そういえば、入り口で止められた。
「その北西の森ってのは、【血みどろ魔女】の住み処だよ。許可無く入ったらあっちこっちに仕掛けられてる魔術や魔導具で吹っ飛ばされるぞ」
「前人未踏の土地じゃなくないか? そもそも人が住んでるんだろ?」
それとも、その血みどろさんは魔族とかかな?
〝鞭を持った死霊使い〟って設定だったりする?
「わかった、つまり、その血みどろさんは人間じゃないって言いたかったんだな! 出会うことがあったら聞いてみよう」
「大変申し訳ございませんでした。二度とそのようなことは言いませんので、ご容赦下さいませ」
見事な土下座をしてみせた受付嬢さんだった。
ギルドを出ると、険しい顔のソードが言った。
「さすがの俺もここで宿屋泊まろうぜなんて言わないぜ。野宿の方が安全だ。お前が魔導具に興味ねーっつーんなら、とっとと依頼片付けて先を急ぐぞ」
ソード、すっごいピリピリしてるな。
町をぐるっと見渡したが、確かに興味ない。
霧の街の、煉瓦をたたくと現れるという魔術横丁は非常に心惹かれる物があったが、ここの魔導具は違う。
ファンタジー感がない、つーか鄙びた温泉街の土産物屋、って感じが……。
「私だったらもっと、こう、心躍るような、例えば空飛ぶ箒や、しゃべる大鍋とか、闘ってる本同士とか、そういうワクワクしたものを店先に飾りたいのだが」
「お前のワクワク感、変! そーーーんな実用性のないモノ飾ってどーすんだ⁈ それこそ玩具じゃねーかよ!」
「あぁ、イタズラ用品店だな。食べると鼻血を出す甘味とか……」
「怖ッ! 何それ毒薬じゃねーの?」
わかってもらえない。
「そうだな、あとはゴブリンの経営する銀行とかあるのかな?」
「ごめん、言ってる意味わかんない」
謝られるほどわかってもらえない。
*
「別世界の知識のせいで、お前のワクワク感がかなり変なのはわかった」
山頂へ向かいながらソードが話してきた。
しかも、かなり警戒しながらも、内容がソレ。
「だけどな、そもそも〝子供心〟って技術の発展にもつながるんだぞ? 例えばリョーク。これは私がすっごーーーく憧れたゴーレムだ。他にも『あったらいいな』で作ることもあるが、完成への情熱は憧れなんだ。箒に跨がって空を飛びたいと思わないから作らないが、その情熱で空飛ぶ箒を作ってほしい」
私は御免被るが、飛んでる人を見てみたい。
「そんな情熱抱くのはお前くらいだろ。そもそも魔導具っつーのは、古代アイテムの復刻が主だよ」
「え。……でも、時計は違うだろう?」
「そうだ、でもだからこそ偉大な魔導具だし普及してんだ。他の秘匿にしてる連中のは、手に入れた古代アイテムをどうにかして復刻させるって研究が主なんだ。その過程やなんやらで劣化品や派生品が生まれて、それを売って資金稼ぎしてる。さっきのやつにリョーク渡してみろ、嬉々としてぶっ壊しにかかるぞ」
ぎゃー!
なんですとー!
解体マニアかよ!
「絶対に渡さん‼」
話しながらもザクザクと歩いてると、どうもつけられているくさい。
チラッとソードを見たら、ため息をついた。
とっくに気付いてたみたいだ。
「……さてと、どーすっかね」
「どうするもこうするも、襲ってきたなら殺すだけじゃないか?」
「ワーオ。お前って、ホンット潔いよねー」
「解体してみせようか? 可食部分があるかわからないが」
「やめて、ホンットやめて。そこまでいくと人の道を外れるレベルじゃなくなっちゃうから」
冗談なのに。
……確かになー、別世界にいたときの私では考えられないほどに冷徹だよな。
お肉もお魚も食べてたくせに、生き物殺すの駄目だとか……あ、でも虫は食べなくても殺してたな。
でも、今はサックサク殺せるようになっちゃった。
――やっぱり、別世界の私と今の私は違うな。
倒れる前の私とも違う。
違うんだけど、別にそれで構わないと思う自分がいる。
私はここに生きていて、変わろうがそれがどうした。
かなり割り切ってる性格になった。
むしろ、ソードの方が心配だ。
簡単に人が死んでいくような冒険者って職業で、全然割り切れてないんだもん。
「……ワクワク感をもっと盛り上げたい場合、ここは相手の手の内に乗っかっておく、というもアリなのだが。もっと事を大きく大袈裟にした後に重い腰を上げて解決するととっても盛り上がる」
「ごめん、ホンット言ってる意味がわからない」
また謝られるほどわかってもらえない。
そして拳固が来た。
「わざわざ! 事を! 大きくして! 楽しむんじゃねーよ!」
いたたた。
頭をさすった。
「だって、私とお前って、大体簡単にものを片付けてしまうじゃないか。魔物だってすぐ倒してしまう。お前、金持ちなのに冒険者を続けてるってことは、何か刺激を求めてるんじゃないのか? じゃなけりゃその金を持って引退して酒を飲む毎日だって構わないだろうが」
ソードが怯んだ。
その後、そっぽを向く。
「…………夢も希望も捨てた。だけど、もしかしたら捨てた夢と希望が見つかるかもとは考えるときがあるんだよ」
「だろう? じゃあ、一度相手に油断させてみようか」
「そんなんじゃねーし」
「わかった、つまり、ダンジョンに行きたいのか。ボスを倒すとお宝が出るのは『何が出るかな』ワクワク感が楽しめるものな! では、そのホドホド感のあるダンジョンに向かおう。ホドホドも楽しめなかったら、魔王に頼んで城を攻略させてもらおう。殺さないとか条件をつければ遊ばせてもらえるかも知れないぞ?」
「…………」
ソードが笑い出した。
そして、頭をくちゃくちゃにした。
……私、髪を伸ばしてなくて正解じゃない?
コヤツ絶対人の頭をくちゃくちゃにする癖があるぞ!
「そうだな、そりゃ楽しそうだ。魔王もびっくりだよな、『殺さないからワクワク感を楽しむために攻略させて遊ばせてくれ』とか頼まれたらな。ま、それで怒られなかったら、遊ばせてもらおうぜ?」
ようやくやめてくれたので、髪を整えながら言った。
「ダンジョンコア様が魔王様なら、会話出来るから喜んで遊ばせてくれると思うぞ? ダンジョンとは絶対、ダンジョンコア様が作ったアトラクション施設だぞ!」
命かかってるけどな!
「命を懸けた遊びかよ」
「そうだ。ハイリスクだが、刺激を求める人間にはピッタリだ。どうせ普通に道を歩いてても盗賊に襲われて命を散らすことだってあるんだ。なら、むしろリスクがあるとわかってる分、楽しめるな」
「どーでもいいけどお前ってダンジョンコアに〝サマ〟つけるのね。……って、そろそろお出ましだぜ? 遊びはナシだが、殺すな。一応話は聞きたい」
話をさせたくないのだが⁉
またダメージ食らうカモだぞ!
そう言おうとした矢先、かなり近付いてきた気配とともに「……かかれ!」という声が聞こえた。
ソード目がけて風魔術と雷魔術が飛んでいった。
私と、リョークにも、縄のような魔術が飛んできた。
拘束魔術かな?
ソードは高速で避け、私は木刀で弾いた。
「リョーク! 障壁を展開した後、ガトリングの使用を許可する! 相手が攻撃しようとしたら発砲しろ!」
「「あいさー!」」
うん、かわいい。
リョークは斜め上に飛んで木に留まる。
「おい! リョークにアレやられたら死ぬだろ! リョーク、ダメ!」
全員生き残らせる必要も無いと思うが。
リョーク、間を取って攻撃魔術を詠唱した連中の足にガトリング連射した。
三人ばかり戦闘不能に。
私はリョークに襲いかかる拘束魔術を無効化した。
木刀で弾く簡単なお仕事です。
「くっ、この際破壊しても構わん! 一台は手に入れろ!」
なにぃ?
指令を出した声のする方に突進。
あのおじいちゃんだ。
「興奮して死んだかと思ってたが、まだ生きていたか。なら、興奮して死んだことにしておくか」
おじいちゃん、超動揺。
「な、なに? 私が誰だかわかって……」
うん。
テンプレの自己紹介は聴かないよ?
世の中には、知らない方がいいことがあるってものだよね。
「インドラ! おい待て、殺すな!」
ソードが慌てた声で止めてきた。
「安心しろ、自然死を装う」
「こんだけ人がいるのに装えるか! バカ!」
言うのが遅い。
「あ、ごめん。遅かった」
真空パック攻撃。
おじいちゃんの周りだけ空気を遮断した。
おじいちゃん、急に空気が吸えなくなってびっくりしてる。
ソードに止められたので、すぐ止めたけど、目を見開いたまま倒れた。
「急に風の流れが変わって、真空状態になったようだな。呼吸出来ずに死んだか。
不幸な事故だった、まる」
それを見ていた他の襲撃者、一斉に攻撃を止めて降伏した。
「んん? 抵抗しなくなったぞ? 一人くらい〝活け作り〟として目の前で解体ショーを見せてやっても良かったんだけどな。それくらい示せば私の実力や胆力を理解してもらえるだろう?」
「うん、その言葉だけで、お前の実力も胆力もジューブン伝わったぞ? だから、絶対に止めような?」
ソードのセリフに、一斉に襲撃者がうなずいた。
本格的な対人バトルはこれが初ですね、
残酷描写が苦手なのでソフトに書いたつもりですが、これでもまだ厳しい人は厳しいかしら?
次回も残酷描写ありますのでお気を付け下さい。