40話 回復薬って謎だよね
背負子に背負って帰還した。
おばあちゃん、泣いて、お礼を言ってくれた。
「本当に、バカな子だよ……」
「それはその通りだけどな。まぁ、冒険者ってのはバカな連中がなる職業なんだ」
ソードが笑う。
「確かにな」
おばあちゃんに彼女を任せ、私は戸口に立った。
「私たちはこれで旅立つ。世話になったな。……あぁ、そうだ」
おばあちゃんに渡した。
「……これは……。もしや……!?」
おばあちゃんの瞳孔が開いた。
ソードも見て首をかしげ、目を見開いた。
「……おい! それって……まさか!?」
「私の作った『回復薬』だ。市販されているのとは違うしちょっと弄ってある」
おばあちゃんからもらった依頼報酬の薬を見せて、軽く振った。
「コレが依頼報酬だとすると、もらいすぎだ。なので妥当なものを用意した。……まぁ、手作りなので原価ゼロに近いが」
おばあちゃん、放心してる。
「効果は似たようなものだと思う。ギルドに私の……では通用しないか。ソードの名前を出せば、コイツは偉い人だそうだから売れるはずだ。白金貨一枚だっけか?」
ソードも放心してたけど、我に返った。
「……検証されるな、間違いなく。ただ、効果があると判明したならば、ま、半額……いや、お前の場合は倍値がつくかもだな。どれくらいの効果があると踏んでる?」
顎に手を当てた。
「そうだな……ま、骨もしくは骨に見立てた部品があれば再生する」
二人がギョッとして私を見た。
「だけど、再生する、だけだぞ? 使ったことがないからわからないが、無事動くかどうかはわからない。『回復薬で作った腕』、だからな。【超高速培養移植】とでも名付けるか。要は、腕に似せて作った腕だ」
「もっとわからんわ」
説明が難しい。
この世界の「腕が生えろ~」某の呪文を唱えたらなぜか前と同じ腕が生えてきました、ってのは原理がわからない。
わからないけど、魔素を細胞に変換し組織を作りあげる魔術はわかったのでその術式を溶かし込んだ。
ピンポイントならもっと簡単だが、汎用的に作るとなるとちょっと大変。
プログラム組むみたいに術式組んだので、大変だったけど楽しかった。
「……お前って、ホンットーに道を間違えてんじゃねーかって思うわ」
「趣味でやる分には楽しいな。だが、この世界の「飲んだら腕が生えてくる」って方がすごい。理屈がまったくわからない」
おばあちゃんはお手製回復薬を見つめた後、私を見た。
「……もらって、いいの?」
「私が作ったものだからな。これは、貴女が作ったものだ。だから、交換。でも、そっちよりもこっちの方がもっと価値があるものだ。そっちのは、自然の摂理に反する。……あくまでも私が思う『自然の摂理』だが」
おばあちゃんが笑った。
「……惜しいねぇ。あんたが本気で薬師を目指してくれたらいいのに」
「人体実験はしたいが、失敗してうっかり被検体が死んだとき、責任を取らされるのが嫌だな。あと、作るのは楽しいが、効くかどうか経過観察したりするのも面倒臭い。よって、向いてない。私は冒険者、冒険をする職業に就いたんだ」
胸を張って言ったら、ソードが笑った。
「お前の冒険者って職業を聞いてると、随分と気楽で楽しそうなんだよな」
「その通りだ! 生死に自己責任を持つだけでいいなんて、気楽で楽しいよな。ものを作って売る商売は、売ったものに責任を取らなきゃいけないんだぞ? そんなん嫌に決まってる。趣味だ、趣味でいい。趣味で作ったものに口を出させない」
今度はおばあちゃんまで笑った。
「……ありがと。じゃあ、これはもらっておくね。好きに使っていいんだろ?」
「もちろんだ。これも好きに使う」
「どうぞ。じゃあね、さよなら」
「うん、さよなら」
手を振って別れた。
おばあちゃんは、見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。
前回「回復薬は持ってない」と言ってましたが、これは「市販の回復薬は持ってない」って意味でした。あと、回復薬に対する不審感もあるので使いたくなかったのです。意地悪であげないよって言ったワケじゃないです。少女は持ってたと知ったら意地悪で言ったと思うでしょうけども。




