283話 イケメンお兄さんに生い立ちを聞かれたよ
オールラウンダーズ!!2巻、絶賛発売中です!
ご購入の検討どうぞよろしくお願いいたします。
ベン君が指をパチン、と鳴らした。
そうしなさいと私が指導したんですけどね。
すると、ベン君の横に、光の粒子が集まり、人型になる。
「サクラと申します。ここからの販売ルームへのご案内をさせていただきます」
絶句の後、どよめいた。
「れ、レイスではないのですな?」
「もちろん違います。実体のないゴーレムと思って下さい」
ベン君が答えると、男性客がサクラに見とれた。
「ゴーレム……!」
「これが……!」
「なんと美しい……!」
男性客の反応を見たスカーレット嬢がニッコリと笑った。
「殿方はサクラがご案内いたしますが、女性には男性のエスコートが必要でしょう?」
そう言うと、パンパン、と二回手をたたく。
光の粒子が集まり、イケメン執事が現れた。
「セバスチャンと申します。お嬢様方は、私がご案内いたします」
って、スカーレット嬢ェ……。
あくまで執事様を作ったんかい! いいけどさ!
容姿が銀髪に緑の瞳なので、あくまで執事様とは違うのか。
ふーん……。あぁいう男性がスカーレット嬢の好みなのね。
……ん?
なんか、ソードに似てないかにゃ?
ご婦人様方、イソイソと執事様に寄っていった。
スカーレット嬢の好みは女性陣の好みでもあったらしい。あ、公爵夫人以外ね。
公爵夫人はその作りに目をむいて、スカーレット嬢を問いただしている。
「スカーレット、貴女はどこまでこれに絡んでいるの?」
「残念ながらアイデアを出しただけですわ。あ、そこのイケメン執事はある程度私がいじりましたけど、それもいじるための道具がありきですわ。私一人では間違いなく再現不可能です」
「そうか…………。しかたがないか。だが、アイデアだけでも素晴らしい」
最後は褒めていた。スカーレット嬢、うれしそう。いいね、あんなお母さんがほしかったよ。
……と、さっき女性と扱ってくれたイケメンお兄さんが寄ってきて、私に語りかけた。
「ショートガーデ公爵家は、殊更親子仲が良いので有名ですからね。とはいえ、他の貴族もよほどのひどい人間でない限り、そう悪くはないのです」
私はイケメンお兄さんを見上げた。
「……そうなんですか。私はそのひどい人間しか知らないものでして」
イケメンお兄さんが私を見て首をかしげた。
「ご両親共に、ですか?」
んん? ひっかかる言い方をしたな。
私はイケメンお兄さんにうなずいてみせた。
「その通りです。……その口調では私の生い立ちをご存じかと思いますが、私は元貴族でして。父親らしき男は、女たらしの遊び人で金目当てに母親と結婚しましたが、母親の束縛に嫌気がさして遁走しました。母親は結婚した男への執着で狂い、狂気の中私を産み落としました。
私のまぶたに浮かぶ母親の顔は、オーガも顔負けの恐ろしい顔ですね。虐待まがいの躾を五歳まで施され、おかげさまで貴族の教育は女性のみならず男性までも完璧です。鞭打たれない日はなかったですし、ひどいときは百回は超えたでしょうか。顔を打たれて目が開かなくなったこともありましたかね。
当時はそれでも褒められたくて必死で覚え、全部こなせるようになりましたが、褒め言葉一つもらえませんでした。
末期の方は、私のせいで夫が帰ってこないと責任転嫁されて鞭打たれ、私に呪詛を唱えていました。私は生まれてから母親が死ぬまで父親の顔を見たことはないのですが……それでも私のせいだったようですよ」
私は肩をすくめてみせた。
「……そんな狂乱のオーガのごとき母親が早死にしホッとしたのもつかの間、他所に作った愛人の娘と共に意気揚々と乗り込んできたのが、父親らしき男です。
『父親らしき』というのは、その男が『自分が父親だとは限らないだろう?』と私をせせら笑ったことがあったからです。私としては、あの男の血は私には流れていないかも知れないという吉報でしたが。
確実にあの男の血が流れているその娘も、私が邪険にされ全てを奪われても何も感じず自分が父親から買ってもらったものを自慢するような子でしたが、バカの鳥頭な分、ある意味邪気がなく両親よりは扱いやすかったですかね」
私がまくしたてたらイケメンのお兄さん、がく然としてた。
「…………貴女の母親が、そんなことを?」
んん? 母親を知っている?
私は首をかしげつつ、イケメンお兄さんに尋ねる。
「お知り合いでしたか? まぁ、私にとってはそういう人でしたよ。ただ、人間というのは多角的です。ある人にとっては文句のつけどころない良い人間でも、ある人にとっては最悪の人間ということはあり得ますから。私にとっては『そういう人だった』という話です。貴男にとってのその方がどうだったかは、貴男とその方の関係でしょう」
イケメンのお兄さん、私を凝視した。
「…………本当にそんな目に遭わされたとして、どうしてそんなに淡々と他人事のように話せるのですか?」
『本当に』ってなんだろう。
疑わしく思うくらいに、母親と仲が良かったのか?
なら母親と結婚してくれれば良かったのに……。って、貴族が恋愛結婚は無理か。
私は息を吐ききり、イケメンお兄さんをまっすぐに見据えて言った。
「両親に虐待されながらも愛されたいと願っていた幼女のインドラ・スプリンコートは、とうに死んだのだ」
イケメンお兄さん、絶句した。
私は続ける。
「ここにいる私は、ソードと出会い、仲間となり、姓を捨て冒険者として楽しく冒険をしているインドラという者だ。当時の私は既に死んでいるので、血縁だった者たちになんの思い入れもない。仕打ちを思い返せば腹は立つけどな。だが私にとって連中は路傍の石よりどうでもいい存在で、だから淡々としている」
「…………」
イケメンの兄さん、私から視線を外しうつむいた後、
「…………そうですか」
と絞り出すように相づちを打った。
しばらくCMします。
危惧していた以上に売上が芳しくないようでして。
しつこいようですが、2巻ご購入の検討どうぞよろしくお願いいたします!!




