251話 続 聖女たちと遊ぼう!
聖女の護衛の冒険者たち、ピタッと止まっただけでなく、一気に後ろに下がっていった。
「どうした? 武器に手をかけただろう? 攻撃してこい。遠距離だろうが近距離だろうが構わないぞ? 全方位対応し、百倍のお返しをしてくれよう! 何、死にやしない。私は回復魔術も使えるからな? どれほど痛い思いをさせようとも、何度でも綺麗に治して拷問を繰り返せるのだ。すごいだろう? フフフフフ……アーハハハハハ! テンション上がってきたぁ!」
護衛の一人が急に踵を返して逃げようとし、釣られて何人か逃げようとしたので、障壁を展開してやった。
「な、なんだコレ!?」
「なんだよ! 出られねーよ!」
「逃がすと思うか?」
私がつぶやいたら、壁を叩いている冒険者たちがそう白な顔で振り返った。
「遊ぼう? ……こういったトラブルを望んでいたが、なぜかトラブルの方が避けていくのでな、つまらなかったのだ。魔物なんて、近寄ってすらこないのだ。ダンジョン産の魔物がようやく相手してくれるくらいなのだよ。せっかく遊んでくれる獲物が見つかったのに、簡単に逃がすと思うか? だから、遊ぼう?」
おいでおいでしたら、ガタガタ震えて、座り込み、土下座した。
「俺! 俺は! 何もしてません! 逆らいません!」
「俺もです! 奴隷になります! 従います!」
どんどん土下座していくのだが?
そういった展開は望んでいないよ?
「むぅー。つまらないじゃないか。お前等は、相手の実力がわからないバカな冒険者だろう? 私が強いなんてわからないんだから、かかってこい」
土下座した全員がブルブル顔を振っている。
ガッカリしたが、まだ大丈夫。全員の心が折れたわけじゃない。
「……しかたない、人数が減ってしまったが、まだ残ってるな。さぁ、遊ぼう!!」
「お待ちなさい!」
女性がビシ!と立ち塞がった。
「わかりました! 貴方はデーモンね!」
「何を言っている」
私は精神界の者のような雰囲気を出しているのか?
あれほど泰然自若としていないけれどなぁ。
「デーモンの知り合いは何名かいるが、あれほどに常に冷静沈着、未来を見て諦観したりもしないぞ。 私はどちらかといえば享楽的だ」
「私が浄化をします! 援護を!」
「聖女様! かしこまりました!」
聞いていないしー。
なんか三文芝居が始まったぞ?
聖女がちょっとゴージャスな杖を振り回し、いかにも聖魔術を使います、といったポーズで詠唱し始め、高飛車男は一歩だけ前に前進し、大げさな身振りでバッグから何かを取り出した。
「デーモンめ! 食らえ!」
聖水かなんか投げつけられたので、受け取ってそのままお返しした。
「はい、返す」
「ギャッ!」
悲鳴上げているしー。
「ププ、お返ししただけなのに、『ぎゃっ』とか言っちゃってる」
思わず言ったら涙目でにらまれた。
「ふーん、その女の子が聖女とやらか。なぁ、聖女ってなんだ?」
せっかくだから魔術を受けてあげよう。
「デーモンめ! 聖女様を侮辱するな!」
「侮辱はこれからする。いま私は、聖女の定義を聞いている。何をもってして『聖女』というのかを聞いているのだ」
男は聖女をチラッと見て、引き延ばし作戦に乗ってきた。
「……聖女様は、聖魔術を使えるのだ。また、神の声が聞こえる」
「え? 神の声? 本気か?」
……いやいや、疑ってはいけないな。
ここは異世界。
神様はいるかもしれない。
「そうか……神の声が聞こえる、か……。……うん、何事も、決めつけちゃいけないよな。神の声が、聞こえる、か……そうか……。……まぁ、思春期を過ぎると聞こえなくなるかもしれないな。うん、まぁ。…………あまり触れないでいてやろう」
私のつぶやきに、高飛車男が憤った。
「痛々しげに言うな! お主は聞いたことがないからだろう!」
「ほう。では、お前は聞いたことがあるのか」
って聞いたら高飛車男は詰まった。
「ないんじゃないか。……ちなみに、悪名高い勇者も、そういった声が聞こえる病持ちだ」
「病気じゃない!」
私はあわれんだ表情で高飛車男と聖女を見やった。
「うん、認めたくない気持ちは分かる。だから、あまり触れないでおいてやるぞ? ……ちなみに、まだ発動しないのか? ソードは一秒かかるかかからないかで発動するのだが、ソード以外の者はなんでそんなに遅いんだ?」
とにかく、長い。
「冒険者ごときの魔術と一緒にするな! 聖女様の魔術は、高等聖魔術だ!」
とか高飛車男が怒鳴ってきた。
わけがわからん。
「ちなみに、私は待ってやっているのだが。コレ、短気なやつだと八つ裂きにされているぞ? 少なくとも他のデーモンならもうお前も聖女も殺されてるな」
私の後ろにいるお気楽メンバーは、とっくに飽きて作業を再開している。
リョークは、
「まーだかなー? まーだかなー? 聖魔術の、発動ってまーだかなー?」
って歌っているぞ。ラブリー!
私はあくびをしたあと、
「おい、まだかかるのか? 飽きてきたんだが。とりあえず、お前を拷問して暇潰ししてようかな?」
と、わざとらしく拳を鳴らしながらつぶやいた。
「ひっ!」
高飛車な男が後ずさる。
私は逆に一歩詰め寄った。
「さっき小芝居をやってただろう? お前が時間稼ぎをしないと、私が聖女をやっつけてしまうんだろう? デーモンだと思ってるなら、デーモンらしい魔術でも使って聖女をいたぶるか。王都ダンジョンの最下層にいたデーモンの魔術でも真似してやろうかなー。アレは大抵の者は死ぬらしいが、聖女なら耐えられるかもしれないものな!」
無音・無光・無重力の空間魔術のことね。
聖女は聞いているのか、詠唱が止まって震えはじめた。
こちらは気にしないで詠唱を続けなさい。
高飛車男、小芝居を再開するらしい。私に怒鳴ってきた。
「やめろ! 私が相手だ!」
……で、かかってくると思ったら。
「冒険者共! かかれ!」
ってお前が来ないんかーい!
思わずツッコみそうになったぞ。
だけど、誰一人かかってこない。
冒険者たちはおびえた顔で私を見つめているだけだ。
私は肩をすくめて、冒険者たちを煽った。
「どうした? かかってこい。Sランク冒険者パーティの実力がどれほどなのか、知る良い機会だぞ? 今のところ、私を傷つけた者は一人もいないのだ。誰か試してみないか? 王都ダンジョンのドラゴンのブレスよりもすごい何かを私に当てられたら傷つけることが出来る、かもしれない」
すると、残っていた冒険者たちが一斉に武器を捨てて平伏した。
なぜだ!?
高飛車男がわめいた。
「は、ハッタリだ! ドラゴンのブレスを受けて、無傷の人間などいるわけがないだろう!」
……さっきから、何を言っているのだコイツは。
「お前、私をデーモンだと言ったソイツに同意しただろうが。なのになんで人間前提で話をしてるのだ。矛盾に気付いているか? ……つまりは、お前自身は私を人間だと思っている、が、聖女と口裏を合わせて『デーモンとして殺す』ことにしたのか」
高飛車男がギクリ、と体を揺らした。
その態度を見て、私は納得したようにうなずく。
「なるほどな。今までそうやって人殺しを正当化してきたのか。さすがクズだな。バカでクズだな、聖女というのは」
「違う!」
高飛車男は憤って否定してきたが、それすらうそくさい。
私は鼻で笑ってやった。
「私とソードは大抵の魔術を使える。つまりは聖魔術も使えるのだ。あとは神の声が聞こえると言い張れば、私もソードも聖女とやらになれるというわけだ。……が、神の声が聞こえる、などと言い出すのは正常な精神では無理だな。よくもまぁ、恥ずかしげもなく言えるよな……。その精神の図太さと痛々しさだけは、賞賛しよう」
そう言ったら、聖女がうずくまって泣き出した。
高等聖魔術はどうした?
「……。おい、早く発動しろ。随分待ってやってるんだぞ? いい加減飽きてきたので、拷問して遊ぶ」
「ひっ!」
私の言葉に高飛車男が短く悲鳴を上げて後ずさった。
「私はデーモンなんだろう? なら、それらしく振る舞おうじゃあないか! 彼等は精神界の者、それがどういったところかは行ったことがないのでわからないが、つまりは精神攻撃が得意ということだな。 よし、私を見た途端に頭を低くどころか地面に頭をめり込ませ土下座するほどに心を折ってやろうではないか!」
私は指をパチン、と弾くと、矢のような雹を天から降らせる。
もちろん、指パッチンに魔術的意味はありません。カッコいいからやりました!
「ひっ!」
全員が凍りついた。
「か、神だ……。神の御業だ……」
悪魔だ神だとめまぐるしく意見が変わるな。
「うまく避けないと、脳天から刺さるぞ? さすがに即死の場合は治せない。私は神ではないからな。……では、頑張れ」
指を鳴らすと、鋭い雹が降ってくる。
全員が、障壁をたたき始めた。
「助けてくれ!」
「お願いだ!」
そんなんで障壁が破れるワケないじゃんか。
……と思ったら。
ドーン!
と障壁の破れる音がしてビックリし、そちらを見たらソードが仁王立ちしていた。
…………。
わ、私は悪くないもん!




