195話 これからも、今までどおりで〈ソード視点〉
ソード視点です。これにてこの章は終わります。
〈ソード〉
インドラが、俺を止めた理由はわかっている。
何より俺のためだ。
俺がプリムローズを理由もなく殺したなら、俺は捕まるだろう。
さすがにSランク冒険者の俺を処刑したりはしないだろうが、俺をいいようにする理由付けが貴族たちに出来る。
罰として、拠点を含めて全財産没収。最悪、貴族どものカモにされ、王都のダンジョンにずっと籠もらされて延々と金稼ぎさせられるだろうな。
インドラがそれを是としないのは明白だし、シャドを『味方』という名の下僕につけたインドラは、どんな手段を使っても俺を助けるだろう。
――そもそもインドラは、そういう面倒を避けるタイプじゃない。
やりたいようにやり、敵対したら叩き潰す。
俺にもやりたいようにやることを勧めてくるが、それは俺がすぐにくだらねーことを考え込むからだ。
今回、インドラが『俺のやりたいこと』を止めたのは、考え込んだ俺の酒量が増えるからだろうな。
俺が人死にに忌避感があるのをインドラは見抜いてる。
別に俺だって、依頼を受けたら人だって殺すし、今まで人を殺したことがないわけじゃない。
後悔だってしていない。でも、そのことに苛まれる。
――それでも俺は、インドラのためなら人殺しだってする。
インドラに酷い仕打ちをしてきた連中を、皆殺しに出来る。
でも、ソイツらは人殺しをしたわけじゃねーし、インドラに酷い仕打ちをした、ってだけで何の罪もねぇ。
それでも俺は殺す。
殺したことに後悔はしないが、罪のない連中を殺して、インドラみたいに平然としていられる俺じゃない。
それを、インドラは知ってるから止めた。
言葉だけじゃなくて、俺を一番に思ってくれてるのは、インドラだ。
――だからこそ俺は、本当はプリムローズを殺したかった。
インドラの心の傷を浅く見積もっていた、過去の罪滅ぼしも兼ねて。
インドラと並んで歩いていた俺は足を止め息を吐くと、インドラを見た。
「……さっきは悪かったな。窓を割ったのはお前だろうが、事情も聞かずに怒鳴っちまってよ」
インドラも止まり、目をパチクリさせて俺を見る。
その後、見事なふくれっ面になった。
「……なんだよ?」
なんで謝ったのにふくれっ面するんだ?
俺が戸惑って聞くと、インドラはプイと横を向いた。
「お前らしくない。お前は、そんなふうに私のやることに納得するようなやつじゃないだろう。私が悪くないのに拳固を落とすやつだろう。お前は、それでいいんだ! よけいなことを考えず、理不尽に私を怒っていればいいんだ!」
え。俺の評価って、そんななの?
……確かに叱るけどよ、やりすぎだからだよ。
俺が『手加減』ってモンを教えなけりゃ、誰がお前に教えるんだよ。
「……俺は、お前のために叱ってるんだぜ?」
お前をそのまま放っておけないからだぜ? お前が闇に堕ちてほしくないからだよ。
お前は襲ってくるやつを返り討ちにしたいんだろうが、手加減知らずのお前が惨殺して、もっと面倒なことに巻き込まれてお前を慕ってる連中までに波及したら、いくらお前だって後悔するだろう?
お前が本気で怒っていて好きにしたいなら俺は止めないし後始末だけするけどよ、お前が面白半分でやらかしたことの代償で、万が一お前の大切なものが傷つけられたとき後悔して泣くような目に、お前を遭わせたくねーんだよ。
「わかってる! から、言わなくていいんだ! だいたい、お前がツッコミを入れなければ、私のボケが光らない! だから、お前だけが私を叱ることが出来るんだ! 〝部長〟は〝両さん〟を叱るものだし、〝ナミヘイ〟は、〝カツオ〟を叱るものなんだ! 見放されて叱られなくなったら、〝両さん〟や〝カツオ〟が悲しくてさみしい気持ちになるだろうが!」
ふくれっ面で横を向いたままだ。
…………何言ってんのかさっぱりわからねーけど…………。
しばらくインドラを眺めたあと、脇に手を突っ込んで抱き上げた。
「なにをする!? 下ろせ!」
珍しく、インドラが赤くなってバタバタ暴れた。
俺に蹴りをかましてくる。
「暴れるなって。……んじゃ、これからもキッチリ指導していくからな。嫌ならそろそろ手加減を覚えろよ」
「いいから下ろせ!」
バタバタ暴れるインドラは、小僧っぽさがあってかわいかった。
長々と引き延ばしてすみませんでした。
これにて学園編を終わります。
この学園編、特にお待たせしていた後半に、インドラのいじられがめちゃくちゃ多かったのでした。インドラのいじられを好まれない読者様が多いようだったので、書き直しを決意した次第です。
スカーレットの人気が上昇して良かった……。
次から新章に移ります。拠点に帰りますよー!




