190話 英雄の一閃
いよいよ相方が登場です!
……と遊んでいたら、ソードが来てしまった。
「インドラ! お前、また何かやってるだろ!? 窓を壊したのお前だな!?」
チッ。嗅ぎつけるのが早い。もう現れてしまったか……。
「……まだ拷問にかけてないのに、むしろこれからがお楽しみタイムだったのに」
「「「え?」」」
多数聞き返してきましたが、独り言なので気にしないで下さい。
「違う。これは、『スカーレット嬢vsプリムローズとその取り巻きたち』の舞台だ。私は、スカーレット嬢の弁護をしていただけにすぎない」
「「「「「え??」」」」」
私の返答にもっと大勢が疑問視したが、私の認識はそうなの!
その言葉で、ソードがピタリと止まった。
「…………プリムローズ?」
「あぁ。自分で転んだのを、また誰かに責任を押しつけようとしたらしくてな。今回はスカーレット嬢が選ばれた。取り巻きの一人で騎士団長の息子とかいうやつが、えん罪を組み立て偽の証人を立て、さらにスカーレット嬢に暴力を振るおうとしたので、手を焼いてやった。そして、握ったまま、皮膚も筋肉も癒着させたので、もう剣は握れないどころか手を開くこともできないだろう」
全員がギョッとして、ついでに筋肉達磨もギョッとして自分の手を見た。
「手が……手がぁ!」
「うるさい。お前、さっきの威勢はドコに行った。ソードが来る前までは元気よく吠えていたじゃないか。それよりも、スカーレット嬢に謝れ。愛しいプリムローズにも言われただろう? 『謝って?』って」
……と話してる隙に、ソードが壇上に歩いていった。
「ソード教官!」
我が妹、なんかウルウルした目で歩み寄るソードを見ているが。
…………ソードも駄目男のケがあるのか?
すぐ悪意を拾ってへこむところかなぁ。
酒飲みのところだろうか。
うーむと悩んでいる間にソードがプリムローズの前で立ち止まる。
「……お前が、プリムローズかよ」
「はい! お兄様が、いつもお世話になっております! ……私、ぜひ、お話ししてみたかったんです。お兄様が、ご迷惑をおかけしてませんか? お屋敷にいたとき、お兄様ったらよく粗相をして私を困らせたり、お父様によく叱られたりしていたんです」
オイ? 記憶が捏造されてるぞ? お前の父親が私を怒鳴っていたのは確かだが、私は一度も粗相をしたことなどないしお前が困ったこともない。粗相したのは全部お前で、迷惑をかけてたのもお前だろうが。
「――あぁ、知ってるよ」
ソードが、プリムローズを見ながら怖い感じに笑った。
「俺は、インドラが七歳のときに出会ってる。屋敷の様子も知ってるよ。出会ったときのインドラは、伯爵令嬢のはずなのに、貧民の小僧と見間違うような格好をしていた。ボロボロの、身体に合ってない平民の作業服、男のように短く切られた髪。……なんでも、髪は、お前が切っていたそうだな?」
「え? ……ええ、そうです! えへへ、下手くそで恥ずかしいです……」
なぜか恥ずかしがってモジモジしだすプリムローズ。
「で? お前の髪は誰に切ってもらっていた?」
「私ですか? お父様が屋敷に職人の方を呼んでくれて、その方に切ってもらっていましたわ!」
シーン。
その言葉で、私の扱いがどういうものだったか、大体の者が察したようだ。
だが、なんだろう? 「よくもコイツにそんな真似が出来たな!?」って驚愕の表情に見えるのは、気のせいかな?
「で? プリムローズ・スプリンコート伯爵令嬢。アンタは、綺麗なドレスを着て、髪を専門家に切ってもらい、父親に甘やかされ何不自由ない暮らしをしていた。だが、アンタの姉であるインドラ・スプリンコート伯爵令嬢は、妹の手でざん切りに切られた髪で、見窄らしい服を着て、裏庭で特訓をしていた。屋敷に戻ってきた父親から全てを取り上げられ、非常に不自由な暮らしを強いられ、とにかく屋敷を出ることを目標に、ひたすら自分を鍛え、今の強さを手に入れた。
……俺はな、当時、そこにいたから、知ってるんだよ。――お前等スプリンコート親子の、インドラへの仕打ちをな!!」
…………びっくりした。
ソードが本気で怒っている。
そして、本気で怒ったソードは、私に匹敵するくらい……いやそれ以上の魔素を纏っていた。
私のふんわりさんを持ってかれている。
プリムローズも、そして王子や腰巾着でさえも、本気のソードに凍りついて、竦んでいた。
周囲の全員も、凍りついて息を飲む。
「……あぁ、ようやく会えたな、プリムローズ・スプリンコート伯爵令嬢。アンタとアンタの父親をインドラが手にかけないのが無念で不思議でしょうがないんだが、なら、俺が手にかけてやると誓っていたんだ。ここを出るとき始末する予定だったが、今出会っちまったな。ま、多少寿命が縮まっただけの話か。――あばよ」
ソードが抜き打ちで放った。
――一閃を、受け止めた。
「…………インドラ…………」
ソードが、目を光らせて私をにらみつけ、唸る。
「おい、落ち着け。何を興奮してるんだ」
……本気のソードの一撃は凄かった。
私でもかなりの本気を出さないと木刀が砕けるところだったな……。
――って、余波で後ろの壁が斬れてるぞ! ソード、本気を出しすぎだ!
「……お前は!! なんでコイツを許すんだよ!!」
おまけに怒鳴られたし。
「お前に出会えたからだ」
ソードを真っ直ぐ見て言った。
「…………俺に」
私はソードを見ながらうなずいた。
「お前に出会えた。それは、普通に暮らしていたら、父親がアレでなければ、そしてソイツが来なければ、絶対になし得なかった奇跡だ。ここまでの知識が手に入れられたのも、誰からも愛情が得られずに死にかけたからだろう。でなければ膨大すぎて思い出すことはできなかったろうからな。それは全て、今ここに至るまでの必然の奇跡だ。私は、今、幸せで、それはお前と出会えたからだ。普通に貴族令嬢をこなしても良かったのだろうが、籠の中の鳥は私には無理だろう。だから、良かったのだ」
ソードの怒りが解け、魔素が薄まる。
「お前が私と出会って、パートナーとなったことを後悔しているのでなければ、私がスプリンコート伯爵令嬢のままが良かったと思うのでなければ、もう拘るのはやめてくれ。私は、お前のパートナーになって、良かったのだ」
「……っ」
ソードが剣を引き、しまった。
なんと! 書籍化されて発売されることになりました!
――本当は前回の投稿と同時にお知らせしたかったのですが、トラブルが発生。編集さんに相談した結果、公式には載っていないけど告知解禁の許可を得て、夕方に近況報告と前書きを追加した次第でした。
……と、いうわけで!再度告知させていただきます!
11月10日火曜、カドカワBOOKS社より発売です。
イラストレーターは又市マタロー先生です。
無事、書籍発売の運びとなりましたのも、ひとえに応援して下さっている皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!!
書影や販促の結果等、情報が入り次第近況報告でお知らせします!