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182話 スワン君からの手紙 二

全9話でしたが、短すぎるとの指摘を受けまして全3話に編集しました。安易にまとめてしまい申し訳ありません。

『 ○月×日

  廊下を歩く理由を聞いてみました。

  そうしたら、驚きの答えが返ってきました。

 「貴族に絡まれたいから」だそうなんです!

  あんなに威張り散らして周りに鋭い視線を送りながら歩いてたら、誰も絡まないと思います!

  少なくとも僕は、絶対に、声をかけたり出来ません!

 「か弱そうな美少年が鼻持ちならない貴族に絡まれるといったありきたりの話を体験したい」って言ってましたが、自分のことを〝か弱そうな美少年〟って表現するインドラ君が凄いと思うし、確かに綺麗だけど〝か弱そう〟ってどうして思ったんだろ? とか思うし、鼻持ちならないのは貴族じゃなくて君の方だと思うけど、とも思うけど、怖くて言えません。


  そんな会話をしてたら、エリアス王子とジーニアス様に目をつけられてしまいました。

  お願いだからインドラ君、大人しくしてて! っていう祈りも虚しく、インドラ君は「学園最強の座を目指してる」と学園で一番強い王子に向かって言ってしまいました。

  呆れたジーニアス様が「学園最強の者を知らないのか?」と聞いたら、「ソード教官」と答えるインドラ君。

  王子のこめかみがピクピク痙攣してるのを見て血の気が引きました。

  王子、怒ってます。

  ジーニアス様が「学園最強はエリアス王子だ!」ってハッキリと言ったら「接待試合とかいうヤツだろう?」って止めを刺したので、もう駄目だと泣き出してしまいました。

  ……結局、王子がインドラ君に決闘を申し込み、インドラ君は「ソード教官がいいって言ったら」と気のない返事で受けました。

  おまけに、「卑怯な手を使うな!」という台詞に対して「お前は使っていいぞ?」って返しました。

  僕、もうこれ以上ここにいたくない、って痛切に思いました』


 シャドは読み終えるとこめかみを揉んだ。

「…………まぁ、いいでしょう。エリアス王子は王の即位に反対していましたし、陰で〝簒奪者〟などとほざくうつけ者ですからね。彼女と潰し合ってくれればちょうど良いでしょう。下手に友誼を結ばれるよりはマシですね」

 呟いて、ため息をついた。

 彼女に弱味などないのでは?

 貴族の学園において、貴族の方が恐れを成して目線を避けるような平民など普通はいない……というか彼女だけだろう。

 ソードですら貴族の学園では苦労していたというのに。

 当時のアレクハイド王弟が後ろ盾になったので、表だっての嫌がらせがなかっただけだったのだ。

 後ろ盾もなにもないインドラが、貴族よりも威張り散らして王子すら舐めてかかっているとは……。

 もう一度ため息をついた。

「……とにかく、次の報告を待ちましょう」


          *


『 ○月×日

  ソード教官は王子との決闘を許可したようです。

  剣術の時間に決闘が行われました。

  でも、直接闘うのは禁止され、巨大な腕の切れ端が取り出されました。

  気持ち悪いです。

  ソード教官は〝サイクロプスの腕〟と言っていました。

  すごく固いそうですが、確かに見るからに固そうです。

  でも、あまり見たくはありません。

  王子は、さすが王子です。

  全く動じてません。

  ジーニアス様もです。

  もちろんインドラ君もです。

  インドラ君は、ソード教官から手渡された剣を渋々受け取り、気のなさそうな素振りで、軟らかく煮た野菜でも切るかのようにスッと切りました。

  王子は……かっこよく構え、振り下ろしました。

  お手本通りの振り下ろしです。

  でも、物凄い音が響き、剣が弾かれました。


  …………あれ?

  固いんですかね?


  インドラ君は柔らかいものを切る感じでしたが……。

  剣を交換して、場所も交換しました。

  インドラ君が切ったところが柔らかかったと王子が言ってます。

  たぶん違う、と思ったのは僕だけではないと思います。


  インドラ君は人間じゃないかも、と、僕は思いました。

  少なくとも僕と同じ人間とは思えません。

  それなら王子もジーニアス様も僕と同じ人間とは思えませんけれども……。

  インドラ君は別の生き物のように感じます。

  だから「すごく固い」って言われてて、王子ですら斬れない魔物の腕を、インドラ君なら斬れる、と、そう感じました。

  そしてそれは当たっていて、王子はインドラ君が斬った辺りでも斬れず、インドラ君は簡単に切り、その後鮮やかな手つきで皮剥きしてました。

  王子が使うと刃こぼれしてしまうほど固い魔物でも、インドラ君なら食事用のナイフでも刃こぼれを起こさず切れる、とソード教官が言いました。

  それで王子も納得したようです。

  …………剣では。


  次の、魔術の時間でもまた決闘が起きました。

  王子は魔術でも学園一ですから、魔術なら勝ち目があると思ったのでしょう。

  僕は絶対に無理じゃないかな? と思いましたけど。

  あんなに自信満々のインドラ君が魔術が使えないとかあり得なさそうだからです。

  実際、ソード教官は止めに入り、最終的に匙を投げました。

  「死んでも知らない」って物騒なことを言ってます。

  王子、大丈夫でしょうか。


  インドラ君は初手を譲るようで、呑気に佇んで、ソード教官と話しています。

  どうやらソード教官は短縮詠唱の遣い手だそうです!

  僕、そういう人がいるとは知っていましたが、ソード教官がそうなのですね!

  尊敬して見つめていたら、王子が詠唱を終えて得意の水魔術が発動しました。

  まともに喰らったらさすがのインドラ君でも大怪我するんじゃないかな……と心配したのも束の間、魔術が消えました。


  「…………え?」


  全員の心と声が一致しました。

  何が起こったのかわかりません。

  ソード教官だけは結果がわかっていたようで「ちなみに、今のはどうやったんだ?」と、インドラ君に聞いています。

  インドラ君は何やら難しいことを言ってます。

  ごめんなさい、理解出来なくて書けません。

  終わった後に聞いたんですけど、やっぱり理解出来なかったです。

  インドラ君はすごく頭が良いみたいです。


  エリアス王子は、ソード教官に頼ったと言ってましたが、絶対違うとみんなが思いました。

  インドラ君は証拠を見せると言い、言った途端にエリアス王子が魔術で攻撃されました。

  僕、何が起こってるのか書いてる今でもわかりません。

  爆発するような音が王子の側で起きて、王子がそれに翻弄されるようにいたぶられてます。

  避けようもなく、王子が爆発音になぶられています。

  呆気にとられました。

  インドラ君が魔術でやっているようなのですが……インドラ君、詠唱も何もしてないのです。

  動作すら、何もしていません。

  なのに、王子はインドラ君がやっているらしき、見たこともない魔術で翻弄されてるのです。

  インドラ君はニッコリと笑って言いました。

 「魔術の時間いっぱいあのままにしておけば、己の身の丈がわかるだろう」

  ……僕は、王子にそんなことを言ってそんなことをするインドラ君に凍りつきました。


  僕、怖いです。


  インドラ君に僕がスパイしてるってわかったら、僕、どんな目に遭わされるのかわからないんですけど。

  本当に大丈夫なんでしょうか?


  ……この後、ジーニアス様がインドラ君に土下座して王子の魔術を止めるように頼み、ソード教官がインドラ君に言って止めさせました。

  ソード教官なら、インドラ君は止められるようですけど、ソード教官は英雄【迅雷白牙】ですよね?

  英雄じゃないと止められない人です。

  それってもう魔族とかドラゴン並みに強い気がします。

  学園に棲むといわれているデーモンよりも強いのではないでしょうか。


  そんな、コカトリスからもおびえられるインドラ君は、学園最強になったと無邪気に喜んでいました』


 シャドは眉間を揉んだ。

 つい眉間に力が入ってしまったのだ。

「…………ソードは短縮詠唱、彼女はその上をいく無詠唱ですか。これは…………困りましたね。しかも、魔術キャンセルが出来るのですか…………。強いのはわかっていましたが…………こうも人間離れしているとは…………」


 手紙を読むのがだんだん怖くなってきた。

 スワンの恐怖が手紙から伝わるのだ。

 王子をここまでコテンパンにやっつけたのは良かったのか悪かったのか。

 ……もしも送り込んだのが自分だと王子にわかったら、連中に粛清の口実を与えることになるかも知れない。


「…………よし、わかりました。とにかく依頼を完遂させてもらいましょう。どんな結果であれ結果を出せばそれでよし。そこで速やかに学園から去って貰えばいいのです。彼にはもう少し頑張って探って貰いましょう。呑気に学園最強の座などを狙っているのですから、スパイされているなどとは夢にも思わないでしょう」

 そう自身とスワンを励ました。


          *


『 ○月×日

  今日はインドラ君の初のマナー授業なので、皆が緊張していました。

  別クラスと合同です。

  そちらは貴族の女性が淑女教育をメインとして受けるクラスで、そのクラスにはエリアス王子の婚約者であるスカーレット様や、いろいろと噂のあるプリムローズ様がいらっしゃいます。

  そんなクラスと合同で、平民のインドラ君とマナーの授業を受けるなんて、どんな罰ゲームなんだろうと皆で悲嘆に暮れていました。

  とにかくインドラ君、暴れないように! お願いだからマナーの教官、優しくしてあげて下さい! と全員が本気で祈りました。


  インドラ君の相手はなんとスカーレット様! 公爵家令嬢です!

  みんなの顔が真っ青です。

  スカーレット様はインドラ君の噂を何も知らないのか動じていません。


  ……スカーレット様はエリアス王子にすら意見をする厳格な方で有名です。

  もちろん王子の婚約者として、しぐさもマナーも完璧な方です。

  何が起こるかわかりません。

  しかもしかも、トップバッターがインドラ君とスカーレット様です!

  もう、僕たちは本気で手に汗を握り祈りました。


  …………そう、僕たちはインドラ君という人をまだ舐めていたのがわかりました。

  どこかで平民だと思っていたのです。

  インドラ君が普通じゃないのをまるでわかっていませんでした。

  インドラ君は、僕なんかよりも、優雅に、そしてスマートに、完璧に、スカーレット様をエスコートし、完全無欠にこなしてみせました。

  最後の最後まで完璧です。

  教官も「エクセレント!」と叫びました。

  エクセレントは初めてです。

  王子にすら駄目出しをする教官なのに……。

  教官が驚いてインドラ君に聞くと、インドラ君は五歳までに男女両方のマナーを完璧に覚えさせられた、ということでした。

  …………そんな人、貴族にすらいないと思います。

  そうして、インドラ君は僕たちを、平民を見るかのような眼差しで見下ろし笑いました。

 「鍛錬が足りない、貴族に胡座をかいている」と言い放ち、スカーレット様をエスコートして歩き去ります。

  ――凄いです。

  インドラ君は本当に平民なんでしょうか?

  僕にはそうは思えません』


『 ○月×日

  インドラ君は、この間マナーの授業でご一緒したスカーレット様と気が合ったようです。

  スカーレット様からお茶に招かれ、側近に困っていたので僕が名乗り出ました。

  無邪気な笑顔でお礼を言われると、到底怖い人には思えないのですけど……。


  インドラ君は、訪問の挨拶から完璧でした。

  この人に弱味なんて絶対無いと思います。


  話している内容はちょっと理解出来ないようなことが多かったです。

  ですが、食材のようでした。

  コレはどの町で手に入る、というようなことを話していました。

  インドラ君の知識の豊富さは、スカーレット様ですら舌を巻くようでした。

  スカーレット様も、噂では領地の発展にかなり貢献したと言われていましたが、そのスカーレット様ですら、インドラ君にいろいろ尋ね回答を聞いて、驚きの余り素が出てしまったくらいでした。


  目撃してしまった僕がスカーレット様から虐められないか不安でしたが、気になされていないようでホッとしました。

  スカーレット様も、インドラ君は到底平民には見えない、まるでエリアス王子と会話しているようだと言ってました。

  お二人はとても気が合っているようです』


          *


 シャドは、両こめかみを揉んだ。

「困ったことになりましたね~。スカーレット・ショートガーデと気が合ってしまいましたか。噂では聡いがかなり気の強い少女だと聞いていたのですが……。彼女とソードが繋がっていると判明したら、恐らく公爵が乗り出してくる気がします、というか乗り出してくるでしょうね。公爵が変わってないとしたら、ショートガーデ公爵家が彼女の後ろ盾になってしまいそうです」

 顔を上げ、視点の合わない目で遠くを見る。

「……本当に、この依頼は失敗でしたね。こうなったらなんでもいいですから何か得るところがほしいものです。むしろどんどん彼女に有利な展開になってきましたか。全く……弱味ってないんですか?」

 もう何度目かわからないため息をついた。


『 ○月×日

  スカーレット様とインドラ君はどんどん仲良くなっていくようです。

  今度はインドラ君がお茶に招いているようですが、自室ではなく別の場所でお茶会を開いているようです。

  スカーレット様とインドラ君はすれ違うと必ず挨拶して笑顔で会話をされていますので、スカーレット様の方もインドラ君のことを嫌っても怖がってもいないようです。

  凄い方だと思いました。

  やはり、王子の婚約者の方って精神力が違いますね。


  たまに、噂のプリムローズ様とも挨拶を交わしています。

  インドラ君は嫌そうな顔をしてますが、プリムローズ様は笑顔です。

 『お兄様』という単語が聞こえてきたことがありますが、気のせいでしょうか?

  プリムローズ様も凄い方だと思いました。

  ……ひょっとしてインドラ君は女性には優しい方なのでしょうか?


  あと、最近気が付いたのですが、インドラ君は朝が早いです。

  僕が起きるずっと前に起きているようです。

  そして、僕が目を醒ますまでの間に何かしているようです。

  僕が目を醒ますと既にいない、もしくはもう帰ってきているので行方が掴めません』


          *


 シャドが考え込む。

「女に弱い? って弱点ですか? でも、彼女自身女性ですよね? …………まぁ、マナーとして、女性に紳士に振る舞っているということでしょうか。とりあえず様子を見て下さい、としておきましょう。スカーレット・ショートガーデが彼女の弱味となってくれると良いのですが…………。後は、この早朝に何をやっているかを調べて貰いましょう。まぁ、彼女の性格として、それが弱味となるとは思えませんが」


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