18話 謝られたよ(怖かった)
「今日も採取か?」
と、顔なじみになった役人が聞いてきた。
「いや、町を出ることにした」
「……そうか。ま、冒険者ってのはそうだよな。ちょっと早いかとは思うが……。気をつけろよ、お前は見た目女の子みたいにかわいらしいんだから」
……女の子〝みたい〟ってなんだ、〝みたい〟って。
「……まぁいいや。オススメの方角ある?」
「なんだそりゃ? ……そうだな、あっちの方角にある『ラール』って町は、栄えてる。栄えてるってことはギルドの依頼も多いぞ」
「そうか、ありがとう」
歩き出した私に役人が慌てた声をかけた。
「おい⁈ そっちは反対方向だっての!」
「だからさ。……この世界の人間のおすすめと反対のことをするのが正解なんだ」
振り向いて笑いかけ、あとはもう振り返らずに歩いた。
急に、足元が固まった。
どうやら魔術がかけられたらしい。だけどこんなの一瞬で砕ける。
――と、何かが足元に転がった。
「……俺が悪かった! 頼む! 許してくれ! 頼むから! ……ごめんなさい……!」
唖然。
……この世界にも土下座は存在したらしい。
土下座、つーか、足にすがりつかれてる? しかも……泣いてるんですけど、大の男が。
ドン引き。
男が恐る恐る顔を上げてきて、しかも、はい上がってくる感じで上に上にすがってくる。
ゾンビが足元からはい上がるあの感じだ。
怖い。
「ごめんなさい……!」
背中がゾワッとして、思わず顔面平手打ちした。
「キモい!」
「……人が謝ってんのに開口一番『キモい!』はないだろ!」
「キモいから離れて」
顔を背けてなるべく離れようとしたけど、変にガッチリつかんでくるし押してもまとわりついてくる。
「キモい」
「連呼すな! 許してくれたら離れてやる!」
「…………何を許すんだよ、私は」
「だから……! 違うんだ、弁解させてくれ。俺はお前の信頼を裏切ったワケじゃない! 町に来てほうり出すつもりなんざなかった! ただ、俺はSランクで、冒険者なりたてのお前と組んでも冒険のイロハを教えられないんだよ!」
「あぁ、自称『偉い人』だったっけ」
「自称じゃねえ! 痛い人みたいに言うな! Sランクってのはお前は知らないだろうが……」
「想像としては、Aランクの中でも実績と実力を認められた者が得るランク、と言ったところか?」
「その通りだよ!」
ふーん、やっぱあるのかSランク。
「……だから、近いランクのやつとまず組んで、冒険者ってのはどういうものかっていうのを勉強させる手はずだったんだ。この町のギルマスは気安い仲だからある程度無理が利く。根回ししといたんだよ!」
――曰く。
ここに連れてくる 〉〉 一旦ソードと別れてギルド推薦の年の近い女の子たちとパーティ組む 〉〉 キャッキャウフフしつつ、初心者ならではの失敗を重ねながら依頼をこなす 〉〉 場数を踏んだらまたソードと組み直す、って予定を立ててたそうだ。
「……それに、お前、大人ばっかりに囲まれてたからなんかこまっしゃくれてて、変に大人ぶってるだろ? 同年代の友達もいねぇし、ついでに友達も作れるだろうし、って、そう考えてのアレだったんだ!」
…………なんと言えばいいのだろうか。
「…………まず最初にツッコむとだな。友達というのは、あてがわれて作るものじゃない。自然と『なる』ものなんだ。自分がボッチで友達がいないからと、テキトーにあてがわれても気が合うかどうかわからないだろう。現に腹違いらしい妹とは気が合わなくて全く友達になれそうになかった」
「お前まで『ボッチ』言うな‼」
あ、誰かにもう言われたみたい。
「あとだな、それならそうとなぜ言わない。お前がやったことは近くの町に出かけた事すら無い貴族令嬢を、配下町どころか全く知らない町に連れてきて、そこでほうり出しただけだ。なら私は、誘いを断り後二年かけて近くの町で下調べを行ったりし、万全の体制を整えてから一人で出て行った。お前がナビしてくれると思ったから準備不足のまま二年早めて出たのに、何も知らされずほうり出されてどうすると考えたんだ」
「だから失敗したって反省したし、俺が全面的に悪かった! ごめんなさい!」
なるほど、それで「許してやれ」だの「反省してる」だのという話が出たのか。
つーか、知らないのにどうしろと。
「……なんでギルドマスターが『許してやれ』と言ってきたのか、最初に応対した受付嬢が『紹介したいパーティがいる』だの言ってきたのかは理解した。――それでだ、なんでお前は私に直接『知人がギルドマスターをやっているギルドに行く、そこでまず紹介された子たちとパーティを組んで、冒険のイロハを教わりなさい、先方にちゃんと話は通してあるから大丈夫、年の近い女の子たちだから友達になれるかも』って言わなかったんだ?」
ぐっと詰まった。
「……テンパったんだ!」
はぁ?
……と、立ち上がって抱きついてきた!
「……俺だってなぁ、そこそこお前を気に入ってんだよ! 言わせんな! ……なんで初歩の初歩教えるためにお前を低レベルのパーティに入れなきゃなんねーんだよ! 別にそんなん知らなくたってよ、お前はもうSランクに匹敵する力持ってんだから俺とずっと組んでたっていーじゃねーかよ‼ でも、あのギルマスが『俺がいざいなくなったときにお前一人でやってけるのか』ってこぼしたから、しょーがねーからその前に一芝居打ったんだよ! で、何て切り出していいかわかんなくなってテンパって変なこと言ったんだよ!」
何だソレ?
意味がわからない。
異世界語の解釈間違えただろうか。
「……やっぱ俺が面倒見る」
「元々誰にも見られてない」
「今まで俺が見てただろうが! 俺はお前の師匠だろうが!」
「はぁ? 何を言ってるんだよ? 私はお前と交換条件でいろいろ教えろと言ったが、弟子にしてくれなんて頼んだことは一度も無いし思ってもいない。大体お前は私の何の師匠のつもりだったんだ? 私の武術も魔術も全て我流だろ。お前の型や魔術を見せてもらったが教えを請うたことなど一度も無いし真似してもないだろが。そもそもやり方が違いすぎて参考にすらならなかった」
「お前! ヒドイ!」
そう言いながらますます抱きついてきた。
いい年したオッサンが……子供か。
「わかったわかった。ちゃんとした理由があってほうり出したわけじゃない、作戦がうまく行かなかったからお前が私のナビをする、そういうことだな?」
「……そうだ」
「理由がわかったから、それならその女の子のパーティとやらに入ってキャッキャウフフしながら教えてもらってもいいが。たとえ利己的な性格であっても少女の方が子供だから仕方ないという理由でオッサンよりもまだ許せる」
「お前! ヒドイ!」
また言われた。
謝ってちゃんと弁解しました。
小説を読んでいると「なんで正直に言わないんだろう?」とか「なんで全部伝えないんだろう」って思うときがあるのですが、照れとか気付いて欲しいとか成長を願ってとかいろいろ理由はあるんでしょうね。小説上では「最初から全部ぶっちゃけたらそれで話が終わってしまうから」でしょうが……。
次はまたソード視点になります。