178話 カイン君と会話しよう
〈???〉
――階段を下りる。
誰もいない、人気の無い階段。
最近、より人気を避けるようになった自分がいる。
……こんなふうにおびえて暮らすなら、いっそ……
考えていたら、急に目の前に人が現れた。上ってくる気配など無かったのに……。
「見つけたぞ、【カイン君】。いや、ここではスミス君だったな」
笑顔で語りかけてきたのは、あの彼だった。
***
プリムローズが最後に語った彼が本命だろう。
ゲーム的に表現するなら、裏ルートに挑むには魔術力が足りないから捕捉出来ないんだろうね。
――ってことで、逆ハー要員じゃないソードは抜かしてスミス君がカイン君だろう。
……でも、そんな子、いたっけなぁ?
首をひねりつつソードに聞いたら『いる』ってことだ。
名簿に載ってるって。
「でかした! 妹の好みの男から見つけ出すなんて、俺は絶対に思いつかないよ。よくやった」
ってなで繰り回された。
「魔術クラス生なのか。凄まじく気配を殺してるな。アサシンになれるレベルだぞ?」
何せ私の感知に引っかからなかったんだもの。ソードの印象にも残らなかったというのだから本当に凄まじいな。
「ただ、捕捉したなら逃げられはしないがな」
ニヤリと笑う。
「ちょっと、いきなり殺さないでよ?」
ソードが釘を刺してきたのでうなずいた。
「目的が分からん。いや、目的があるのかもわからん。とりあえず会話してみて、無害だったら放置しよう。肉体を捨て去らない限りはどうにでもなる」
「うん、ソレ、死んだのと一緒だよね」
ソードにツッコまれたが。
「そうでもない。デーモンが黒幕ならな」
――って会話の後、私が捕捉。
ソードのところへ連れて行った。
……なんか、これから死刑執行されるような顔つきだが……。
「……ちょっと、いきなり拷問したらかわいそうじゃない」
ビクッとスミス君が震えた。
「してないぞ? というか、何もしてない。会話すらまだだ」
と、いうことで会話します。
「こんにちは。君は魔術クラス生だよね? 僕はインドラ。特別クラスの学生さ!」
「なんだその胡散臭い挨拶」
外野、うるさい!
「実は僕、とんでもない悪党に利用されてこの学園に来たんだ! この学園で何かが起こってるから、だって! 何かってなんだろうね?」
スミス君、震えながら首を振る。
「君もわからない? 僕もサッパリお手上げさ! でも、僕とソード教官を利用している悪党は、その『何か』を見つけ出さない限り、この学園から解放してくれないんだ。だから、心当たりに片っ端から当たって砕けてるんだ! 初日に僕に絡んだやつ、王子と側近、スカーレット嬢、スワン君、そして、最後は君さ!」
ここでスミス君の顔を覗き込みながら、聞いた。
「ねぇ君、魔族なの?」
スミス君、見る間に顔色を失い目を見開く。
スミス君をじっと見た。
「うーん、僕、魔族ってもっと強い魔素を纏ってるイメージだったけど、君は違うんだね。それとも、君に取りついてる封印されていた霊が君の魔素を隠してるのかな?」
スミス君、呼吸してないんじゃないかってくらい凝固して目を見開いてる。
そしてしゃべってくれない。
「――本当はね? 君に取りついた霊の除霊は、プリムローズって名前の僕のバカな妹が行う予定だったらしいんだけど、ホラ、僕の妹って、バカじゃん? いっくら光魔術と聖魔術のスキルを持っててもさ、バカには唱えられないんだよ。……というわけで、ソード教官をお呼びしました! 君の除霊は、ソード教官が執り行いまーす!」
じゃーん! と、ソードに手を向けて紹介した。
ソードを見たら切ない顔になってる。
「インドラ、なんかスミス君がかわいそうになってきたから、この辺で止めたげて?」
って……。
いや、彼がしゃべらないから私がしゃべってんじゃん!
――と。
スミス君がブルブル震えたと思ったら、魔素が膨れ上がったぞ!
「お? 本命がお出ましか?」
「つーか、フツーにデーモンじゃね?」
などとのん気に会話していますが、その間も膨らんでる。
……けれど正直、大したことない……王都のダンジョンのラスボスはおろか、私がAランクの試験を受けたときのやつよりも魔素量が少ない。
魔素が形を作った。
どうやら女性形? 儚げなデーモンだな。幽霊というならばまさにそんな感じ。
『…………待って下さい。スミスには、罪はないのです』
かばった!
おやぁ?
悪霊ではなさそうだぞ?
いよいよカイン君判明!
ミステリファンの方が読んでいないことを祈ります……。
ヴァン・ダイン曰く無能の作者でした。