174話 実は大ファンでした!
私、咳払い。
「まぁ、私の役割がカイン君の力の増幅ならば、相手がわからない上に闇魔術の使えない私では相手の力は強くなるわけが無いはずだ。ただ、このままでは埒が明かないのも確かだし、一同を集めて除霊するか。ソードならいけるだろう?」
「……お前、俺をなんだと思ってるの?」
って言われたけど。
え? なんで?
「一人にかけようが百人にかけようが、同じだろう?」
「お前はそうなんだろうね」
って言われたけど?
「うん?」
首をかしげると、ソードがため息をついた。
「……お前に俺が使ってる魔術を説明するのは難しいんだけど、普通は、一人にかけるのと百人にかけるのは、まず詠唱が違うの。あと、忘れないで欲しいのは、お前は体内の魔力を使ってないけど、俺は、体内の魔力で魔術を繰り出すの。百人にかける魔術を使う場合、しかも複数の魔術を同時詠唱なんて、俺、命の危険があるのよ」
マジか。
「でも、できないわけではないんですのね……。さすがは英雄様」
ほほぅ?
スカーレット嬢も英雄の話を知ってたのか。
「私はソードが英雄だと知らなかったんだが、やはり貴族でも知っているのが普通か?」
スカーレット嬢に訊いた。
スカーレット嬢、なぜか困った表情になってる。
「えーと……。私の場合、父が、ソード様の大ファンでして」
「「大ファン」」
ソードと声をそろえた。
「父も、王都攻防戦に参加しました。私は母と避難しておりましたので詳しい話は父から聞いたのですが、なんでも、父は王を逃がすために時間稼ぎで魔族に挑み、間一髪のところを駆けつけた英雄様に助けられたとか……。その凄絶な戦いが目に焼き付いて離れないそうです。まさしく【迅雷白牙】、雷神の如く速く、戦神の牙の如くその一撃は鋭かったと、もう繰り返し聞かされました」
ソードがくるっと背を向けて耳を塞いだ。
恥ずかしいらしい。
「ですので、私がソード様とそのパートナーの方と誼を通じたと連絡したら、大喜びしておりまして。とにかく、なんでも言っていただければ、なんでも用意しよう、と言いつかってますの」
へーへーへー。それはすごいな。そしてソードのファンって結構多いんだな。
「だ、そうだぞ? ソード教官」
「うるさい! 聞こえない!」
恥ずかしいらしい。
*
スカーレット嬢はカレーがお好みらしい。
しょっちゅうディナーに呼ばれたがり、そしてカレーをリクエストされる。
――本来ディナーの場合、侍女が給仕する。
だが、ここは平民の、しかも私が作ったものだ。
毒味はしてもらうが何しろスカーレット嬢がご所望なのはカレー。変わりすぎてて給仕が出来ない。
私が給仕することになる。
なら、侍女も一緒の食卓につけば? って話なのだが、侍女には侍女のプライドがあるので、一緒の食卓にはつかず、食後に衝立を設けてそこで食事をとってもらうことにした。
「ふー、やっぱりカレーは国民食ですね!」
と、満足げなスカーレット嬢。
「いわゆる〝王道の〟カレーじゃなかったが、いいのか?」
「カレーに罪はありません!」
そんなにカレーが好きなのか。
なら、スパイスを全部味見して、好きな組み合わせで作ってみたりとかしたら良かったのに。
……と考えてることを読まれたのか、ずい、とスカーレット嬢が迫った。
「言っときますけど! 私、かなり若くして死んで、転生したんです! 女子大に受かって、これからってときに、駅の階段から落ちて死んだんです! なので、料理とかは全然してません! せいぜいお菓子と、パンは母親が作ってたのを手伝わされたんで、ぼんやりと覚えてたんです!」
ふーん。そういえば、よっぽどの料理好きでもなければ親が作るかな? その辺、あんまり記憶にないなぁ。
…………なぜか唐突に、おかしな記憶がよみがえった。
皿に盛られた、ほぐした蒸し鶏がとってもおいしかった記憶だ。夢中で食べた――?
こんがらがってきたので軽く頭を振り、スカーレット嬢に真顔で訊いた。
「じゃあ、[サインコサインタンジェント]がすらすら解けるのか」
「あ、文系だったんで!」
爽やかに言われた。