172話 苦情は受け付けません
スカーレット嬢にカイン君のスチル情報を聞いた。
美少年で、藍色の髪に藍色の瞳だそうだが、実は赤だそうで。
普段は魔術で誤魔化しているらしい。
……曖昧な情報だなぁ。美少年って……。美少女はわかるんだけど、美少年はわからないのだよ。もちろん、自分が美少女なのもわかってるぞ!
「他に特徴は無いのか?」
「自分が魔族だと知らずに育ちました。乙女ゲームなので設定が緩いんですけど、霊に取りつかれたのは、確か、幼い頃封印された場所をうっかり壊してしまったからだったはずです。でも、どこに何を封印していたのかは、出てきませんでした」
うーむ、となると、その場所を調査することも出来ないか。
「……大体ソイツ、無害なんじゃないか? 何も事を起こしてないだろう? 私以上にやらかしてたなら捕まえる必要もあるだろうが、単にちょっとだけ魔素の濃い男の子、っていうなら放置しても問題が無いだろう。『霊に取りつかれた』といってもプリムローズが除霊出来るなら、もう任せてしまおう。私は非常に! 残念なことに、霊に対して全く鈍感だった。レイスは感知出来るが、霊は現在感知出来ない。出来ないならどうすることもできない」
なんかもう面倒くさくなった。
飽きてきたし、ソードとブロンコぶっ飛ばしてどっかに出かけたいなー。
そもそもさー、拠点でもいろいろほうり出してきたのよ。
一度戻って全部調整して、桜を探しに出かけたいよー。
「そんな、やる気のなさそうな顔をしないでください。確か裏ルートは、下手をすると王国が滅ぶようなことになった気がします」
「別に私は王国が滅んでもいいんだけどな。魔王国に引っ越ししよう、ソード。拠点に帰って、シャールを量産する」
「待って下さい、私は困ります。せっかくちょっとチート出来て、おいしい紅茶とパンが食べられるようになったんです! お風呂の概念も教えて、毎日お風呂に入れるようになったのに、滅びたらせっかくの苦労が水の泡です!」
ビシィ! とスカーレット嬢がツッコんだ。
「私ももう少し思い出しますから、調査を続けて下さい。……あと、プリムローズ様の件ですが……」
苦情を言われそうだったので、ひらひらと手を振った。
「あぁ、苦情は受け付けない。アレは私でも手に負えない。どっちみち別れるか王子が野に下るかだろう。アレを王妃にすると頑張ったら、間違いなく王子は継承権を外されるな」
「…………そうですか」
ん?
なんか暗くなった。
「どうした? 色ボケ泣き虫王子がどうかしたか?」
ジロッとにらまれる。
「……私は、[バラプリ]では、王子推しだったんです!」
「そうか。……それで?」
首をかしげた。
「悪役令嬢になんかなりたくなかったんです! バッドエンド回避に尽力してますが、王子のことも諦めてません!」
らしい。
「私は恋愛のことはわからんので、そうか、としか言えないな。私にとってこの世界はもう二度と生まれてきたくない場所の上、この世界の人間と交わるなど鳥肌が立つほどに嫌なので、どうとも答えようがない」
そう言ったらスカーレット嬢がうつむいた。
「…………そうでしたわね。でも、私は公爵令嬢として良くしてもらいましたので、私自身はこの世界が好きです。王子のことも……王子の婚約者に相応しくなれるよう、徹底的に自分を磨きましたから、そう簡単に諦められません」
努力の鑑だな。
「まぁ、スカーレット嬢に好みのタイプがいるように、王子にも好みのタイプがいて、それがアレなのだろう。どこまで突っ走れるかはわからんが、障害がある方が愛は燃え上がるので、下手にちょっかいをかけずにそっとしておきながら現実を突きつけてやれ。王妃教育とか、王妃教育とか、嫌なら二人で平民になって貧乏生活するしか手はないだろう、とか」
「…………そうですね。本当に、現実を突きつけてくれてありがとうございました」
全然お礼を言ってない顔でお礼を過去形で言われたし。