171話 悪役令嬢参上!
よし、もうこれでおしまいだ。
「では、話を続けよう。――と、その前に。そのお話の方のインドラは、裏ルートでは何かしらの役割を与えられていたか? 私とソードは、その裏ルートに用がある」
スカーレット嬢が考え込んだ。
「……実は、全クリしてないんです。裏ルートは難しくて、すぐバッドエンドになってしまうので。インドラは……全ルートで出てきたことは出てきたんですが、結構引き立て役というか当てられ役というか、まさしく意地悪な腹違いの姉って役割で、でも……重要な役割があったような……」
「では、質問を変えよう。スカーレット嬢、君は何か重要な役割を請け負っていたか?」
ビクン、とスカーレット嬢が跳ねた。しかも顔色が悪くなったぞ。
スカーレット嬢を手で制し、安心させようとした。
「貴女に危害を加える気は無い。私は、自分に敵対しない者には寛容だ。そこは保証するので安心したまえ」
「……でも、知らずに敵対するようなことになるかもしれないでしょう?」
動揺して言う。
「ならないな! 知らずに敵対、など、敵対じゃない。敵対とは、明確に私を敵とみなし、攻撃してくる輩だ」
言い放ったら、安心したようだ。
「…………私は、王子の婚約者で、悪役令嬢という役割です」
とつぶやいた。
「最終的にプリムローズ様と敵対します。プリムローズ様を陥れた様々な陰謀は全て私、と王子と側近のジーニアス様に公表され、婚約破棄され、それを受けて公爵家に泥を塗ったと追い出されます。それが……私の役割です」
「ふむ、ありがちの話だな。となると、私もそのような役割を背負っていたかと思うのだが?」
その言葉にスカーレット嬢がハッとした。
「……そうでした、思い出しましたわ。インドラ様は、闇魔術が得意で、見目良く闇の深いカイン君に引かれます。それで自分のものにするためにカイン君の闇を増幅させたんですのよ。プリムローズ様は姉が闇魔術の遣い手と知り、最初は姉の抑止力となるために聖魔術を学びます。それとは別のところでカイン君と出会い、今度はカイン君のために聖魔術を研さんしていくのです。姉は、妹とカイン君が親しくなるのに嫉妬し、闇魔術に飲まれていきます。……ですが、男になってしまわれたので……」
「男になってない、女だからな。というか、女に戻ろう。そうなると、ちょっと面白いことに……いたいいたい」
横からグリグリやられた。
「……ですので……。申し訳ありません、実はアリバイ工作に使ってしまいました。プリムローズ様が事件に遭われるような時、必ず、有力な方とお茶会や、教官の方に指導を受けたりしております。身を守る証拠として。インドラ様は平民ですけど、王子もジーニアス様も一目以上置かれてますから、インドラ様が言い添えていただければ、王子も引き下がるでしょう、そんな心積もりもありました」
ソードが眉を上げた。……ありがたいけど、いちいち反応されると困るなぁ。
「それくらいは別に構わない。こちらも利用させてもらうからな」
おう揚に言い、ソードを見た。
「お前はピリピリしすぎだ。お互い様だろう? 別に私とお前の関係じゃないんだ。他人とは、利用し利用される。それは、魔物だってそうだろう? うちのかわいい魔物たちは、うちで食事をし、卵やミルクを提供する。当たり前の営みだ」
ソードが息を吐いた。
「確かに、正論だ。俺は、『こちらも利用させてもらう』っつったお前の利用度が怖いけどな」
スカーレット嬢とアン侍女、ちょっと顔が引きつったぞ?
「気のせいだ。――さて、乙女ゲームとやらをやったことないのだが、カイン君はどこで何をやっていた?」
ソードが『まだ続けんの?』みたいな顔をしているが。
「待てソード、これは依頼に関連する話だ。このまま学園にずっと居続けたら冒険が出来ない。私は早急にこの案件を片したいのだ。お前と[桜]を探しに行かねばならないのだー!」
叫んだら、スカーレット嬢が、目を見開いて私たちを見た。
「……そういやそうだったな。だからお前、事を起こしてるのか?」
「当たり前だろう⁈ お前、私をなんだと思ってるんだ! 廊下を歩いてるのだって、学園最強の座だって、全部事が起きないか探りを入れるためだろうが! お前が動けない分、私が派手に動くしかないじゃないか!」
ソードが感心して、なで繰り回した。
「そーかそーか。ホンット『何しでかしてくれてんだこのバカ』って思ってたけど、そういやそうだよな」
「相手の目的がわからないなら、手当たり次第にちょっかいかけるしかない。……しかし、それでも引っかかってこないのだがな。少なくとも学園最強の座がほしいわけじゃなく、気弱そうな獲物を手に掛けて何かの儀式に使うといったわけでもない。美少女の生けにえではないとダメなのか? と思い至ったので、今度は女で行こうかと」
「無理、今更女は通用しません!」
スカーレット嬢がキッパリ言った。
ブスッと膨れたが、仕方が無い。
「……だが、有益な情報は手に入れた。霊に取りつかれた魔族の男子学生の可能性がある、か。だが、あんまり魔素の濃いやつがいないんだよなぁ。魔族って魔素が濃いとかいう話じゃなかったか?」
ソード教官にたずねた。
「確かに、人間よりは魔素が濃いよ。でも、お前と比べると、お前が魔族だって思われるだろうな」
えー……。




