134話 タコ、美味し
勇者になりたくない勇者と逃げ出したいお供の人を見送り、私たちは海の町に居残り。仕入れないとね!
蛸は、皆食べたがらないというので、実演してやった!
外で、一本解凍して、刻んで串焼き。
「え、ダーキングオクトパス食べるの?」って引いてた連中も、匂いを嗅いでソワソワし出した。
ソードはそもそもそんなんで好き嫌いしないので(だって、もっとグロい魔物だって食べるし? ワームの薬だって飲むし?)エールを片手に待機してる。
「ほら、焼けたぞ」
「おう! サンキュ。……すっげーいい匂いだな」
「うむ。ちょっと干したらまた味わいが出るが、これはこれで新鮮でうまいだろう」
私も一本食べてみた。
「うむ! うむうむ!」
おぉ、懐かしい蛸の味! 香草塩としょうゆと両方焼いた。
「ソード、どちらが良い?」
「両方」
って言ういいやつ。
何でもおいしいって言う人だから、いろいろ食べさせたい。おいしいものをいっぱい作りたいと思う。
……いや、料理人としてだよ? 変なフラグは立たないよ? ソードがかわいい女の子だとしても、同じ事を思うからね?
遠巻きに見ていた人たちが、じりじりと近寄ってきた。
「……金を払うなら、売ってやるぞ? ただし、一人一本のみ、エールも含む、だ」
ワーッと殺到してきた。
「落ち着け! 並べ!」
ここで振る舞っても、ソードがたくさん食べても、まだまだたくさんある。なぜなら蛸の足、とにかくデカいから!
バンバン売ってるが……正直、こんなもうけは微々たるものなのでいらないのだが、無料は良くない。
私は、施しは嫌いだ。物には価値があると思うから。金じゃなくとも、情報の提供や歌を歌う、物語を語るなど、目に見えない形の物でも良い、とにかく対価を払うことが重要だと、この世界の私は考えている。ちなみに、別世界の私は気軽にあげたりもらったりしていたので、そういう考えは持ってなかったようだ。
ソードは適当に食べて飲みつつ手伝ってくれた。
「あ! 結構かみ応えががある!」
「すっごい、複雑な味がする!」
「ジュワーッとおいしい汁が染み出す!」
皆が最初は怖々囓り、その後普通に食べ出す。
そして、仕留めた氷漬け蛸をもらいに行く決意を固めたようだ。食べた後、蛸のいる港へ向かう人が多数。
グロテスクだからって食べないなんて変だよね。だって、この世界、もっとグロテスクなもの食べてるじゃん? つーか、魔物肉だって、処理途中はかなりグロいもん!
次は海藻! 私は大の海藻好き、のはず。別世界ではそうだった。
だから、ぜひ仕入れたい。
「うーむ、海の町がもっと近ければなぁ……。私の足なら数日で着くだろうが、冒険者稼業があるので、毎度これを買うために来るのは難儀だ」
「確かにうまいけど、魚に拘る必要があるか? 無けりゃないで済むと思うけどな」
ふるふる首を振る。
「アマト氏も『懐かしい』と言っていただろう? 私やアマト氏のルーツは、海洋産物にあるのだ。元いた世界は、海に囲まれていてな。とにかく、肉よりも魚!海藻!が豊富だった。アマト氏が拠点に無事に辿り着いたなら、やつなら材料さえあれば再現出来るだろうし、出来れば海洋産物を仕入れるルートがほしいな。……そうはいってもしかたがない。当面は買い占めて冷凍保存だ。アイスドラゴン直伝の氷魔術で、永久凍結出来るほどに凍らせよう」
「解凍が大変じゃねーか? お前の魔法って、解除できないヤツだろ?」
ソードが心配してくれた。
――うん、確かにそうかもー。
キーハで大量に仕入れた後、海岸線をブロンコでぶっ飛ばす。
「うん、俺、感動してる!」
夕焼け空の海岸線はとても綺麗だ。
「まぁ、無理に感動するな。……別世界の私は、感動が薄い人間でな、お前が私に思うように、小さなことで感動する人間を羨ましく眺めたものだ。だから、気持ちは解る」
ソードが振り返った。
「……そうなのか」
「今の私は些細なことで感動する。でも、そうでない人間もいると、私自身が知っている。だから、感動しない自分に感想を抱くな。当たり前なんだ。むしろ、こんな些細なことでいちいち感動する私がおかしいのだ」
ソードは向き直り、加速した。
「……おかしくねーよ。お前が正しくて、お前が正解だ。俺は、今、この景色を、お前とブロンコでぶっ飛ばしてることを、すげー気持ちいいって思って、この景色を忘れないって思ってる。今、俺は、感動してる自分がようやく正常になったって思ってる。……一緒に、この景色に感動してるお前と共感出来てうれしいと思ってる」
…………。
「…………うん」
コテン、と、ソードの背中に頭をぶつけた。
夕焼け空はとても綺麗で、ずっとブロンコで走っていたい。地平線に沈む夕日を見てみたい。ソードにも、同じ感動を抱いて欲しい。
それは私の我が侭で、ソードはそれに付き合う義理はない。でも、同じように思ってくれたら、とてもうれしい。
「……だから、私も、お前が私の感動を共感しようと思ってくれてるから、私もお前の感動を共感しようと思ってるんだ」
ソードはすぐ返してくれた。
「お前がうまい飯作ってくれて、面白い玩具作ってくれたなら、簡単に共感出来るよ。今みたく」
「…………。なあ」
「ん?」
「私は、そう言うお前が、私を拾ってくれて、本当によかったと思ってる。突き放されて、本当に悲しかった。でも、それは私を想うためだと聞いて、うれしかった。私は……お前が、私をパートナーと呼んでくれて、とてもうれしいと思ってる」
「…………」
ソードが、さらにアクセルを加速した。
「バーカ! 俺だってそう思ってるよ! バーカ!」
って、叫ぶように言った。風音で聞こえないと思ったんだろう。
でも、私もリョークも、風音をシャットアウトしてボイスを拾えるんだ。
「ソードさん、僕にも思ってるー?」
「ブロンコばっかり構って~」
って、リョークが言い出して、思わず笑った。
〈おまけ:海岸線爆走中の二人のその後の会話〉
――ふと思い出したので付け加えた。
「あ、ソード。ちなみにな。海に向かって叫ぶ言葉は『バーカバーカ』ではなく、〝ばかやろーーーー!〟だからな?」
ソードが黙る。
そして低い声を出してきた。
「…………それはどういう意味なんだよ?」
なんか怖い声で疑問を投げかけてきてるけど。
「『バカ』な『男』って意味かな?」
「ますます意味がわかんねーんだけど。なんで俺が海に向かって『バカ男ーーーー!』って叫ばなきゃなんねーんだよ?」
「お作法なのだ! それが、海に向かって叫ぶ言葉なのだ! あとは海岸線を追いかけっこだな。恋仲の男女がやるものだが。『待ってぇ~』とか言いつつアハハウフフと笑いながら追いかけるのだぞ?」
「……テメェ、アマトが無事拠点に着いたら覚えてろよ? 全部アマトに問いただしてやるからな?」
わぁ。ソードが私の言うこと信じてくれなくなっちゃったー。
勇者を下僕にしたキーハを旅立ちます。
次話から閑話です。
以前、閑話の最後にあったおまけストーリーをこちらの最後に持ってきました。




