120話 勇者が召喚された?<ソード視点>
ソード視点、まだまだまだ続きます。
「インドラ・スプリンコートは、大魔術師であり大魔導師であるというのは本当か? いや、特級回復薬を独学で作成出来るのならば、大魔導師であるのは確実だが」
「うーん……」
俺は頭をかいた。
「俺たちの使う魔術と、アイツの使う魔術は違うんだよ。俺たちは、自分の持つマナを使って魔術を繰り出すだろ? アイツは、使わないんだ。だから、マナ切れを起こさない。延々魔術を繰り出せる」
シャドが凍りついた。
それがどんなにヤバいことなのかわかったらしい。
「あと、アイツは自分が理解している理論で魔術を繰り出すんだ。俺たちみたいに詠唱しない。だから、アイツが理解できない理論で繰り出す魔術は、できなくはないだろうが使いたがらない。……典型的なのは、普通俺たちは、雷魔術や氷魔術を自身から繰り出すだろう? アイツは、天から降らせるんだよ」
シャドの顔色がなくなり、王が目を見開いた。
「もしかして、インドラ・スプリンコートは、神が降臨した者なのか?」
「いや違う。アイツいわく、それが成るには理由がある。その理由でアイツは魔術を繰り出す。……たぶん、理解出来るのは、ダンジョンコア様だろうな。最深部でボスを倒した後、わざわざ招かれて、アイツが使った魔術を教えてくれって言ってきて、見せた途端再現してみせたからな。最深部で使った魔術を見たら、シャド、お前だってあんなこと言わなかっただろうぜ?
まさしく神のような神々しさだった、しゃべらなければ」
――本当に、しゃべらなければ!!
アレクハイドが冷やかすような表情を浮かべた。
「それはそれは、へぇ、そうなのか。……ところでソード、インドラ・スプリンコート嬢とはいつ結婚するんだ?」
「「は?」」
シャドと声を合わせて発声し、顔を見合わせた。
「なんだ? その反応。少なくともスプリンコート伯爵は女たらしだけあってかなり整った顔立ちだろう。夫人の方は知らないが、醜女という話は聞いたことがない。お前も、見た目が変わらな……というか、若返ってないか? お前の見た目なら年齢差を感じさせないだろうし、お前も結婚する気でいるからそれほどにかばい、もてはやしているんだろう? お前が心揺らすほどなのだから、さぞかし可憐な令嬢なんだろうな」
シャドとそろえて手を振った。
「……シャド、お前、アイツが女に見えた?」
「いいえ。正直、女性だと聞いていなかったら女性だとは思えませんでした。女性と聞いていても女性とは思えませんけれども」
「俺も同感。女ってわかってても女だなんて思えないって」
王がいぶかしむ。
「……まぁ、いい。だけど、お前は結構モテるだろう? そのような才能あふれる令嬢を泣かせるような真似をするなよ?」
「泣かねーよ。アイツも俺も独身主義だ。アイツの余生は、自分が作ったゴーレムに囲まれて楽しく過ごすことらしいぜ? 人じゃなくてゴーレムに囲まれて、って言うのが泣かせるよな」
「…………ゴーレムも作れるのですか」
シャドが絶望的な声を出してる。
うん、敵対しても勝てないって、ようやく思い知ったか。
「噂の、蜘蛛型ゴーレムと芋虫型ゴーレムか」
「そう。虫好きだから。でも、変わった形はアレだけだな。馬の代わりに、って作ったゴーレムは、すっげーかっけーぜ! あ、あとこれもだな」
リストバンド型時計を見せた。
「時計の機能もある、リストバンド! これってな、なんと! インドラやリョーク……あ、ゴーレムの名前な、と、離れてても会話出来るんだぜ! さらに! 読み込んだマップも表示出来る! ほーら!」
王城の、詳細なマップが浮かび上がった。
あ、ちょっとまずいか? すぐ消した。
「……ま、あとは生体情報が出るってよ。危険になったらお知らせしてくれるってさ」
ごまかすために早口でしゃべったけど、シャドが目を細めて俺を見た。
「……ちょっと、ソードさん? 今、王城のマップが出ませんでした?」
「気のせいだ。……と、まぁ、いろんな玩具を作ってるな」
「玩具か」
アレクハイドが羨ましそう。
「特にお気に入りは、ブロンコって名前をつけた二輪駆動ゴーレムだな。……っつったらリョークが気を悪くするかもしれねーけど、アレはもうゴーレムじゃねぇ、俺の仲間の一人だ」
なんか、聞いてそうなんで弁解を入れといた。
……つーか、絶対どっかにいそうだよな。
王城のマップが出る、っつーことは、ここにリョークが来てマップ作った、ってことだからよ。
「その、天才少女インドラ・スプリンコートに、見てもらいたいものがあったんだがな……」
アレクハイドがため息をついた。
「なんだよ」
アレクハイドが急に姿勢を正した。
「勇者が召喚された」
「…………は?」
勇者が?
召喚?
「……実はな、勇者というのは、王城内の神殿にある古の魔法陣から召喚されてくるのだ。もちろん、私たちが召喚しているわけではない。というかな、止めたいのだ。その止め方を長年研究しているのだが……芳しくない」
…………マジかよ。
「召喚魔術が発動する前兆として、魔法陣が光り輝いてくる。それはあたかもマナが満ちてきたかのように。実際、そうなのかもしれないが……。そして、魔法陣が完全に光り浮かび上がると『召喚しなくてはならない』。そのまま放っておけば、魔法陣が暴走して、王都が吹き飛ぶ」
……それは、本当か?
「なので、召喚しているんだ。今回は少し早かった。……召喚される方の勇者は、強制的に召喚されるらしい。勇者に選ばれるその条件も謎のままだ。いっそ遷都したのち魔法陣を暴走させても良いとは思うのだが、あの魔法陣は古のものだ。何かしらの理由があるはずで、その理由がわからない限りうかつなことができないのだ」
王が沈痛な顔で語る。
――文献からは『魔王を倒す者を呼び出し』の一部分のみしか読み取れず、なぜ魔王を倒さねばならないのかもわからないし、魔法陣を止める術もない。
『その理を覆すと滅びる』と、それのみ書かれているだけ。
だから、勇者には気の毒だけれど続けるしかない。止める方法がないから。
魔王が勇者に倒された実績もなく、そのことによって魔王自身が王都を襲うこともなく、止めるだけの理由もなく続いてきた。
「……ただなぁ……。勇者がお前のような者だったら良いのだ。ほどほどの人格者で、力におごらず誇らず、弱き者を助ける義きょう心を持ち合わせている人間が勇者となれば、英雄と勇者が等しいものになる。……だが、現実の勇者は……」
ため息をついてる。
まぁ、気持ちは分かる。
今までの、『勇者』と呼ばれる人間は、結構問題児が多かった。
歴代もそうらしいし、俺がガキの頃にも選び出されてたけど……俺は絶対、二度と、関わりたくない! そう思わせるやつだったよな。
勇者に選ばれて天狗になってるのかと思ってたら、どっかから召喚されて現れてるのかよ。
「今回は特にひどい。しばらく王城で訓練させていたが、問題を山のように起こし、早々に出立させた。……供の者は、ほぼ贄と同義語だ。事情を抱える者に、多額の報償を支払うことと引き換えに勇者についていってもらっている」
うわー、重い話をしてるぜ。
「で? その、ろくでもない勇者生産魔法陣を止めたいから、インドラを貸せ、ってことか?」
「神が起こすような魔術を使える者になら、分かるかもしれないだろう?」
――確かに、アイツなら分かるだろうけどな。
ようやく本題です! 異世界のお約束ネタ、勇者召喚。この世界では勝手に呼ばれるそうです。
長めになるのでソードの回答は次の話で。




