118話 別室に連れ込まれたし<ソード視点>
ソード視点、続きます。
個室に案内され、人払い。
騎士団長は、護衛すると頑張ったが
「英雄に対し、失礼だろう」
で、扉の外で護衛、で妥協した。
「やれやれ。お前と話すのに、これだけの手間がかかったよ」
途端にガラリと口調を変えてきた。
俺は椅子で伸びる。
「勘弁してくれよ……。俺からは話すことなんてないし、話したくない」
「そう言うな。お前だけ冒険者を楽しんでるんだから。冒険者に飽きたら、俺の側近にならないか? 近衛団を作って団長にしてやるから」
「お断りだ。もう相棒も見つけてパーティ組んだ。近衛団の団長よか良い暮らしをしてるのに、なんで格を落とす必要があるんだよ」
陰険ドS野郎がピクリと眉を上げる。
「シャド、そう突っかかるな。……お前、この間ソードのところから帰ってきてから変だぞ?」
フーランド王、改め、アレクハイドがいぶかしげにシャドを見た。
「俺の相棒とやりあって、負けて帰ったからだろ」
「負けてない。子供と喧嘩するほど幼稚じゃないだけだ」
珍しく、感情をあらわにした声を出した。
「ホント、お前たち、出会っちゃいけない二人だったな。とばっちりで王様が王城もろとも消されるとこだったんだぞ?」
「は?」
アレクハイドがポカンとした。
「俺の相棒、ドSなの。拷問が大好きなドS。そのドSちゃんに、陰険ドSのシャド君が、言っちゃいけないことを言って、煽りスキルMAXの相棒にコテンパンに言い負かされてきたんだよ。そのせいで俺はここに来ることになったんだし……」
「ほぉ。舌戦でシャドに勝つか。それはすごい」
「だから、負けてません」
シャドがムキになって言う。
「でも、勝とうとしないでね? アイツ、本気でやるから。俺だって、知り合い殺されたくないし。ちなみに俺は、どっちに味方するって言ったらインドラに決まってるから。絶対敵対しないでね?」
シャドが不気味な笑みを浮かべた。
「もちろん、私も全力で潰しますよ?」
とか言い出したよ。
うーわ。わかってねー。
「その前に潰されるから、物理的に。……アイツをそこらの人間と一緒にするな。大岩どころかマグマ当たって死なない人間だから。猛毒の沼はおろか、アイスドラゴンのブレス直撃して、身体をブルブルっと揺さぶるだけで、終わりだから。ピンピンしてるから」
二人が絶句した。
「……インドラ・スプリンコートは、サマーソル公爵の第一令嬢とスプリンコート伯爵との間に出来た令嬢だったはずだが?」
「その二人、実は人間じゃないとか、聞いてない? あるいは一族に人間じゃないのがいるとか」
シャドが首を振った。
「……その、麗しのインドラ・スプリンコートの話を聞きたかったのだ。あと、時は既に遅いのだが、お前に忠告があった」
アレクハイドが指を鳴らすと、シャドが飲み物の用意をした。
「あ、待った。俺、持参してる」
「なんだその持参とは。……これは、中々の逸品だぞ? お前、酒が唯一の娯楽とか言ってただろうが」
「そう、だから持ってるの」
シャドが眉根を寄せた。
「……そういえば、ソード、貴方、酒蔵を経営し始めたという話を聞きましたよ?」
さすが、王の耳。
知ってたか。
「そう。俺、酒蔵のオーナー。ちなみに拠点ではレストラン……会員制の、富豪の平民相手の高級レストランも経営してる。
だから、味にうるさいんだよ」
「じゃあ、そっちをよこせ」
って、王が言うか。
ホラ、シャドが警戒して嫌な顔をしてるぞ。
「王なんだから、一応毒を警戒しろよ」
「今更お前が私に毒を盛ってどうするんだ。第一、あの【迅雷白牙】なら、殺そうと思えば今この瞬間にだって殺せるだろうが」
それはそうなんだけど。
「シャドの許可が出たらな」
「シャド!」
王がシャドにほえた。
「……わかりましたよ。確かに今更毒を盛っても意味ないでしょうね」
っつわれたんで、酒瓶を取り出した。
「何飲む? ツマミ、いる?」
並べると、二人が呆れた。
「……お前、いっくら酒好きでも、持ちすぎだろう。なんでそんなに持ってるんだ?」
「手放せないの。うますぎて。……最初はワインにしておくか」
ワインをシャドに手渡した。
「ほう」
シャドが毒味で匂いを嗅ぎ、思わず声を漏らす。
王が生唾飲んでますよ。
俺は笑った。
「匂いからしてまず違うだろ? 本物のワインって、そういう複雑な匂いみたいだぜ? しかも、それは『イマイチ』な出来らしい。今は、そもそもの原料……葡萄を育てるところから始めてるよ」
また、二人が絶句。
「わかった、から、シャド、早く毒味して、こっちに回せ!」
もったいつけてるシャド。
わざと焦らしてるな。
コイツって、インドラに匹敵するドSだよな。
口に含んだシャドが、目を閉じて、焦らす。
「…………これで、イマイチ、ですか」
「シャド!」
アレクハイドがキレそうだけど、いいの?
本題にすら入ってません。酒とツマミ出して終わりました。