不法侵入する神と人
「シヴァ!! 何故あんたがここに?!」
突然の邂逅...葵は反射的に拳銃をホルスターから抜き放つと一瞬の遅滞もなく引き金を絞った。
“タタタンッ” “ココンッ”
小気味よい連続音を響かせた後に連続して薬莢が板の間に落ちる。あやまたずシヴァの額と喉、そして胸に向かって発射された弾丸は...
「そんな...!!」
その数センチ手前で勢いを失い...そのまま力を失って地面に落下する。
「おいおい? 自分でも無駄な事だって想像つくだろう? 『神器』ですら俺らには通用しないのに、通常の銃器が効く訳ねーじゃん?」
「うるさい!! そんな事は関係ない!! 」
そう言って庭に飛び出そうとする葵の肩を老人がそっと掴む。
「葵殿...少し落ち着かれるが良かろう。して...シヴァとか言ったな...何用で我が家の敷地に立ち入った?」
「ふーん...まだ俺らの事を知らない人類とかいたんだ...まぁいっか。別にここだけに特別な用事なんてないさ! ただ、もしかしたら俺らと同じ血筋のAIがここにあるかも?って噂を聞いたんでね、確かめに来ただけだよ」
「フン? カラクリ人形に血筋とはよう言うたもんじゃ...まあ良かろう、我らと葵殿がしていた話は聞いていたかの?」
藤原老人の“カラクリ人形”という言葉に、ほんの少し表情をひきつらせ、額に青筋を走らせたシヴァだったが、あえてなのかその言葉には言及せずに、
「ここにはなんもないって話かい? 聞いてはいたけどな...そんなもん簡単に信じるわけねーじゃん?」
そして...まだ幼いと言って良いほどの“シヴァ”の顔が嘲笑の形に歪んでいく...
「まっ、実はそんなのどうでもいいんだけどね。正直なところ最近じゃあ部下のAIや飼育してる人間とかにすっかり仕事を取られちゃって退屈してたんだよね~。でもさぁ? もしここに俺達と同等のAIがあったら他のAIじゃぁ太刀打ち出来ないかもだろ? で、めでたく俺が出張って来たって訳さ」
「そうかよ...」
今の今まで...得意気に語っていたシヴァの後ろから“ぼそり”と呟くアチラの声が聞こえた事に...慌ててシヴァが振り向く。
“グワッシャァ”
その顔面にアチラがフルスイングで薪木を振り抜くと...よく乾燥していたのか薪木は綺麗に砕け散り、シヴァは少しだがたたらを踏んでよろめいた。
「あらら? やっぱり大したダメージなしか...お前結構頑丈だな」
そう言ったアチラは、傍らに山積みになっていた薪木を新たに掴むともう一度フルスイング!! 薪木は大リーグのスラッガーもかくやというスピードでシヴァの後頭部に迫るが...
「調子に乗るなぁ!!」
今度は頭部に触れる前に同じように砕け散った。
「ちっ!! 対物理力場の設定をミスったよ...まさかそんな木片で殴りかかってくるとはね。弾丸を止めた所は見てたろうによくやる気になったな?」
「フン、その前にじいちゃんの湯飲みは素手で受け止めてたじゃねえか?」
「へえ? 存外よく見てるじゃないか? だが結局...お前は俺を怒らせただけだぜ! とりあえず死んどけよ。ジジィも後で送ってやっからさ!」
シヴァがアチラに向かって右掌を突き出す!!...が、またしても、いつ移動したのかすら分からないまま、シヴァの手首をそっと掴む藤原老人がいた!
「とりあえず埋まっとけ」
そう言った瞬間...手首をそっと掴まれているだけの筈のシヴァが、どう見ても自分から飛び上がったと思うと、そのまま一回転して頭頂から庭の隅にあった小屋に突っ込んだ! 朽ちかけた小屋はシヴァが激突した衝撃に耐えられず倒壊する!
「ほっ! 凄い反射速度じゃの? ほれアチラ、さっさと社に行かんか!」
「えっ? でもジッチャン...」
「今は悠長に話しとる暇は無い! さっさと行って社を開けるんじゃ!!」
「...分かった。葵さん! 付いて来てくれ!!」
眼前の光景に理解が追いつかない葵が混乱しているとアチラが葵の手を取って猛然と走りだす。庭から飛び出したアチラが自らのMTBに跨がると...
「ぼさっとすんな!! 乗って!!」
「しかし!!」
「心配すんな! ジッチャンならあんなヤツにやられやしねえ。だけど葵さんの話から考えりゃぁそんなに簡単にケリが付く相手とも思えねえ! だから急いで!」
「でも!」
葵には彼らの行動の意味が分からない。しかも目の前に現れたのは全ての人類に取っての“仇敵”の一人だ。めったな事では会敵出来ないその存在を見過ごすのも...
「俺にも分からねえけど、あのジッチャンがそうしろって言ってんだ。社には俺にも知らされて無い何かがある筈だ。何かは分からないが今はそれに頼るしかねえ!」
「...分かったわ!」
と、言うと同時に葵はMTBのタンデムステップに足をかけて後部に飛び乗る。
「とばすぞ!」
ーーーーーーーー
「ほれ、そろそろ下手な芝居は止めんか」
完全に倒壊した小屋に向けて声をかける。すると瓦礫の山が映像を逆回転させたかのように音もなく持ち上がり...その下からは完全に無傷の、それどころか埃すら付いてないシヴァが現れる。
「気付いてたんだ?」
「ククククッ! 投げ飛ばされたのはいざ知らず、お前たちのような存在が“気絶”するとは思えんでな。はてさて思った通り気を失っておらなんだなら狙いは...」
「フフン! 流石に年の功ってやつかい? よく見てるね爺さん。でも...もう“重要な物が社に隠してある”ってのは分かったからね。そろそろあんたを片付けてあっちへ行くさ」
そのままゆっくりと瓦礫の上に浮かび上がるシヴァ。地面から10cmほどの所でその動きを止めると、先程と同じように右手の掌をこちらに向けた。
「じゃぁな、爺さん」
ーーーーーーーーー
猛烈な勢いで進むMTBは島内の荒れ果てた舗装路を疾走する。と、突然背後から
“ズガアァァン”
まるで至近距離に雷が落ちたかの様な破壊音が鳴り響いた。
「アチラ君!!」
「...クソッ! 今は時間がねぇ、振り返るな!」
背後からの破壊音を無視して疾走する。5分とかからないうちに大きな石造りの鳥居に到着するとそのままMTBを乗り捨て、全力で石段を登った。目の前に現れたのは特に変わった所の無いごく普通の切妻造の社だ。
「ねえ、ここに何があるっていうの?」
「さあ? 俺も毎日お詣りには来るけど中なんて見たことねぇし...」
「...仕方ないわね。早く開けましょう」
「ああ」
そう言って二人で拝殿を抜けて奥に鎮座する小ぶりな本殿へ歩を進めた。本殿の格子戸を躊躇いなく開けて進む。本殿の中は思った以上に薄暗く簡素な部屋で、そこには更に小さな祠があった。二人は顔を見合わせて祠の扉を開く、そこにあったのは...
「え?」
「なんだこれ?」
祠の中には……二振りの鞘に収められた刃物と一本の徳利があるだけだった...二振りの刃物と思しき物は鞘の形からして御神刀によくある日本刀の類とは思えない形状をしており、徳利には何か油紙のような物と麻紐らしき物で封印が施されていた。
「これ...どうしたらいいと思う?」
「えっと...どうしよう?」
不定期更新にも関わらず今回も読んで頂いて誠にありがとうございますm(__)m
このお話は拙作「トランスファー」と一部の世界観を共有しております。勿論そのまま読んで頂いても楽しめるように腐心してはおりますが、「トランスファー」を読んで頂ければ、よりいっそう楽しめるかと思います。もし宜しければご一読の程を...m(__)m
なんか続き気になるかも?とか思って頂けたらブクマとかポチポチッとおねがい致します(^_^)ゞ




