人の強さとは
毎度おまたせ致しましす(TдT)
「ジッチャン!!!」
短い破裂音……間違いなく銃撃を受けたにも関わらず、そうとは思えない動きでジッチャンは射線へと割り込んだ。と、同時に鉄山靠の要領で葵をこちらに吹き飛ばし、そのまま刀を袈裟に振るおうとするが……
ー タッーーン!! ー
先程と同じ不快な音が耳朶を撃つ。
射線が外れた瞬間、俺は全身の筋肉を総動員してプリティヴィーとの間合いを詰めるべく動こうとした。が、こちらへ向かって飛ばされた葵を見てとっさに彼女を抱きとめざるを得ない。それを確認したプリティヴィーは改めて銃口を……
「そう……は…いかんよ……」
こちらからは表情すら確認出来ないが……更なる重症を負った筈のジッチャンが尚も射線に立ちはだかる。
「邪魔よ」
「やめろ!ジッチャン!!」
短く吐き捨てたプリティヴィーは先程以上にあっさりとジッチャンに向かって引き金を絞った。
ータンッ…ー
ーカシャンー
俺たちとプリティヴィーとの間に立ちはだかったジッチャンは更に一発の銃弾をその身一つで受け止めた。その結果、プリティヴィーの持つ銃もスライド後端でロックし、残弾ゼロを告げる。
「ちっ!」
即座に銃を俺に向かって投擲するプリティヴィー。葵を抱えたまま走り寄ろうとした俺は、一瞬回避する動作を強いられる。その隙をついて間合いを取ったプリティヴィーはシヴァに駆け寄ると、すかさずシヴァを背後に庇った。
「……申し訳ありませんシヴァ様。撤退いたします」
そう言うが早いかシヴァと共に地面に沈み始める。
「やめろプリティヴィー!供給のない状態でスキルを使ってはお前の存在維持が……」
「私のエネルギーポテンシャルを持ってすればアバターは消えてもコアの消失は避けられます! ネットワークを回復出来る所まで行けば本体と情報同期して同時にアバターも解除可能です!!今は奴らの攻撃範囲からの脱出を最優先します」
「くっ……行け!!」
理屈はさっぱり分からないが奴らの全身が完全に地面に沈み込む直前、奴らの視線はジッチャンを抱き留めた俺と……カグツチに向けられた。
「もし……絶対そんな事はあり得んだろうが……万が一、お前らがイザナギ殿の手をすり抜けたなら憶えておけ……貴様等は“神の怒りに触れた”って事をな!!」
「自称“神”のくせに捨てゼリフか? 言ってる事がチンピラと変わらねぇんだよ。お前こそ“故障”すんなよ……必ずオレがお前等を“分別廃棄”してやるからな!!!」
奴の額に青筋が浮かぶ。随分芸が細かい……いやそんな事よりも、
「くっそ……ジッチャン!!! なんでお大人しく隠れてなかったんだよ!!!」
「……阿知羅」
ーーーーーーーーーー
私の意識は……おそらく途切れていたのだろう。
藤原殿の治療が済み、なんとか彼を援護すべく社を飛び出した所から……たった今、彼のそばに横たえられた状態で覚醒するまで、私には全く記憶が無い。
少しずつ視界の焦点がはっきりしてきた時、私の視界に真っ先に飛び込んで来たのは、先程以上に血に染まった剣神藤原玄信を抱き留めるアチラの姿だった。
藤原殿の作務衣は刻一刻と赤黒い範囲を増やしていく、
「………なんてこと!!」
状況が分からない……でも眼前の光景を私が連れて来た事だけは分かる。
「……ごめんなさい」
私にはふたりに聞こえるかどうか分からない様な……かすかな声を振り絞るのが精一杯だった。
私の呟きに一瞬だけ視線を走らせたアチラ君……彼は藤原殿から何事かを囁かれ、改めてこちらに顔を向けた。
「葵さん……こっちへ来てくれないか」
彼と出会ったのは僅か数時間前だけど……ああ……だけどお願い。
「そんな顔をしないで」
彼の表情には怒りや哀しみは無かった。
私は即座に起き上がり、彼等のそばに寄り添う。そして、その言葉を聞こうと腕の中に横たわる老人に顔を寄せた。
「……碌なもてなしも出来ず……申し…訳無い…葵殿」
驚いて改めて老人の顔を覗き込む。そこには……この状況に全くそぐわない晴れやかな表情を浮かべた老人の顔があった。
「……もし、もし貴女が今日の事に責任を感じているなら、それは全くの見当違いです。その事だけはお伝えしておこうと思いましての」
思わず息を呑む。
「でも……奴らも私を泳がせていたと」
「ああ、確かに外の世界の事は儂も阿知羅も知りません。だが流石に外の世界が“10年以上も音沙汰なし”であるなら、如何な儂等でも何か起こってる事位は察します。そして知ってしまったなら……はからずもそれは今日になりましたが……ましてやそれが儂等の一族が関わる事なら……貴女が気に病むなど“筋違いも甚だしい”と理解出来ますな?」
その言葉を聞いて、反射的にアチラを見る。そこに浮かんだ彼の表情も……
(なんて事……この人は、この人達は、危険に晒され、あまつさえ自らの燈火が潰えようとしている時でさえ……残される私に重荷を残さない為に心を砕いている!)
それが、いか程の難事かなど……自分如き若輩には想像する事も出来ない。だが残された言葉を鵜呑みに出来る程には自分も子供ではない。
「私如き若輩が烏滸がましいとは思いますが……お気持ち頂戴いたします」
ああ……お願い……微笑まないで。
「あっ……」
つい……堪えきれず瞳から涙が溢れる。
「………ア……チラ……君…わたし……」
「いいんだよ葵さん。こんなでも一応ジッチャンの弟子の端くれだからね……武道家が立会で命を落とす時に弟子がするべき事は……弁えてる……」
そう……確かに一目見た彼の表情は淡々と事実を受け入れた者のソレだ。だが、その表情とは裏腹に……彼の丸太の様な腕には小刻みな震えが瘧の如く走り唇の端には微かに震えと薄い血の筋が滲んでいる。
「阿知羅よ……」
「なんだい師匠?」
アチラ君はわざと戯けて答える。
「ふっ………馬鹿者め……後の事は……ミネルヴァ殿の所に行けば良かろう。私の屍は捨て置け。武道家の最後はソレこそが相応しい。そして……カグツチ殿?」
驚くアチラを横目に……どこからか彼等の戦いを見ていたのか……アチラから生まれた新しいAIを、恐らく最後の力を振り絞って呼ぶ老人。
アチラが突き立てたナイフの上で静かに“事の次第”を見ていた彼は“思い掛けない呼び掛け”に一瞬躊躇いを見せたが、すぐに大きく一つ羽ばたくと……アチラの肩にとまり視線を老人に合わせた。
「初めて顔を突き合わせるのがこのような仕儀になるとは……救って頂いたこの身を粗末にした事、誠申し訳なく思います」
「……なに、私にとっては何程もありません」
その答えを聞いた老人はまたも微笑み、
「……未熟者ですが……どうか阿知羅の事、宜しくお頼み申します」
「承ろう!後の事は私に任せて、ご老人においては心安んじられよ」
「……忝ない」
言いたい事は……全て終えたのだろう。二人の男女が握る自らの手を振り解くと、
「さぁ、行け阿知羅。虎口はまだ過ぎてはいまい。ミネルヴァ殿の元へ急ぐんじゃ……儂は一足先に隠居と洒落込……」
「………ジッチャン……」
眩しい中天の太陽の元……その絶技は余技ですら数多の流派の最奥を砕くと評された剣神は……その長い旅路を終えた。
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