堕ちてなお神でありしか
「おおさ! “諸々禍事罪穢れ 禊祓と恐み申す!!!”」
カグツチの嘴からなにかの呪文の様な言葉がつむぎ出された瞬間……大地に刺さったナイフから四方八方に光が伸びて行く。
その光は一瞬で消えたが、アチラの肩から舞い上がってガンディロスナイフの柄に舞い降りたカグツチは、そのままシヴァに視線を合わせた。それを見たシヴァは、
「フン、今更何をしても遅いぜ!しかも祝詞とはな!神性を模倣をしてるのはお前の方じゃないのか!この醜い出来損ないめ!!」
(おい?あんな事言ってんぞ?それになんだよ?ノリトって?)
(君は祝詞を聞いた事が無い……のだろうな。まぁ気にするな。大した意味など無いよ。シヴァの奴、どうも神様ごっこに熱が入ってるみたいなんでな……時間稼ぎがてらからかっているだけさ)
(おい?!マジで大丈夫なんだろう……)
「チッ、何とか言ってみろ!ホレどうした?もうお前の目にも見えてんだろ?既にエネルギー粒子変換命令式群がこの島を覆い尽くす勢いで広がってんのがよ!あとは俺が実行を命令するだけでこの島どころか周囲の海域まで残さず蒸発するんだぜ?」
そう言い放つシヴァ。その顔は“どうにも出来ないであろう実力差”を突きつけて多少溜飲を下げたのか……早く命乞いをしろと言わんばかりのニヤけ面をうかべている。だが、
「そうか……やってみたまえ」
カグツチの返答は素っ気なく……まるで“そんなつまらない返答が必要なのか?”とでも言わんばかりだ。
(おいカグツチ?)
(問題無い。こちらの対抗手段の展開は終わっているよ。ここから先は君の出番だ)
カグツチのぞんざいな返答が更にシヴァのこめかみに青筋を浮かび上がらせる。
「死ね……“闇の軍勢を打ち倒す者”」
シヴァの右手が五指を拡げて降り下ろされる!
「……………………」
………だが何もおきない。
いつの間にかシヴァの周囲の風は止み、浮き上がっていた身体は地面に降り立っていた。
シヴァは三つの目を最大限見開いて、一瞬自らの右手を見つめた後……無言で視線をこちらに向ける。
その顔に張り付いている表情は“驚愕”とタイトルを付けても差し支えないだろう。
「どうしたのかね?故障なら代わりにメーカーへ連絡してやってもいいが?」
「テメェ……何をした?」
「説明が必要かね?」
驚愕の表情から一転、一瞬の羞恥の後……怒りを爆発させた。
「クソ!これで勝ったと……」
「思ってねーよ。というかこれからだわ」
シヴァは背後からかけられた声に独楽の様に振り向く。そこにアチラが振りかざした巨大な拳が迫っていた。視認した時には既に躱すのが難しいタイミング……だが、
「何度も不意打ちが通じ……」
『ドチャッ』
「ガアアアァァァ!!!」
アチラの拳が顔面にクリーンヒットする。今まで攻撃を受ける事こそあってもなんら痛痒を感じさせなかったシヴァの顔面が、今までと違い赤黒いなにかを撒き散らしながら吹き飛ぶ。
吹き飛んだ先にあったのは石の鳥居。その石柱に派手に激突したあと、そのままズルリと下に落ちて……かろうじて両足で着地する。石柱にもたれ掛かってふらつく身体をささえつつ、自分の顔にそっと手を触れる。
「……あり得ねぇ。いったい何をした?!」
「なにがあり得ねぇだ。エネルギー何とかってのがテメェ等だけの専売特許だったのはさっきまでなんだよ!このバカガキが!カグツチはな、ここら一帯に存在してるエネルギー何とかにテメェが干渉するのを妨害してるのさ」
俺の言葉を聞いたシヴァの顔色が瞬時に変わる。
「!?!そんな事が出来る訳が……」
「出来るかどうか……証拠はテメェの顔にこびりついてるんじゃねえのか?今のテメェは見た目通りのバカガキなんだよ!」
その言葉を聞いてシヴァがアチラとカグツチの方に向き直る。
「バカガキだと!? 俺達は世界全ての知識を握ってる存在だぞ?その一柱たる俺に向かって……バカだと!!!身の程知らずの人間の分際で!!!」
「神々神々うるっせーんだよ!ちょっとばかし高性能なだけの家電のクセに……何を勘違いしてやがる!これからてめーにはたっぷりお仕置きしてやっから覚悟しやがれ」
「うるせえ!お前らが作った“神”に、お前ら自身が何をさせようとしてたか知ってるてのか? あっ?俺等が保護してやらなきゃお前等人間なんて絶滅してたんだからな?」
……なんだと?一体何を言ってるんだコイツ?!訳の分からない事を喚き散らすシヴァにとりあえずもう一発喰らわしてやろうかと思った時、
(アチラ!)
カグツチの声に反射的に足を止め振り返る。と、そこには……なんとも場違いな……ビジネススーツを着こなした眼鏡姿の女が居た。しかもその女は一人ではなく、左手で葵を捕らえて眼前に立たせている!?葵自身はどうやら気を失っているようだが……
「そこまでにしていただきましょう……シヴァ様、イザナギ様との約束のお時間です」
「……プリティビー。余計な事をするな!!」
「申し訳ありませんシヴァ様……おっとお二人とも動かないでいただきましょう。私のスペックは戦闘向きでは御座いませんが……こちらのお嬢さんの頸椎程度を握りつぶすのは簡単ですよ?」
それを聞いたカグツチが目を細める。
「ほう?エネルギー粒子とのネットワークを絶たれているのに……地母神君にはそれだけのポテンシャルがあると言うのかね?君の主人であろうシヴァすら常人と変わらないと言うのに?」
「新たなる位階高き機神殿……主人の護衛が主人より頑健なのは当然ではありませんか?」
なんてこった……コイツのスペックは素のままでシヴァより上ってことか?!
「なるほど……で、君の要求はなんだね?」
「そうですね……元々はあなたの廃棄がその目的でしたが……少々状況が複雑です。とりあえずは……」
会話をしながら女は懐に空いている右手を差し込み、拳銃を取り出したかと思うと、こちらに向けてピタリとポイントした。
「まさかエネルギー粒子とのネットワークを絶たれるとは夢にも思いませんでしたが……この小娘がおあつらえ向きの小道具を持っていました」
「やめろプリティビー!そいつには俺が直々に天罰を喰らわせてやらねば気が済ま……」
「我儘は無しですシヴァ様。どちらにしろこの海域はもうすぐ消滅しますが……この坊やだけは確実に消しておかなければならないでしょう。そしてカグツチ殿も……」
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