2_世界再編_Magic
塩の匂いが鼻を衝く。
夏休みともあって、砂浜よりも人の方が目立つ。
「やっぱり海で良かったんじゃないの。」
東堂は自慢げに言う。
山には山の魅力があるのだが、ここで議論するのはナンセンスだ。
「さぁ、天気がとってもいいからまずは泳ぎましょうか。」
顧問が言った。副顧問はカナヅチらしく、早くも砂浜でパラソルを開いて満喫している。
僕たちも水着に着替えることにした。
「なぁ、東堂の水着ってすげぇのかな。」
「いやいや、桜田のほうがすごいだろ。」
「--------、、、」
男子の話はヒートアップし、むさ苦しい更衣室では、海のことなんて二の次状態だった。
あれだけ山に固執していたのに、水着に全部持っていかれている。
かく言う僕もそうなのかもしれない。
砂浜は足から優しく僕たちを迎え入れた。さらさらしていて心地がいい。
女子達も着替えが済んだようだ。ここだけの話、競泳の水着を持ってきた東堂もすごかったが、星峰もすごかった。
あの清純な星峰がフリルのついた白い水着を着ているのだ。視線は釘付けだ。
星峰は、東堂と仲の良い子で、もう一人佐藤と三人組がスタンダードだ。
ちなみに佐藤は白と水色の水玉模様のビキニであった。褐色肌が映えていた。
「俺は、花松先生だな。スレンダーでこれはまた、、、いい。先輩はどうですか?」
「柳もなかなかだな、、、」
と、岡田達は言っていたが、これが通常運転だ。岡田は年上好きなのだ。
小宮先輩と先ほどから絶えず談議している。
因みに小宮先輩と柳先輩は部活で二人だけの先輩である。二人は幼馴染とかなんとか。
海水浴をする前にみんなで入念なストレッチをした。
あくまでも部活での旅行なのだから、万が一なんて事があってはいけない。普段から運動をしない僕にとっては大変重要な運動なのだ。
「あちぃ。」
一通りの準備運動を終えた頃には、既に汗がにじみ出ていた。太陽が肌を刺すように照り付ける。しかしここは海。海へ入れば関係ない。
生徒二十人がドドォと、群れを成して一目散に駆け込んだ。
「「あぁ、気持ちいい。」」
皆がそう思ったのは間違いない。
照った肌は海に包まれ、太陽は手出しできまい。ヒンヤリする。
ゆったりできるのもここまで。「男女混合チーム二組に分けて、泳いで競争しよう」だなんて後輩君が言うものだから、みんな流れでやることになってしまった。
運動に自信がない僕は、岡田の配慮で最初に泳がせてもらうことにした。岡田には感謝しなければならない。
「よーい、ドン!」
僕は懸命に泳いだ。これはいけるのではないかと慢心してギアを上げたのが運の尽き。
僕のギアは脆い。
だから壊れてしまった。
婉曲に言わなければ“足をつった”。
―不味い。このままでは溺れる。
みんなからは、潜水しているように見えているのだろうか。
なら、それは誤解だから助けてほしい。
「彼、サブマリン泳法なんてものが出来るのね。」
「すごいねぇ。私にはあんな泳ぎできないよ。」
「なんだって、あいつ水泳できない筈なんだけどな。ちょっと見てくる。」
「大丈夫かしら。」
――ここで終わりたくない。死因が足をつったことによる溺死なんて御免だ。
新刊の漫画を読めていない。
来週には好きなグループの新曲が出る。
まだ、魔法世界アスカをやってないんだ。
旅行も始まったばかりだっていうのに。
―意識が朦朧とする。自分の吐いた息は泡になって水面へ逃げていく。
僕も泡だったならどれだけいいだろうか。あるいは魔法使いであれば難なく打開できたかもしれない。非現実的な話だ。とうとう頭が回らなくなってきたらしい。
逃げる泡に想いを馳せていると、ふと最近まで考えていたシャボン玉が想起された。
―僕の人生も、シャボン玉のように泡程度の小さなものだったのかな。
と、悲しくなってきた。
人生は泡なのかと、そう自覚した。―――――
実を言うと、彼はここで終わりはしない。
まだ生きるのだ。助かる。しかし彼は、はっきりと自覚した。
―――人生とは泡である―――と。
自分が死ぬという彼の思いこみは、本来割れるはずではなかった彼の泡を自ら破った。
その泡の飛沫には彼の思念、つまり異物が混じっている。飛沫は蒔かれた。
彼の世界は再編するのだ。
次回Bubble_Magic_3
乞うご期待。
感想等自由にどうぞ。お待ちしております。