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色音  作者: 鈴ほっぽ
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第五話 八坂と俺 前編

第五話は二部構成です。

今回から一週間に一本、毎週土曜更新になると思います。



蜃気楼。

それは、遠くの景色がゆらゆらと歪み、揺らめく事を言う。

もっと詳しく言うなれば、熱気などによる異常な光の屈折が理由らしいが・・・そんなことをわざわざ調べるやつなんていないよな。

蜃気楼なんぞが見える季節と言ったらやはり夏なわけで、肌を焼く太陽光や生ぬるい風、呆れるほどわき出る汗にイライラが募って人々は夏の終わりはまだかと、始まったばかりの夏に対して反抗的だ。

それは俺も例外ではなく、


「死ぬ」

「死ぬなら迷惑かけないように死んでね」

「辛辣だな碧」

焼けるほどの暑さに苦しんでいた。

碧もこの暑さにやられているのか、げっそりとした顔をしながら冷たい言葉を浴びせてくる。

でも言葉なんかでは寒くならん、氷だ。氷を出せ。

「じゃあ詩苑は僕が死ぬって言ったらどう言ってくれる?」

おいおい、なんだいきなり柄でもない。

「別に、死のうとしてるわけじゃないよ?もし僕がほんとに死にたくなった時に詩苑は止めてくれるのかなって」

そんなの止めるに決まってるだろ。

第一、お前が死のうとするなんぞ、太陽が超新星爆発を起こす並にありえん。

「詩苑には僕が太陽に見えてるんだね」

そうだな。ある意味間違っちゃいない。

顔立ちが女性っぽいお前は、汗に濡れてるせいかいやらしく見える。

男なのにな。

「ちょっと詩苑。確かに僕は女っぽい顔だけど、同性愛者ではないよ?」

わかってるさ。

でもな、少なからずそういう人に対して興奮を覚える人もいるんだ。

今のご時世女性だけじゃなくて男性も、唐突な性犯罪に巻き込まれるかもしれないんだぞ。

だから碧。

女装をしてくれないか。

「バカなの?」

俺の頼みを聞いてくれないってのか?

なんて酷いやつだ。

「人を女装させようとする方がひどいやつだと思うよ」

きっと暑さで俺は考える頭をやられてるんだろう。

思いついた言葉をそのまま口に出している俺を、碧はなんなく受け流していく。

「詩苑、とりあえず水飲んだら?」

「おう、さんきゅ」

碧に差し出されたペットボトルを受け取り、口をつける。

ぐびーっと中の水を喉に流し、水分のありがたさを身体に刻み付ける。

水うまい。

体に水が染み渡っていくのを感じながら、周りを見渡す。

あーなんもねえなぁ・・・

あるのは遠くに見える山と、そこまで続く田んぼ、農場。

俺達が今いるのは、ド田舎のバス停。

「なぁ・・・俺達なんでこんな所にいんだ?」

それは、4時間ほど前の話。




「頼み事を聞いてくれないか」

休日の朝。

俺の携帯に電話をしてきて、開口一番こんなひどいことを言うやつなんて、俺の知り合いには一人しかいない。

「学校のある平日ならまだしも、休日にまで生徒に頼み事するとかあんた本当に教師か!?」

林堂先生だ。

「頼むよ。俺とお前の仲だろ?」

「気持ち悪い言い方をするな!?」

「まあまあ、それでな?今から伏見と行って欲しいところがあるんだ」

「勝手に話を進めるな!・・・なんで碧が出てくる!?」

「伏見は快く承諾してくれたぞ」

「なんでだ!?」

「交通費とちょっとした小遣いをやると言ったら二つ返事で」

「あの野郎!!!!!」

「つーわけで、よろしくな。お前にも交通費と小遣いはやるから」



という訳だ。

「なんでわざわざ俺達が林堂先生の実家に行かないとならないんだ!?」

「水を飲んだら元気になったね」

「てかバス無さすぎだろ!?」

なんだよ1時間に1本って。

「田舎でも多い方だよ、もっと酷いとこだと1日1本とからしいよ」

「まじかよ。・・・つーかあと何分だ?」

「あと10分でバス来るよ」

「そろそろ溶ける」

もうほんと、夏の日差しやばい。

田舎の虫のせせらぎやばい。普通にうるせぇ。

このバス停に屋根がなかったら死んでたぞ。

そもそも、なんでこんなバス待ちをしているのかって話なんだけど。

「まさか乗り換え必須でしかも一時間待ちのバスとはね」

「林堂め・・・許さん・・・」

帰ったらとりあえず殴ってやる。

そんな恨みを抱えながら、碧と話すこと10分。

やっとバスが来た。

プシューと聞き慣れた音を鳴らしながらドアが開き、そこへ乗り込む。

バスの中はとても涼しかった。

冷房がきいている。神か。天国なのか。

「涼しいね」

「涼しいな」

席に腰を下ろして、一息つく。

「お?」

と、後ろから肩を叩かれた。

碧は隣に居るよな?

なんだ?

振り向くと

【えっと、偶然?ですね・・・】

苦笑いをした八坂がいた。




「僕邪魔かな?」

「全く邪魔じゃない。勘違いをするな。」

【なんか、ごめんなさい?】

「謝らなくていいんだ。たまたまなんだから。というかなんで八坂もこんな所に?」

こんなド田舎に来る用事なんてないだろ。

【林堂先生に頼まれて】

「あいつクズか!?」

「詩苑。バスの中では静かにね」

あ、悪い。つい。

【私はよく頼まれるので】

八坂は人が良すぎるんだよ。

それを利用する林堂もどうかと思うけど。

ポペ。

「あん?」

この独特の通知音は

「林堂先生か」

このタイミングでメッセージ送ってくるとかエスパーか?

【俺が無理して頼んでる訳じゃなくて、八坂が進んでやりたいと言ってくるんだ。俺は悪くないぞ】

エスパーか!?

「林堂先生から?なんて?」

「いや、なんでもない」

「そっか」

【ところで、林堂先生の実家に何をしに行くんですか?】

・・・そういえば、なんでだ?



「それで、頼み事ってなんですか?」

バスで八坂と合流してから、バスに揺られること一時間。

俺達は林堂先生の実家にいた。

家に上がらせてもらうなり、林堂先生の母親が3人分のお茶を用意してくれた。

居間には、林堂先生がいて、俺たちを待ちわびていた。

「お前達にやってもらいたいことがあるんだ」

「その話って学校じゃ出来ないんですか?」

とりあえず一番親しい俺が話を進める。

「そうだな。早速本題に入るが、あと一ヶ月程で体育祭があるのは知ってるな?」

「ええ、まあ」

「それでな、体育祭が終わったあとに、美術部と吹奏楽部と声楽部、合同で打ち上げをすることになったんだ」

「・・・は?」

体育祭からなんでそこに飛ぶ?てか俺たち関係ある?

「伏見」

「はい」

「お前声楽部だよな」

「はい」

「まじで!?」

知らなかったんだけど!?帰宅部かと思ってた!

てかうちの学校声楽部なんてあったのかよ!

「あと八坂。」

こくりと頷く八坂。

「お前は吹奏楽部に楽器を借りてるよな?」

またこくりと頷く。

「そして詩苑。」

「・・・なんだよ」

「お前いつ部活来んの?」

「わかったよ!もうわかった!やるよ!なにをすればいい!!」

こいつは本当に性格悪いなぁほんと!

「3つの部活に少なからず関係のあるお前らに頼みたいことなんだが、伏見と八坂は大丈夫か?」

「大丈夫ですよ」

【大丈夫です】

「じゃあ決まりだ。詩苑。お前64インチの画用紙に風景を書くとしたら、何分かかる?」

「まて、64インチってなんだ。サイズおかしいだろ。」

金持ちのテレビかよ。

「もしもの話だ。どうだ?」

「んー・・・」

絵を描けって言ってもな・・・色わからないしな・・・

「下書きでいい。大まかな風景の下書きを頼みたい」

「・・・タイムリミットは?」

「30分だ。お前にやれる時間はそれだけだ」

「えーっと、詩苑に何をやらせるんですか?」

「三部共同で、体育館を貸し切ってステージライブをする」

【ステージライブ?】

「体育祭お疲れ様っていう労いの気持ちを込めた、全校生徒へ向けたお疲れ様ライブだ。吹奏楽部と声楽部でBGM、美術部で1枚の風景画を完成させる」

「それでなんで俺達に頼むんだ?」

「お前の力が必要なんだ」

先生が珍しく真面目な顔で言ってきた。

「・・・俺に、絵は」

「描けるだろ。別に色をつけろと言ってるわけじゃない。下書きだ。色付けは部員に任せろ」

【あの、いいですか?】

「いいぞ八坂、詩苑に言ってやれ」

何かある事に八坂を頼るなこんにゃろう。

【私、シオンさんの絵を見てみたいです】

「っ・・・」

八坂は、とても綺麗な瞳で俺を見つめる。

その真っ直ぐな瞳は、色々な思いが込められている気がした。

「詩苑」

「碧・・・」

「やってみたら?僕達も頑張るからさ」

「そうだぞ詩苑。友人二人だけにやらせて自分は楽するつもりか?」

なんだよ。それ。

流石に少し理不尽だろ。

そんなの、やるしかねえだろ。

「・・・わかったよ」

こうして、俺、碧、八坂の三人は、大きな頼み事を抱えて帰路に着いた。

ちなみに、わざわざ実家にまで来てもらった理由は、親戚から頂いたスイカが消費しきれないので持って帰って欲しかったからという、しょうもない理由だった。



その翌日。

【一緒に買い物に行きませんか?】

まだ眠かった脳内を一気に覚醒まで引き上げたのは、八坂の言葉だった。

アラームがなる数分前に、メッセージの通知で目を覚ました俺は、八坂のメッセージの返信に戸惑っていた。

買い物?

なんで?俺と?

様々な疑問が湧く中、自然と俺の指は動いていた。

気付くと

【わかった。どこにいくんだ?】

と、返信をしていたのであった。



「おまたせ」

家から自転車で10分ほど、地元の駅に、俺と八坂は待ち合わせをした。

声をかけると、私服姿の八坂は振り向いて、ニコッと笑顔を向けた。可愛いな。

【私もさっき来たところです。電車はあと5分くらいですよ】

前から思ってたけど、八坂って要領いいよな。ハイスペック。

「なら、改札通って待ってようぜ」

二人揃って歩きだし、駅の中へ。

切符を買って改札を通り、ホームに出る。

今日も快晴のおかげで、屋根があるというのにホームは蒸し暑い。

「昼はどうするんだ?」

【どこかレストランでも見つけたらそこで食べましょう】

「わかった」

いつも放課後2人で帰っているが、こうやって出かけるのは初めてだな。

昨日は碧もいたし、二人きりってのは・・・

あれ?

これデートじゃね?

やばい。なんかそう考えたらドキドキしてきた。

多分俺の自意識過剰なんだろうけど、ドキドキしてきた。

【シオンさん】

「はい!?」

やべ、よからぬことを考えてたから声がうわずった。

【今日服を買いに来たので、よかったら感想とか聞きたいです】

・・・デートか!?!?!?

「え、いいのか?俺ファッションセンスとか皆無なんだけど」

【大丈夫ですよ。私もあまりセンスはよくありませんから。感想を言ってくれる人がいると結構選びやすいんです。】

なるほど、そういうものか。

そんなことを話していると、電車が来た。

休日ということもあってか、出かけることを目的にしている人が多い。

乗り込んでいく人の流れに乗って、俺達も電車に乗る。

なので、必然的に俺と八坂の距離は近くなる訳でして。

八坂は俺の前にいて、背中を壁に預けている。

俺は周りの人に押されて、壁に手をついて体を支える。

「えっと・・・着くまで我慢してくれ・・・」

気付くと俺は八坂に対して壁ドンなるものをしていた。

割と距離が近くて、八坂の香りがふわっと漂ってくる。

やばい、近いほんとに近い。

八坂も恥ずかしそうに顔を俯かせているが、

【電車ですし、仕方ないですよ】

と、我慢してくれるようだ。

後で飲み物でも奢ってやらないとな。

電車は動き出し、乗っている人達が慣性の法則でグラグラと揺れる。

背中にかかる重圧に、腕の筋肉をフルで働かせながら、八坂に触れないように気をつける。

結構きついな・・・明日は腕が筋肉痛になる気がする・・・

【別に、私は気にしないので、無理しなくても大丈夫ですよ・・・?】

まて、それってどういうことだ?

諦めて体を密着させろって?

いやいやいや、さすがに無理だ。暑くて汗かきまくってるし、こんな状態で密着とか八坂が嫌に決まってるだろ。

俺は頑張るぞ。

【じゃあ、頑張ってください!】

わかった。がんばる。


それから、街に着くまで俺は、腕を吊りそうになりながらも、八坂と一定の距離を保ったのであった。



鈴ほっぽです。

今回は第五話の前半というわけで、どうでしたかね?

後半は八坂ちゃんと詩苑くんのデートがメインとなります。

そして体育祭ではどうなるんでしょうか。詩苑はどんな絵を書くんでしょうか。

では、次回をお楽しみに。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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