第三話 無声の演奏者
次回からはちゃんと下書き保存を活用しようと思いました。
「とりあえず、そこのプリントをシュレッダーにかけて貰えるか?」
扉を開けてびっくりな出会いをした俺と女の子。
どうやら、彼女は喋ることが出来ないらしい。
「・・・喋れないのか?」
と、聞いてしまった時は、自分の無神経さを呪ったが、彼女は少し驚いた顔をしただけで、直ぐに小さく頷いただけだった。
そのままお互い気まずい雰囲気になってしまったので、とりあえず片付けを手伝ってもらうことにした。
「なんかあったら呼ん・・・肩とか叩いてくれ」
危うく呼んでくれと言うところだった。
でも、こういうのって意識すると逆に当てつけだと思われちゃうのか?
あーくそ、わからん。
でも彼女は全く気にした素振りを見せることなく、こくりと頷いた後、直ぐに作業に取り掛かった。
・・・俺も箒がけするか。
シュレッダーの音と箒の音が、静かな教室にこだまする。
「ふぅ・・・」
さて、あらかた箒がけは終わったかな。
あの女の子の様子は・・・と
「うぉっ」
彼女の様子を見ようと、振り向いたらすぐそこに彼女はいた。
俺の肩を叩こうとしていたのか、結構近い距離で右腕を俺に伸ばそうとしているところだった。
突然振り向いた俺にびっくりしたのか、彼女はぴくっと身体を震わせ、腕を引っこめる。
・・・怯えているのか恥ずかしがり屋なのか、ただ嫌われているのか・・・
「えっと、なんかあったか?」
俺の近くにわざわざ来たってことはなにか言いたいことがあるのだろう。
それは見事的中だったようで、彼女はさっきと同じようにメモを差し出してきた。
それを受け取り、読む。
【お互い名前を聞いていなかったので、このまま名前を知らないまま作業するのは少し、なんか、嫌なので、良かったら名前を教えて貰えませんか?】
・・・なるほど。
口にすればあっという間に伝えられる言葉も、この子の場合はわざわざメモ帳とペンを取り出して、伝えやすいように言葉も選んで綺麗な字を書かなければ相手に伝えられないんだ。
そんな苦労をさせてしまったのはなぜだか申し訳ない。というどうしようもない罪悪感を感じながら、俺は名前を教えようと口を開く。
「俺の名前は鳴瀬詩苑・・・ん?」
言い終えたところで、彼女は申し訳なさそうに紙を差し出してくる。
【すみません。出来ればここに書いて貰えると嬉しいです】
ああ、そうか。
言葉だと漢字がわからないもんな。
紙を受け取りペンを借りて、余白に鳴瀬詩苑と読み方を書いて彼女に返す。
すると、今度は彼女から紙が渡されてきた。
【名前を聞く時は先に名乗り出るのが礼儀なのに私の名前を名乗っていませんでした!ごめんなさい!
私は八坂朱音って言います。
それで早速で悪いんですけど・・・鳴瀬さんって画数が多くて書きにくいので、失礼ですがシオンさんと書いてもいいですか?】
ほう。俺の目の前の可愛い女の子は八坂朱音というらしい。
というか、字を書くのめちゃくちゃ早くないか?しかも綺麗な字だし。
日常的に筆談してると知らぬ間にその手のスキルが磨かれたりするものなんだろうか。
「・・・まかせるよ。八坂、の書きやすさ優先でいいよ」
とりあえず俺は八坂と呼ばせてもらうことにしよう。
八坂は俺の言葉を聞いた途端、パァっと明るい笑顔を浮かべ、深々と礼をした。
「え、ちょ」
さすがに音速レベルで頭を下げられると誰でも困惑する。
俺が反応に困っていると、八坂がメモを俺の顔に突きつけてきた。
【ありがとうございます!!!!】
・・・名前を教えただけでこんなに感謝されるのは初めてだ。
もしかして仲良くなったら話しやすいタイプなんじゃ・・・・・・?
それから、俺と八坂は残ったプリントを2人でシュレッダーにかけ、林堂先生に報告をして帰ることになった。
「・・・八坂も方向同じか?」
学校の敷地を出たところで、聞いてみた。
八坂は小さく頷いた。
・・・こういう時はどうしたらいいんだ?
八坂の為を思って少し時間を空けて帰るべきか?
一緒に帰ってるとこを見られると、八坂に迷惑がかかってしまうんじゃないか。
そんなことを考えていると、目の前に紙を突きつけられていた。
【シオンさんが良かったら、途中まで一緒に帰りませんか?】
「・・・・・・・・・まじで?」
それから数分後。
俺は今、ドキドキしている。
今日初めて名前を知った女の子の隣を歩いているんだ。
そりゃドキドキする。
「ん?」
突然、トンっと肩を叩かれ、横を向く。
隣を歩く八坂が、紙を差し出していた。
歩きながら書けるのか・・・すごいな。
そんな関心をしながら、受け取る。
【シオンさんって、いつも一人で帰ってるんですか?】
おう。流石にこの質問は心にくるぞ。
確かに、俺は友人は多くないし、一人でいるのは楽だから好きだ。
でも望んで一人で帰っている訳では無い。
「・・・たまたま、方向が同じ友達がいないだけだよ」
碧のやつは反対方向だからな。
ほかのクラスメイトとは一緒に帰る程の仲でもないと思うし。
あれ?俺って碧しか友達いなくね?
【偶然ですね。私も、いつも一人なんです】
・・・なに?こんなに美人な八坂がいつも一人で帰ってるだと?
まさか、喋ることが出来ないことをネタにいじめられでもしているのだろうか。
それは、なんか許せない。
色がわからない俺とは違って、八坂は咄嗟に自分の感情を表現することも出来ないんだぞ。
喋れないってだけで、そんないじめをするなんて、許せないに決まっている。
「なあ、八坂」
少しでも俺が支えてやらないとダメな気がする。
と、声をかけると同時。
八坂は笑顔で、肩を震わせながら紙を渡してきた。
【シオンさん、怖い顔してます。もしかして、何か勘違いしていませんか?私が喋れないから、周りにいじめられてるとか思っていませんか?】
・・・え、なに、エスパー?
思考を読み取られ、唖然としている俺を片目に、八坂はスラスラとペンを走らせ、二枚目のメモを差し出してきた。
【私、いじめられているわけじゃないんです。たまたまシオンさんと同じように、帰る方向が同じ友達がいないだけなんです。だから、シオンさんさえ良ければ、これからは、一緒に帰りませんか?】
えーっと・・・八坂がいじめられてる訳じゃないのはわかった。
だからといって、まだ会ったばかりの俺と、これからは一緒に帰りたい。と。
今度は別の意味で唖然とする俺を、彼女は心配そうに見つめている。
とりあえず八坂は困ったら見つめるのをやめようか。
俺は女の子と会話するどころか、目を合わせたこともほとんどないんだ。
いやね?俺も一人で帰るのには飽き飽きとしていたところなんだ。かなり前から。
だからといって、いきなり女の子と毎日一緒に帰るなんてさすがに調子に乗りすぎではないか。
八坂は申し訳なさそうに紙を渡してきた。
【嫌だったら、全然断ってもらっても大丈夫です。私のわがままですから】
・・・そんなこと言われたら断れなくね?
「えぇと、嫌なわけじゃない。むしろ俺も一人で帰るのには飽き飽きしてたんだ。でも、八坂はいいのか?男子と歩いているところを見られたりしたら、クラスのやつとかに勘違いされたり・・・」
【そんなの気にしません。というか、私がお願いしているんですよ?そんなこと気にしてたらお願いしませんよ。】
・・・確かにそうか。
「あー・・・なら、よろしく」
おめでとう。俺は八坂朱音という女の子と、明日から一緒に帰る約束をした。
ピピピピっピピピピっ
「・・・ぅぐぁあ?」
あーうるせえ。止まれ。こんにゃろ。
バンッ
半分、力任せに目覚ましを叩く。
「・・・・・・はぁ・・・」
そしていつものため息。
毎朝起きる度、憂鬱だ。
突然色を失ったと同じように、突然色が戻ってきてくれたら、という淡い願いは、叶うことなく今も続いている。
いつしか大賞をとった俺の風景画は、ただ虚しく灰色に染っていた。
・・・着替えるか。
いつものように、寝巻きを脱ぎ捨てて、制服をつかもうとする。
その時、
テロリン
「ん?」
枕元に置いたスマホから、通知音が鳴った。
制服に着替えてから、スマホに手を伸ばす。
画面には、八坂朱音という文字。
通知を開いて、届いたメッセージを見る。
【おはようございますシオンさん】
・・・おはようメッセなんて初めてだ。
とりあえず、俺も【おはよう】とだけ返し、部屋をでる。
さて、どうして昨日名前を知ったばかりの俺達が、お互いのメッセージアプリのIDを交換しているのかだが・・・
それは昨日の帰宅中にあった出来事。
「おっと、八坂はここで曲がるのか?」
俺か住む住宅街近くの商店街。
どうやら八坂はこの辺に住んでいるらしい。
八坂はサッとメモを取り出し、ペンを走らせる。
【そうなんです。なので、今日はもうさよならですね】
つまり、こっからはいつものように一人か。
「そうだな。それじゃ、気をつけて帰れよ」
そう言って俺は横断歩道を渡ろうとしたが、
「・・・なんだ?」
右腕がなにか柔らかいものに包まれている。
パッと目を向けると、俺の右腕に八坂が抱きついているではないか。
「ッ!?!?」
え、なに?俺ってもしかしてとんでもない痴女と知り合った?
でも、八坂の表情を見ると、そうでは無いことに気付く。
八坂はとても焦っていて、それと同時に少し怒った顔をしていた。
「ど、どうした」
聞くと、八坂は俺の腕を解放し、大急ぎでメモを書く。
【赤信号ですよ!!!】
「・・・え?」
振り返り、信号を見る。
「あ・・・」
本当だ。
俺の目には黒に近い灰色に見えるが、人のマークは気をつけをしている。
それを確認すると同時に、高速で車が目の前を通り過ぎて行った。
いつもなら、信号を渡る時は注意していたのに、今日に限って確認を怠っていた。
八坂は咄嗟に俺を止めたのか。
「す、すまんな。不注意だった。ありがとう」
気付いて止めてくれたことに感謝し、八坂に軽く頭を下げる。
【突然だったので、止める方法がこれしか思い浮かびませんでした・・・】
八坂は腕に抱きついたことを恥ずかしがっているのか、それとも申し訳なく思っているのか、少し落ち込んだ様子だった。
「いや、いいんだ。止めてくれただけでかなりありがたい」
むしろ、柔らかくて気持ちがよかった。とは口が裂けても言えないけど・・・
【それなら、いいんですけど。あの、シオンさん】
「なんだ?」
【私達って、友達ってことで、いいんでしょうか?】
・・・なんだ唐突に。
俺の感謝の気持ちを唐突な質問で困惑に変えた八坂は、顔を俯かせている。
「友達・・・なんじゃないか?こうして一緒に歩いてきたわけだし」
俺がそう言うと、八坂は顔を上げた。明るい笑顔で。
【じゃ、じゃあ私とIDを交換して欲しいです!】
笑顔で、恥ずかしそうに八坂はメモを渡してくる。
要はあれか、友達ならメッセージアプリのID交換してて当然だよね!みたいなJK特有のあれか?
いやまあ、俺も友達の数は多くないし、増えるのはいいことなんだが・・・
「えっと、いいのか?」
八坂はいいのだろうか。
って気にしても、さっきみたいな答えが返ってくるんだろうなぁ。
【もちろんです!私だって友達多くないですし、シオンさんとお友達になれたら、私は凄く嬉しいです!】
うん、知ってた。
「・・・わかった」
無意識に自殺行為をしようとした俺を止めてくれたんだ。
その罪滅ぼしとしても、ちょうどいいだろう。
そうして俺と八坂は、微妙な仲から、友達へと進展した。
「・・・すごいなぁ、女子高生って」
放課後、俺は階段の踊り場で壁に背を預けながらスマホを見て、呟いていた。
何がすごいって、朝のメッセージから八坂の話が止まらなくて驚いていた。
話の内容は他愛もない世間話程度なんだが、彼女も言っていた通り友達が少ないのか、やけに返信が早いのだ。
俺が返信した直後に既読がつくし、そのリターンもかなり早い。
几帳面なのか、友達が出来て嬉しいのか、真実はわからないが、俺は今朝からのメッセージを見返して、新しい友達の存在をぐっと噛み締めていた。
うん。女子の友達ができるとなんか気分上がるな。
ちょっとだけクラスのウェイウェイしているヤツらの気持ちがわかった気がする。
「・・・あ」
そういえば、今日も一緒に帰るのだろうか。
八坂は昨日、これから一緒に帰りませんか?と聞いてきたし。
俺もそれに了承した。
これはあれか、メッセージでやり取りをして校門前で待ち合わせるみたいなイベントか。
そんな感じで一人で勝手に浮つきながら、八坂に「校門で待ってる」と送る。
だが、数分待っても返信がなかった。
「あれ?」
そもそも既読がついてすらいない。
なにか用事を済ませているのだろうか。
待てよ。
俺は昨日、八坂はいじめられてるのでは、と思っていた。
八坂は、それを俺の勝手な勘違いということを教えてくれたが、実は強がりだったんじゃないか?
本当はいじめられていて、だから今、俺のメッセージに反応がないのでは・・・?
「・・・考えすぎか・・・」
・・・さすがにないよな。
初めての女子友達だからか、思考がメンヘラじみている。
さすがに気持ち悪いと思われそうだから辞めよう。
でも、やっぱり心配なので、俺は八坂を探すことにした。
今日の八坂との会話を遡り、しょうもない会話の中でした、お互いの自己紹介を見て、八坂がどのクラスにいるのかを見る。
そういえば、同級生か。
八坂も俺と同じ二年生だった。
でも俺、一年生の時、八坂のこと見た事ないぞ?
まあいいか、とりあえず八坂のクラスに行ってみよう。
それから十分ほど。
八坂が見つかりません。助けてください。
「・・・どこにいんだ?」
もう一度、八坂とのメッセージ画面を見る。
まだ既読はついていない。
これはあれか、未読無視ってやつなのか?
いやいや、さすがにそれは無い。
八坂はかなり恥ずかしがり屋で、落ち込んだり喜んだりの起伏が凄いし、同級生なのに基本は敬語で話す不思議なやつだけど、そんな性格が悪い人間じゃない。はずだ。
きっと用事が長引いているんだな。
でも校舎はあらかた見たよな・・・
となると別棟か。
そう思い立った俺は、別棟へと足を進めた。
以前にも来た、別棟。
やはりここは、異様なまでの静けさに包まれていた。
だからなのか、4階から響く楽器の音に、耳が敏感に反応した。
「・・・吹奏楽部か?」
でも、音はひとつしか聞こえない。
吹奏楽部なら、もっと集団でやってるはずだし、そもそも別棟では活動していないはず。
よく聴くと、すごく綺麗な音色だ。
俺の足は、自然とその音へ向かっていた。
澄み切った美しい音色は、4階の端の空き教室から響いていた。
楽器に詳しくない俺は、その音色でなんの楽器かは分からなかったが、音が美しいことだけは分かった。
覗きをするのは良くないことだけど、気になってしまった俺は、扉の窓から中の様子を覗いた。
「・・・あ」
その教室の中には、人がいた。
後ろ姿しか見えなかったが、その人は綺麗な長い黒髪だった。
開け放たれた窓からは風が入り、カーテンとその綺麗な黒髪をなびかせていた。
なんとなく、似たような人を知っている。
もしかしたら、八坂かもしれない。
彼女は、管楽器のようなものを吹いていた。
椅子に座り、綺麗な姿勢で。
そこで俺は気づいた。
彼女の傍の床には、八坂のカバンが置かれてた。
やっぱり、八坂だ。
そう思ったのと同時に、俺は彼女の奏でる音色に、耳を澄ませた。
曲名はわからないけど、なんだかとっても綺麗な曲。
まるで、果てしなく続く空を目指して飛んでいるような。
知らないうちに、俺は目を瞑っていた。
その光景を、思い浮かべようとしたんだ。
「え・・・」
驚いた。
いつもなら、その光景は灰色だったのに。
この音色を聴いていると、何故か思い浮かべる光景には色を感じる気がしたんだ。
「あぁ・・・」
目を開けて、更に驚いた。
窓からはオレンジ色の夕日が差し込み、教室の中を彩っていた。
風はクリーム色のカーテンと彼女の黒髪をなびかせ、反射した夕日は彼女の姿を綺麗に写し出していた。
彼女の手には、黒い筒状の楽器。
フルートだろうか。
正確にはわからないけど、その楽器を吹く彼女の姿は、とても、とても綺麗だった。
色が見えたのは、きっと気のせいだったんだろう。
彼女が一通り曲を吹き終えたところで、俺の世界はグレーへと戻っていた。
人の気配に気づいたのか、彼女は振り返り、俺の姿を見つけた。
すると、わっと驚いた様子で慌てて楽器をカバンにしまい込んだ。
そして照れくさそうに、彼女は俺に笑顔を向けたんだ。
続
どーも鈴ほっぽです。
三日連続の投稿で少し疲れながらも、楽しく色音を書いている今日この頃ですが、皆様急激に上がった気温の中どうお過ごしでしょうか。
私はもう溶けそうでやばいです。
さて、色音第三話ということですが。
今回は喋ることができない謎の少女八坂ちゃんと、色がわからない詩苑くんの出会いのお話でした。
これからどんな物語になっていくんでしょうねぇ。
楽しみに次話を待っていただけたら嬉しい限りです。
それでは今回はこの辺で終わりましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




