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色音  作者: 鈴ほっぽ
19/27

第十七話 不運な四人

体育祭に入りました。

ピピピピっ!

毎日毎日飽きもせず同じ時間に鳴り始める目覚まし。

その音にはもはや俺のことを起こす力なんてものはなく、俺は半分以上寝ながら目覚ましをぶっ叩いて止めた。

くっそ眠い。起きたくない。

つか学校なんざなんのために行くってんだ?

勉強なんて義務教育の範囲だけで充分だろう。

歴史を知ってなんになる。信長がいつ死んだとか、誰が征夷大将軍だったとか、幕府はいつ滅びたとか。

そんなもん知ってて得するのは歴史オタクくらいだろう。

英語は今の時代必要だとは思うけど、使う時に覚えりゃいいだろ。

そんな教育委員会に怒られそうな悪態を心の中でつきつつ、もう一度気持ちのいい睡眠に入ろうとした時、俺の身体がゆさゆさと何者かの手によって揺さぶられた。

「・・・んぁあ?」

なんだよ。俺は眠いんだ。人は眠かったら寝るんだよ。邪魔しないでくれ。

寝返りをうって抵抗する。

それでもゆさゆさと俺の身体は揺さぶられる。

さすがにイライラして、俺はガバッと起き上がり、安眠の邪魔をするやつに文句のひとつでも言ってやろうと目を開く。

すると、

【おはようございます。シオンさん】

「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

俺の部屋に八坂がいた。

いやぁ。驚いたね。

人生で一番といっても過言ではないレベルで驚いた。

だって、朝起きたら目の前に八坂がいるんだぜ?

驚かないやつの方がやばいだろ。

「・・・・・・・・・なんで、いるの?」

頭の中がとんでもないほど混乱している。

昨日はなんかあったか?八坂と何かしたっけ?

いや、昨日はただの平日で、八坂とは帰りが同じタイミングだったから一緒に帰っただけだ。

間違っても一夜を共にするなんてことにはならない。

というかよく見ろ俺。この八坂は学校指定のジャージを着てるじゃないか。

つまり今日は学校がある。

ん?じゃあなんで制服じゃないんだ?

あれ?まさか今日って・・・

【シオンさん、体育祭ですよ。早くしないと遅刻してしまいます】

あーそっかぁ、体育祭かぁ。

もうそんな日だったのかぁ。はっはっは。

じゃなくてね?

「なんで俺の部屋にいる!?」

やっとまどろみの中にいた俺の脳は、正常に動き出す。

【それは・・・ですね。起こしに来ちゃいました】

なるほど。なんだその言いにくい感を出しつつ、来ちゃった!てへ!みたいな言い方。くそ可愛いな。

・・・じゃないんだって俺!

「俺の家知ってたっけ!?」

そうだよ!俺は八坂に家を教えた記憶はないんだが!?

【それは伏見さんに教えて貰いました。さあ、早く着替えてください】

どうして俺の周りには個人情報を勝手に漏らす奴らしかいないんだよ。

いや、いいんだよ?うん。信用してるからね?

だけどさ、ほら、一言断りを入れるとかさ、あるじゃん。

まあ、とりあえず。

「分かった・・・うん。じゃあさ、着替えるからさ、あの、出てって・・・欲しいかな」

八坂目の前で着替えるのは恥ずかしい。

【あ、そうですよね。じゃあ私は先に外に出てますね】

八坂はそう言って俺の部屋を出ていった。

「ふーー・・・」

長ーく息を吐く。

はぁ・・・着替えよう。




「おまたせ」

「おはよ詩苑」

【改めておはようございます】

家を出ると、八坂と碧がいた。

なるほど、碧はわざわざ八坂をここまで連れてきたのか。

「・・・なあ碧。お前の家って真反対だよな?ここまで来るのに一度学校を通り過ぎないといけないよな?」

まさかとは思うけど八坂をここまで連れてくるためにそんなめんどくさい事を?

「え?そうだけど?僕は詩苑を驚かすためなら労力を惜しまないタイプだよ?」

そうだったな。お前そういえば性格悪かったな。うん。

【昨日伏見さんに相談したら、僕が一緒に行こうか?って言ってくれたので、お言葉に甘えました】

「そういう事か・・・まあ、その、なんだ。わざわざすまんな」

三人で会話しつつ、学校に向かう。

今日は体育祭。

つまり、


俺達の本番の日。




「全員いるな?」

朝のホームルーム。

林堂先生が教室内を見渡して、言った。

そして黒板にでっかく体育祭と書いた。

「今日は体育祭だ。競技に出るやつは頑張れ。出ないやつは応援でもしてろ。そんで運動部の奴らはほかのクラスの初心者共をぶっ潰せ」

うわーお教師とは思えない発言で俺ビックリ。

「あと、今日の放課後は体育館で打ち上げライブがあるから、是非ともみんな来てくれ。俺が無理言って通した企画だからな。成功してくれなかったら多分俺の首が飛ぶ」

あんたそんなリスク冒してたのかよ。

ますます失敗できねえじゃねえか。

「あーあと、そうだ。昼休みの後にある、生徒会主催競技についてだが、出場者は各クラス三人、くじ引きで決める。つーわけで割り箸で作ってきた」

ドンッと、教卓の上に割り箸が大量に入ったペン入れを置いた。

「当たりには先端に赤い色がついてる。ちなみに、先生達も出場者の対象らしいので、割り箸はお前らの分プラス俺一人の分が入ってる。それじゃ、出席番号若い奴らから来い」

林堂先生がそう言うと、出席番号一番の赤井秋斗(あかいあきと)に続き、教卓の前に行列ができる。

「赤井って出席番号一番じゃなかった時あるのかな?」

俺の真後ろに座る碧がそう言う。

「さあ・・・?でも、出席番号って一番前でも一番後ろでも得することないよな」

基本真ん中にいるのが一番いい気がする。

授業で当てられる時も、出席番号順で当てられることも多いからな。

「詩苑、順番だよ」

っと、早いな。

教卓まで移動して、本数が半分近くに減った割り箸を見て、適当に引く。

まあそんな都合よく当たりなんて引かないだr

「詩苑。当たりだ。良かったな」

「ちくしょおおおおおおおおお!!!!!!」

先端が赤く塗られた割り箸をゴミ箱に叩きつける。

「はっは!そうか、叫ぶほど嬉しいか。そうかそうか」

この教師煽りよる!うぜえ!!!

くそ・・・今日は強制参加の競技以外堕落した時間を過ごそうと思っていたのに・・・!!!

肩を落としながら、席に戻ると、碧が

「どんまい」

と言ってきた。笑顔で。

お前本当は林堂先生の息子だったりしない?性格悪い所めちゃくちゃ似てるぞ?

「じゃ、僕も引いてくるね」

そう言って立ち上がる碧を見送る。

あいつも当たり引かねえかなぁ・・・

そう思いながら見ていると、林堂先生がにっこりと笑いながら碧を見ている。

あっ…(察し)

碧が肩を落としながら戻ってきた。

「詩苑。僕は現実を呪うよ」

「お互い頑張ろうな」

こうして、俺達はお互いの傷を舐め合うことになった。

さあ、くじ引きも終盤。

俺達以降当たりは出ずに、とうとう最後の二本となった。

クラス全員が緊張の面持ちで、林堂先生と、対峙する渡辺莉央(わたなべりお)に注目している。

渡辺が当たりを引けば林堂先生の憎たらしい笑顔が。

ハズレならば、林堂先生のメシウマ顔が見られる。

渡辺が右の箸を手に取る。そして、引き抜く!

さぁ、どうだ!?

「「「「ぉぉおおおおお!!!!!!」」」」

その時、クラス全員の気持ちがひとつになった。

渡辺が握る箸は、綺麗な何も書かれていない箸。

そして残された林堂先生の手に握られた箸は、先端が真っ赤に塗られた箸だった。

その日、林堂先生のクラス全員は、初めて林堂先生が膝から崩れ落ちる姿を見た。




「因果応報ってこういう事を言うんだな。教師になって初めて学習したよ」

ホームルームを終えて、各々出場する競技が来るまで自由になり、俺と碧と林堂先生は教室に残り、仲良く窓からグラウンドを眺めていた。

グラウンドでは、サッカーが行われており、みんながあちらこちらへと走り回っている。

「今あんたにかける言葉があるとしたら、ざまあみろ。かな」

「どう言おうと勝手だが、お前には大事な仕事があるんだからな。失敗は許さんぞ」

「珍しく林堂先生の悔しそうな顔見ました」

「伏見。お前も失敗したら許さないからな?」

「大丈夫ですよ。僕は声楽部のみんなと出るので、ミスしてもバレませんって」

お前小学校の時の合唱とか口パクしてたタイプだな?

ピコンッ

「ん?」

突如、スマホが鳴る。

八坂からか。

【生徒会主催の競技で当たりを引いてしまいました・・・】

・・・俺達って揃って不幸なんだな。




それから二時間ちょっと。

昼休みが終わり、グラウンドでは生徒会主催の競技。

借り物競争が開催された。

一年生、二年生、三年生の順番で行われるらしく、今は一年生達が借りるものを探して奔走している。

俺達は出番が来るまで、待機場所で座って待っていた。

「借りるものってどんなものなんだろうな」

「さっき終えた人達に聞いてみたけど、基本は「人」らしいよ」

人・・・?

【○○している人、とかアクセサリーを身につけている人、とかですね】

「なるほど」

「ちなみに、一年生はそこそこ優しい課題だから、俺達の時はそこそこ難しい課題になるらしい」

林堂先生が生徒会役員から奪い取ったであろうプリントを見ながら言った。

この人横暴すぎてそろそろ学校からクビにされるんじゃないか?

ちなみに、各クラス一人ずつ順番で走らされるらしく、碧が最初、俺が二番目、最後に林堂先生らしい。

そういえば、

「八坂は何番目に走るんだ?」

【私は最後です。あまり走るのは得意じゃないんですけどね・・・】

それなら、八坂が走るところ見られるな。

転んだりしないか心配だな。

「あ、そうだ。詩苑。今日は桜木が来てるから、もしかしたら使えるかもな」

そんなジャストで「おネエの人」なんてお題でねえだろ。

そんな感じで雑談していると、放送がかかった。

「借り物競争、一年生の部が終了しました。十分後に二年生の部を開始します」

「はぁ・・・憂鬱だなぁ」

放送を聞いて、碧が落ち込む。

俺も同じ気持ちだよ碧。

いや、多分この場にいる四人同じだな。



十分後・・・



「それじゃ、いってきます」

覚悟を決めた碧を三人で手を振って送り出す。

スタートラインに立つ碧は、集中しているのか、険しい顔をしていた。

やるからには勝つ。そんな感じだろう。

他のクラスの走者も揃い、スターターピストルを持った生徒会役員が空に向かって銃を構える。

それから少しの間を置いて、

乾いた火薬の破裂音が響いた。

スタートラインに立っていた生徒達がいっせいに走り出す。

こうして、俺達の最初の戦いが始まった。


どーも鈴ほっぽです。

今回から体育祭に入りました。

つまり、最終回が本格的に近くなってまいりました。

それでは、次回をお楽しみにということで。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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