第十四話 碧くんメタモルフォーゼ、そして絶望
今回はネタ回だと思います。
それは、一目惚れだったのかもしれない。
いや、どうなんだろ。
僕が惚れたのは、明日原先輩の歌だったのかも。
僕が声楽部に居続ける理由は明日原先輩の声が聞きたいから。
でも、僕は今。そんなことで声楽部でいようと思っていた過去の自分を、
「うわぁぁ!!!!かっわいいいいいい!!!!」
とっても恨んでいます。
「まさかこんなに似合うなんてね・・・」
「・・・」
僕は今、明日原先輩とその他部員に、着せ替え人形にされています。
「うーん、でもこれだとちょっと違うよねぇ・・・もーちょっと女子生徒感を出したいなぁ」
「そうは言っても、みんな買ってきた服は私服系だし、難しいんじゃない?」
「真希ちゃん制服脱いでよ」
「軽く首絞めようか?」
「冗談だから許して!」
「あの・・・僕の服を返してください・・・」
「だめだよ!まだステージ衣装決まってないんだから!」
・・・はい?
「まさかとは思うんですけど、僕女装してステージ立つんですか!?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ!?!?」
「あ、志穂。私思いついた」
それは僕を女装させない方法ですか!?
「ん?なに?」
「志穂の制服ならサイズも大きいし伏見くんも着れるんじゃない?たしか銀髪のウィッグあったよね?それ被ってもらって、化粧と髪型整えちゃえば謎の美少女学生出来上がっちゃうんじゃない?」
くっそノリノリだこの人!?
「真希てんっっっさい!いいねそれ!待っててね碧くん!今脱ぐから!」
ここで脱ぐの!?
「さすがにここで脱ぐのはダメだと思いますが!?」
「大丈夫だよ。ここの部室女子しかいないから」
「僕男ですけど!?」
頭のネジ外れてんの!?
「はーいみんな、志穂の体隠して。あ、伏見くんが見たいって言うなら隠さなくても」
「見たくないですよ!?」
「碧くんなら・・・いいよ?」
「見たくないって言ってるじゃないですか!」
「ちぇー」
そう言いながら、明日原先輩は部室の角へ。
みんながその周りに壁のようになって、完璧に明日原先輩を覆い隠した。
そんな集団から、ボソボソと声が聞こえてくる。
「部長のおっぱいやっぱり大きいよねぇ」
「わかる。埋もれてみたい」
「一度でいいから揉みたいなぁ・・・」
「吸いたい」
・・・僕は思ったよりやばい部活にいるのかもしれない。
なんて、女の子が着るヒラヒラなスカートの裾を弄びながら考えていると、
「はい!ぬいだ!」
明日原先輩が脱ぎたての制服片手に部員の壁を突き破ってきた。
下着姿で。
「・・・・・・」
服の上からでもわかるほどの巨乳。
それが今。ブラ一つというあまりにもか弱いものに守られている。
明日原先輩が一歩進むごとに、そのおっぱいはバインバインと地球の重力に逆らったり従ったり。
やっぱり僕も男だし。その光景には目を惹き付けられてしまう。
「碧くん?」
「わあぁ!?なんですか!?というか服着てください!!!!」
「見られて困るものじゃないし、大丈夫よ?」
「そういう問題じゃない!!!!」
危機感無さすぎだよ!
「志穂。ジャージ貸すから着て」
「はーい」
なんでこんな抜けてるのかなこの人・・・
「ねー真希ー。これ胸きついよー」
「・・・小さくて悪かったわね」
ジャージだからある程度伸縮性はあると思うけど。
明日原先輩の胸は収まりきらないらしい。
すっごいパツパツだぁ・・・
「碧くん。お着替えだよ」
「え、ほんとに着るんですか・・・」
「せっかく脱いだんだし、ほら、碧くんと脱いだ脱いだ」
明日原先輩が僕が着ている服に手をかけて脱がそうとしてくる。
「ちょっ、自分で脱げますから!」
結局、僕は明日原先輩の制服を着ることになった。
何故かスカートの履き方を覚えてきている自分が憎いよ・・・
なんか胸のあたりがすっごい余るなぁ・・・
さっきまでここに明日原先輩のおっぱいがあったのかァ・・・
・・・・・・いやいや。
変なこと考えたらダメだ。
とにかくさっさと終わらせて帰ろう。
それが一番だ。
パーテーションで仕切られた部室の端。
このパーテーションから出たら、僕の女子生徒服の姿がみんなに・・・
普通の女装と違って妙に緊張してしまう。
なんでだろう。
明日原先輩の服だから?
いや、そんなわけないよね。
「碧くーん?きれたー?」
「今行きますよ」
はぁ・・・ほんとに女装でステージに立たされるのかなぁ・・・
明日原先輩ならやりかねないよなぁ・・・
ふと窓の外を見ると、太陽が沈みかけていた。
早く帰りたい・・・
ふぅ・・・今日はもういいかな。
明日からは部活に参加しないと。
いつも使っているフルートをカバンに入れて、教室をでる。
詩苑さんはもう帰ってるよね・・・
スマホを取り出して、詩苑さんにメッセージを送る。
【もう帰ってますか?】
よし。楽器返しに行こ。
「あのどうするんです?」
「とりあえずその見た目になれるために、校内一周しましょ」
何を言っているんだこの人は?
「さすがにそれはダメじゃないですかね・・・」
「今の時間ならほとんど人いないし、大丈夫よ」
ダメだ篠田先輩がもう完全に味方じゃない・・・
「さすがに集団だとあれだし、放課後友達でぶらついてる感出すために私と真希がついて行くよ」
「いっそ一人の方がいい気がしますけど・・・」
「ん?そんなに自信あるの?」
「いやだって・・・」
そういう僕の姿は、もはや男ではなかった。
明日原先輩の女子生徒の服に、銀髪のウィッグ。
それを篠田先輩が整えて、綺麗なポニーテールに。
そして顔にはナチュラルメイク。
胸には少し詰め物をさせられて、もう完全に女子だ。
ここまで自分の中性的な見た目を恨んだことは無かったぞ・・・ぐぬぬ・・・
「僕が一人で行きます。さすがに明日原先輩と篠田先輩二人に囲まれると本当に女子生徒に見られかねない」
「決意固いね・・・」
「志穂。好きにさせてあげましょう。ここまで好き勝手やった私たちが言うことでもないけど・・・」
ほんとだよ!
ここまで好きにされた僕の気持ちを考えて欲しい!
「それじゃ、いってらっしゃーい。誰かにバレたら帰ってきてね」
バレなかったら帰ってくるなと?
そんな感じで、僕は声楽部の部室をあとにした。
さすが放課後になってから2時間ほどたってるおかげで、人が少ないなぁ。
グラウンドにはまだ運動部がいるだろうけど・・・
体育館にも近づかない方がいいかな。
とりあえず、図書室辺りに行ってみようかな。
思い立ったらすぐ行動に。僕はスースーする脚を気にかけながら、早歩きで図書室に向かった。
階段を登っていくうちに、僕は思い出した。
そういえば、図書室の一個下の階って・・・
音楽室があったような・・・
気が・・・
「あ・・・」
さて、楽器も返したし、帰ろ。
音楽室から出て、階段に向かう。
ん、足音だ。まだ残ってる人がいるなんて、珍しい。
そんな事を考えていると、やがてその足音の主が階下から姿を現した。
「あ・・・」
その人は、とっても珍しい見た目をしていた。
制服はうちの学校のだけど、髪の色が派手。
銀色をしている。
身長は結構高めで、スタイルがいい。
転校生かな?なんて思ったけど、こんな時期に来るなんてありえないし、そもそも、髪を染めるのは校則違反だから、こんな人いたら先生にすぐ怒られちゃうはず。
・・・ずっと私のことを見て固まってるけど・・・どうしたんだろう・・・
ま、まずい。
まさかとは思ったけど。
八坂さんとエンカウントしてしまうとは・・・
ずっと見つめるのはまずい。
怪しまれる。
いや、こんな見た目してるせいで怪しまれるのは当然だ。
ど、どうしよう。
何も無いふりしてさっさと階段を登ってしまおう。そうしよう。
・・・あれ?
なんかあのくらいの身長で、あの体つき・・・見たことあるような・・・
いや、まさかそんなわけないですよね・・・
どうしよう。気になっちゃった。
聞いてもいいのかな?
でも、もしもあの人にそんな趣味があったとしたら、知られたくないことだよね・・・
ポロンっ
ひぇ!?なに!?
写真!?写真でも取られた!?
あ、詩苑さんからだ。
【もう家に居るよ。そういえば、碧から返信来ないんだけど、なんか知らないか?】
碧さんから返信が?
うーーん・・・あ、碧さんにメッセージを送ってみよう。
八坂さんがスマホを見ているうちに階段を登ろう。よし。行くぞ。
ピコン
こんな時にメッセージが来たァァァァ!?!?
誰だァァァァ!!?!?
【詩苑さんが返信来ないって心配していますけど、大丈夫ですか?】
大丈夫じゃないよ!?今!なう!圧倒的に!大丈夫じゃない状況!!!!
私はどうしたらいいんでしょうか。
碧さんにメッセージを送ったら、目の前の美少女?から着信音が聞こえました。
しかも、碧さんと同じ着信音です。
どうしましょう。
ピコン
【もしかして、碧さんですか?】
聞いてきたァ!?
終わった!僕の人生終わった!
どうしましょう。
目の前の美少女?がほとんど碧さんと確定してしまいました。
物凄く絶望してる顔をしています。
「えっと・・・その・・・」
あ、この声は碧さんですね。
「色々、理由があって・・・」
【趣味ですよね?】
「違うよ!?」
【冗談です】
「冗談にしてはタチが悪いよ!」
【安心してください。シオンさんには言いませんから】
「違うって!誤解だよ!これは先輩に言われて!」
すごくベタな言い訳ですね・・・
「疑ってるよね!?分かった!」
突然、碧さんが私の手を掴んできました。
「突然でごめんね!ついてきて!」
え?え?どういうことですか?
わわわわ!!!
うーん・・・構図が決まんないなぁ・・・
本番どんな絵を描けばいいんだ・・・?
あーわかんねぇよぉーーーーー・・・
帰宅してからずっとこの調子だ。
本番で描く絵が決まらない。
いやぁ・・・どうしようかねぇ・・・
あと何日だ?
一週間ちょっとだろ?
くっそぉ・・・八坂に相談してもなぁ・・・
八坂も楽器の練習で忙しいだろうし・・・
自分でなんとかするしかないよなぁ・・・
いま、何時だ?
八時か・・・
風呂入るか・・・
今日は色々ありました・・・
とりあえず、碧さんには謝りましたし。
声楽部があんな個性的な人達だとは思いませんでした・・・
詩苑さんは今何してるのかな・・・
体育祭、緊張するなぁ・・・
時計をちらりと見る。
あ、もう八時だ。お風呂入ってこよ。
死にたい。
誤解は解けたとはいえ、死にたい。
恥ずかしすぎる。
ほんとに本番あれでやるなんて信じられない。
もうやだァァもおぉぁぁぁぁあぉおあおお・・・
はぁ・・・お風呂入ろ・・・
体育祭まで、あとちょっと。
続
お疲れ様です。
次回から真面目パート入ります。
そして、最終回が近いです。
では、次回もお楽しみに。
鈴ほっぽでした。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。