第一話 灰色の虹
鈴ほっぽです!詳しくは本文の一番下に書いてます!
色音
第一話
灰色の虹
全人類が迎えることになる、1週間のうち最も忌々しい日。
それは毎週寸分の狂いも無く、全人類平等にやってくる。
月曜日。
人によっては休日だったりするかもしれないが、今を生きるピチピチな男子高校生な俺には、憂鬱な平日の始まりだ。
目覚まし時計が鳴るよりも早く目が覚めた俺は、まだ寝ていたいという気持ちと、二度寝は己を滅ぼすという今までの短い人生を振り返った上での教訓の元、二度寝をする訳にはいかないといった葛藤をしていた。
もぞもぞと、寝起き独特の感覚を振り払うべく体を動かす。
あー・・・カーテンの隙間から朝日が見える。
眩しい。
目の前が真っ白になるような感覚で、ようやく意識が覚醒する。
ゆっくりと、毛布を持ち上げながら身体を起こす。
ぐぃーっと腕を伸ばし、凝り固まった身体をほぐし、なんとなく時計を見る。
おいおい、まだ若者は寝てる早朝五時半じゃねぇか。
目覚ましが鳴るよりも一時間も早く起きてしまった。
まだ少し重たいまぶたに鞭を打ち、ぼやけた視界が鮮明になったのを確認して、壁に飾った風景画を見る。
そして、今日もまたため息をつく。
やっぱり、だめか。
いつの日からか、毎朝起きてはこのため息。
ため息をついたら幸運が逃げるだかなんだか言うが、別に今更逃がす幸運もないさ。
どこの誰が言ったとも知らない言葉に、心で皮肉を返しながら部屋を出る。
ひんやりとした床板が、心地いい。
それに反して、なんだか空気は重いな。
ジメジメとした空気に少し顔をしかめながら、リビングへ向かうべく階段へ。
我が家は今のご時世珍しい二階一戸建てで、家族全員で住んでいる。
これまた珍しい稼ぎの良い両親のおかげで、家のローンもなく、生活に不自由してることも無い。
父さん母さんありがとう。
なんて、普段は絶対恥ずかしくて言えない言葉を心に思い浮かべながら、階段を下る。
さすがにこの時間に起きてるのは俺くらいだろうな。
リビングへの扉を開き、中を見渡す。
見慣れたソファにテーブル。
テレビにクローゼット。
うん、いつもの。
「あ、おはよ。」
・・・って、俺以外にも起きてるヤツいるじゃん。
ソファでスマホをいじりながらくつろいでいるちっこい我が妹は、扉を開ける音に機敏に反応して当たり前のようにおはようと言ってきやがる。
珍しく目覚ましの一時間前に起きてきて一番乗りの気分で少しウキウキしてた気持ちを返せ妹。
まぁとりあえず、おはようと言われたら俺もおはようと返すべきで。
「おう、おはよう」
とだけ言って、キッチンに向かう。
我が家は家族仲は悪い方ではない、というか、めちゃくちゃ良い。
というのも、目の前でくつろいでいる妹と俺はめちゃくちゃ仲がいい。
時折生意気な口をきくが、基本はいい子だ。
「兄さん今日は珍しく早いね?」
妹はソファに陣取ったまま、スマホから目を離さずに言う。
「月曜日が憂鬱すぎて逆に早起きしちまっただけだ」
俺の妹、鳴瀬詩葉はとんでもなく朝が強い。
早起きするのは知っていたがまさか五時半よりも早く起きていたとは・・・
兄さんこと俺、鳴瀬詩苑は朝にめちゃんこ弱い。
元々苦手ってのもあるが、俺が抱えてる体質のせいってのもある。
「あはは、兄さんらしいや」
詩葉は軽く笑いながら立ち上がり、こちらに歩いてきた。
俺は俺で、口を潤すために冷蔵庫を開ける。
「なんかとるか?」
大方、詩葉もなにか飲みたくてこっちに来たんだろう。
我ながら兄として良い気配りだと思う。
「んー、じゃオレンジジュース」
わかった。じゃあ俺もオレンジジュースでいいか。
灰色の紙パックのオレンジジュースを手に取り、冷蔵庫を閉める。
それと同時に、詩葉がコップを2つシンクに置く。
「お、さんきゅ」
流れるようなコンビネーションでコップにジュースを注ぐ。
なんとなく妹とコップを打ち付け合い乾杯。
二人で一緒に飲み干す。
「ぷは。やっぱ朝のオレンジジュースは最高だね」
早朝だというのに、満点の笑顔を向けてくるあたり、ほんと元気だな。
「お前はもっと牛乳を飲め。大きくならんぞ」
「余計なお世話ですー。てか詩苑兄もそんなに大きいほうじゃないじゃん」
ふむ。たしかに。
詩葉の身長は大体140後半。
中学のクラスで背の順並びだと前から数えた方が早い。
そんで俺の身長は160前半。
お世辞にも高身長とは言えないどころか今の時代の平均身長で言うと低身長と言われるまである。
だがな、妹よ。
「俺くらいの歳になるとな、成長が止まるんだ」
「え、まじ?」
そう、止まるのだ。
俺だってな?頑張ったんだ。
中学時代は身長が伸びることを見越して少し大きめの制服を買って。
でも結局あまり伸びずに萌え袖状態で3年間をすごしたさ。
そのまま高校生になって今。
俺はつい最近高校二年生になった。
でも、身長は全くと言っていいほど変わってない。
高校生の間は伸びるって母さん達が言うから信じて毎日牛乳を飲み続けているのにも関わらずだ。
「だからな詩葉。俺みたいに高校生になってからじゃなくて、努力出来るうちに努力しておけ。じゃなきゃ希望がなくなるぞ・・・」
愛しい妹にはこんな悲しい道を歩ませたくはない。
「お兄ちゃん・・・」
・・・あのさ
「詩葉、お前いい加減俺の呼び方を統一してくれない?」
さっきから、というかずっと前からなんだが、詩葉は俺のことをお兄ちゃんだったり兄さんだったり詩苑だったり詩苑兄だったりと、結構な数の呼び方からランダムで呼んでくる。
俺はあまり気にしないんだけど、呼んでる本人はいちいち呼び方を変えて面倒くさくないのだろうか。
「えー別にいいじゃーん。お兄ちゃんが困るわけでもないし」
いやまあそうなんだが・・・
ど正論を言われ、お手上げ状態なことを妹に伝えるべく、両手を上げひらひらと振る。
妹はふふんっといった感じでまたソファへ戻っていった。
ふーむ。それにしても、だ。
こんなに早く起きてしまったせいか、やることが無い。
普段は両親と妹が先に起きていて、俺が起きてくる頃には朝飯が用意されてるからなぁ・・・
たまには親孝行なるものをしてみますかね。
「なぁ詩葉。母さん達が起きてくる前に朝飯作っちまおうぜ」
まだソファに座ったばかりの詩葉に声をかける。
すると、首をがくんとこちらに向けてえびぞりになった詩葉が、とてもめんどくさそうな表情で
「兄さんが作れば・・・?」
とだけ言ってソファの背もたれに隠れてしまった。
「・・・兄思いの妹だと思ってたんだがなぁ・・・」
「兄思いの妹は普段家事をまったくしない兄のためを思って、すべて任せる判断をしました」
ちくしょう、痛いとこついてきやがるっ。
「・・・わかったよ。何食べたい?手軽なもんならつくれるぞ」
「んー、じゃあフレンチトースト」
おしゃれなものを要求してくるなあお前。
手軽なものとは言ったが、フレンチトーストなんざ作ったこともないぞ?
だが妹が食べたいといっているなら仕方ない。
「・・・まかせろ」
とりあえず卵が必要なのは知ってるぞ・・・
はてさて、フレンチトーストってのはこれであってるのか?
今の朝食はおしゃれなものなんだな・・・作ることになるとは思わなかったけど・・・
でも見た目はすごくそれっぽいぞ。
たぶんこの食パンは卵とバターをたっぷり吸って黄色く焼きあがってるに違いない。
結局、焼き色がわからないせいで結局詩葉に手伝ってもらってしまった。
ほんと、あの日からずっとだけど、不便だな・・・
「お?なんかいいにおいがするな?」
・・・っと
「おはよう、父さん」
「おはよーおとーさん」
ちょうど出来上がったところに父さんが起きてきた。
「おはよう。詩苑が早起きしてるなんて珍しいな?今日は雨でも降るのか?」
ちょっとした冗談を言いながら、父さんは食卓に腰を落とす。
「今日は空気が淀んでるからな、雨は降ると思うよ」
その冗談にマジレスし、俺の自信作もとい詩葉が焼いたフレンチトーストを父さんの前に出す。
「おいおい、何の冗談だ?お前らが作ったのか?」
この親父、普段家事の手伝いしないからっておちょくってきやがる。
「そーよ。私と詩苑兄の合作だよ」
詩葉は自信満々といった感じだし。
「あら、二人が料理をするなんて珍しいわね」
気付いたら母さんもおきてきていた。
「おはよう。母さん」
「おかーさんおはよ」
「おう、おはよう」
三人そろって言う。
「はい、おはよう」
母さんのおはようはいつ聞いてもおっとりしてるな・・・
さて、これで家族がそろった。
「私もうお腹ぺこぺこだよー、早く食べよ?」
詩葉はもう我慢の限界といった様子で、卓に着く。
「そうね。じゃ、みんな手を合わせて」
母の号令で家族全員で
「「「「いただきます」」」」
さあ、また今日が始まる。
「いってきます」
あれから三十分ほど。
いつものように俺は学校に行く準備をして、家を出る。
俺が通う学校は、徒歩で三十分ほどのちょうどいい場所にある。
つい二週間ほど前に新学期が始まり、三年生は卒業し元二年生が新しい三年生として、一年生だった俺達は二年生としての生活が始まっていた。
のんびりと退屈な道のりを歩み進める。
住宅街を抜け、街の通りに出る。
道路には複数の灰色の車がせわしなく行ったり来たりしている。
横断歩道にさしかかり、足を止める。
信号の色は黒に近い灰色。
色の中にある人のマークは気をつけをしている。
「ふぅ・・・」
なんとなく、息をつく。
学校まで、あと十分ほどの距離。
周りにはちらほらと、俺と同じ制服を着た生徒達が同じように信号待ちをしている。
空を見上げると、白に近い灰色が無限に広がっていて、遠くのほうには黒い雲が見える。
こりゃ、今日は雨が降るな・・・
気付くと、信号の色は変わり、同じように信号待ちをしてた人達が歩き始めた。
俺もそれにならって歩きはじめる。
あー・・・学校行きたくねぇ・・・
どこの高校もそうだと思うが、朝のホームルームが終わり、一時間目。
そして十分程の休憩時間を挟み二時間目。
さらに十分休憩を挟み三時間目、というように時間はすぎていく。
五十分という中途半端な授業の中で学ぶものなんてどうせ将来使わないだろ。なんて誰もが思ったことだろう。
俺もそう思う。
だからこそ、学校に来る意味は勉学のためじゃなくて、数少ない友人と話すためだと俺は思うね。
そうだろ?
「碧」
「ん?なに?」
俺の目の前の席に座る、数少ない友人の1人。
伏見碧は、中学の頃からの親友だ。
女の子みたいな名前してるが、男だ。
とは言っても、顔立ちが女の子寄りのせいで勘違いする奴も多い。
しかも声も高く、両声類って感じだ。
唯一わかりやすいとこって言ったら身長か。
低身長な俺とは違い、碧は170後半くらい。
その身長を少しでいいから分けろ。
「暇だから話そう」
「今授業中なんだけど・・・」
おいおい、高校の授業なんざ私語して当たり前だろ。
ましてや世間話でもしてないとやってらんない美術の時間だぜ?
周りを見ろよ碧、この美術教室全体がにぎやかじゃないか。
「周りだって話してるだろ」
とにかく、俺だって無言で絵を描き続けられるほど集中力がある訳では無い。
「詩苑はいつから寂しがり屋になったの?」
「いつからも何も、人ってのは常に寂しがり屋だよ」
誰だって友人なしじゃ生きてくのも辛いもんだろ。
少なくとも俺はそうだ。一人でいるのは嫌いじゃないが、学校という退屈な場所では友人がいないとやってられん。
「仕方ないなぁ、あれ?詩苑、まだ下書きして・・・白紙じゃん・・・」
やっと話す気になってくれると思ったら、俺の作業の進捗が芳しくないことを指摘してきやがった。
「これはあれだ、今日はクリエイティブな発想ができないんだ」
「言い訳する暇あるならなんでもいいから描きなよ」
仕方ないだろ、なにかテーマがあるならまだしも、今回のテーマは決められてなく、自由に好きなものを書いてくださいだぞ?
家族でどこかに行く時、どこへ行きたい?って聞いた時に、「どこでもいい」という答えが一番困るだろ?
しかもどこでもいいって言ったクセしてここは嫌だあそこは嫌だと文句を垂れ流す。
文句を言うなら初めから自分の意見を主張しろってんだ。
「詩苑は食堂とかで日替わりランチを頼まないタイプだね」
よくわかったな、他人にせっかくの食事をその日のおまかせなんぞで決められてたまるか。
俺はその時食いたいものを食うね。
「その割には詩苑ってクラスの委員決めの時、面倒じゃなきゃなんでもいいって連呼してたよね」
碧は筆を持つ手を忙しなく動かしながら淡々と口を動かす。
「食事と委員は別だ。自らクラス委員長とか、昼休みを捧げる社畜図書委員に立候補する奴らは頭がおかしいと思うね」
「ねえ詩苑、僕クラス委員長なんだけど・・・」
「はっはっは、口が滑った」
「そんなに詩苑が言うなら後期の委員決めで図書委員にしてあげてもいいけど」
「ごめん、まじごめん許して」
「なら早く下書きおわらせなよ。あと1時間しかないよ?」
「・・・え、もうそんな時間?」
「気付いてなかったの?」
どうやら、碧と話すのに夢中で時間に気が向いてなかったらしい。
「さすがに未完成で提出はまずいよな?」
「説教と成績ダウンのコンボだね」
「碧、頼みがある」
「はぁ、なにさ」
かなり真面目に碧の目を見つめる。
よく見ると透き通った綺麗な目をしているなお前。
黒と白のコントラストがとても綺麗だ。
・・・じゃなくて。
美術という教科は、俺にとって天敵なんだ。
昔は大好きだったし、1年前までは美術部にだって入ってた。
それなのに、なんで今俺が美術を苦手としているのか。
それは
「赤い絵の具はどれだ・・・?」
俺は色がわからないからだ。
いつからだったか、はっきりとは覚えてないが、俺の視界は黒と白の濃淡だけで映るようになっていた。
いきなりこうなった訳ではなく、初めは朱色とスカーレットと呼ばれる色の違いがわからない程度だったが、日を追う事にそれは悪化していった。
まず、海と空の色が同じに見え始めた。
次は、虹の色が三色に見え、最後には全てが灰色に見えていた。
当時、絵を描くことを何よりも大事に、楽しみにしていた俺は、日に日に色を失っていくことで、絵を描くことを諦めてしまった。
それからずっと、俺は黒、白、その2つの混合色の灰色の三色でしか、世界を見れなくなっていた。
色がわからなくたって絵は描ける。
でも、色のない絵なんて、魅力がない。華やかさがない。彩りがない。
ずっと前に見た、大賞という札が貼られた俺の絵は、どんな色だったんだろう。
今はもう、思い出せない。
「詩苑」
夢を、見た。
ずっと、ずっと、前の夢。
まだ俺が子供だった時の夢。
「ねぇ、詩苑」
綺麗な、草原にいた。
見渡す限り緑で、空は綺麗な青空が広がっていた。
遠くの地平線近くには、海が広がっていて、キラキラと太陽の光を反射していた。
とても、魅力的な光景で、いつかこの景色を、絵にしたいと思っていたんだ。
でも、もう出来ないのかな・・・
だって、色がわからないんじゃ、風景画なんて書けやしないじゃないか。
バンッ!
「詩苑っ!」
「うおっ!?」
「何ぐっすりしてんのさ、もう授業終わったよ?」
「・・・俺寝てたのか」
どうやら寝てた俺を碧が起こしてくれたらしい。
「寝てたよ。もうぐっすりと、先生も諦めるくらいに」
「まじでか・・・」
「というかそこに座られてると掃除できないからどいて」
「え、放課後!?」
「詩苑ボケてんの?」
マジで気づかなかった・・・
とりあえず掃除班の人達に迷惑なので教室から出よう。
起こしてくれた碧に感謝だな。
つか、六時間目の記憶がまじでないんだけど・・・
まあいいか、碧にノートを見せてもらおう。
さて、帰るか・・・
俺達二年生の教室は学校の三階にある。
なので下駄箱へ向かうなら階段を降りなきゃならない。
放課後になった学校は、様々な部活動の生徒で溢れかえり、廊下も、階段も運動部で占領されている。
なるべく邪魔をしないように端の方を歩く。
それにしても、よく階段ダッシュなんてキツそうなことできるよな。
そんなことを考えながら、ふと窓の外をみる。
「・・・まじか」
見事に雨が降っていた。
今朝降るとは思ってたけど、こんなに降るかってくらい降ってやがる。
テロリンっ
「ん?」
唐突に、ポケットの中のスマホが震える。
「詩葉か」
妹からのメッセージだった。
通知タブを押し、画面ロックを解除してメッセージを見る。
そこには
【4時半くらいには雨止むって!だから濡れないようにちゃんと止むまで待ってから帰ってね!】
と書いてあった。
「りょーかい」
とだけ返し、スマホをしまう。
「つってもなぁ・・・」
今や俺は美術部の幽霊部員。
部活に行かなくなってから毎日のように来いと言われ続けてきたが、最近になって諦められたのか、もう何も言われなくなっていた。
もはや帰宅部だな。
なので、放課後の学校で暇を潰せる場所なんてあるはずがなく、俺はあてもなく校内をうろつきはじめた。
「別棟なんて初めて来たなぁ・・・」
この学校は結構古い学校で、ここ十年ほどで今俺達が授業を受けている新校舎ができ、元あった校舎は別棟として、部活動の部室になったり、物置部屋となったりしている場所だ。
主に文化部が使ってるせいか、廊下は妙に静かだった。
少し不気味なくらい静かだな・・・
雨のせいか湿度が高く、空気が淀んでいる。
なんとなく、上の階へ足を運ぶ。
別棟の四階。
そこは本当に静かだった。
風と雨で窓がガタガタと鳴っている以外、他に音はなかった。
とりあえず反対側の階段に向かおう。
時間を潰すなら歩くだけでも十分だろうからな。
と、廊下の中腹に差し掛かった時だった。
ガララ
「うおっ」
突然すぐ隣にあった教室の扉が開き、人が出てきた。
勢いがあったわけではないんだが、お互いが不注意だったせいで、ぶつかってしまう。
「・・・っ!」
軽い衝撃を感じたが、倒れることなくその人影の肩を優しく受け止めた。
「悪い、不注意だった。大丈夫か?」
突然だったけど、勢いなかったし怪我はないと思うんだが・・・
って、この人髪長いな・・・女子か?
だとしたらとりあえず肩から手を離そう。セクハラだなんだと騒がれるのは困る。
などと考えていると、その子と目が合った。
とても、綺麗な顔だった。
目はぱっちりとした黒目で、各パーツが均等に美しく配置された美人だ。
髪もさらっとしていて、俺の目には黒髪に見えるが、滑らかな色合いだった。そしてその髪からふわっとした女の子の香りががががが
「あ、え・・・と」
まずい、ここまで美人な人だと思ってなかった!
言葉に詰まるな俺!童貞丸出しで恥ずかしくないのか!
というかあなたもあなたでずっと見つめるのやめて!?
ドキドキするだろ!
いやとにかく!
「怪我、がないようなら良かった。悪かったな、いきなり肩とか掴んじまって」
よし、これで警戒心は解けるはずだ、あくまで危なかったから受け止めただけであって狙ったわけでもないこと主張するんだ!
でもその女の子は、俺の言葉を聞いて逆に困惑した様子であたふたし始めた。
・・・なんで?
彼女は慌てた様子でトトト、と後ろに下がり、ペコりと頭下げて走り去ってしまった。
「・・・なんなんだ・・・?」
静かな廊下に、俺一人だけが取り残された。
気づくと、窓を鳴らしていた雨はもう止んでいた。
学校を出て、二十分ほど、俺は寄り道をしていた。
特に理由はないが、俺は学校近くの河川敷に歩いてきていた。
空を見上げると、雨雲は既に過ぎ去っていて、青空が少しずつ覗いていた。
っと、
「虹か・・・?」
その青空には薄い灰色のグラデーションがかかった虹が綺麗なアーチ状に伸びていた。
「・・・」
そよ風が吹き、淀んでいた空気が洗われていく。
なんだか、気持ちがいい。
色が無いはずの虹を見上げながら、風を感じる。
「たまには、雨もいいもんだな」
まるで、今日もお疲れ様。と風に言われているようだ。
いつもなら、色がなくてつまらない虹だったのに、今は少し、虹の色がわかる気がした。
続く
あとがき
初めまして鈴ほっぽと申します。
普段はpixivで二次創作をしていますが、今回はオリジナルものが書きたくなり、前から気になっていたこの小説家になろうにて書いていくことにしました。
つたない文章、言葉使いですが、暖かい目で見ていただけると幸いです。
次回はこの色音の第二話を書いていきますので、更新までゆるりとお待ちいただけたらなと思います。
では、最後まで読んでいただきありがとうございました。
こっちで別で書くとこあるとは思わなくて本文中で書いちゃった!(てへぺろ)