ヤクザファッション
「なかなか、美味しかったですね。ヤクザさん」
「…美味しかったですが、満腹で死にそうなんですけど」
「いいじゃないですか、空腹よりは幸せですよ」
俺は、お腹を抑えて後ろからついてくる勇者にげんなりした顔でいった。
確かに旨かった。しかし、あの後屋台で勇者が俺が買った分よりも多く買うものだから食べるのが大変だった。いや、ほとんど勇者が食べたけど。
「次はどこ行くのですか?」
「…特に決めていません」
さも当然といった態度で勇者が俺の行き先を聞いてきた。もう、なにもいうまい。それに勇者には借りが多すぎて言い返す気にならない。
「ヤクザさんはどこから来たんですか?少なくともこの国じゃありませんよね?」
「…すごく遠いところからです」
「国はどこなんですか?」
「…日本です」
「聞いたことありませんね。なんでこの町に来たのですか」
「…成り行きですね」
「宿屋とか決まっていますか?」
「初めてこの町に着たのに宿なんて分かりませんよ」
「ヤクザさんってよく変わってるといわれません?」
「…勇者さ…クレアさんには言われたくないですが…まぁ、普通の人間とは違う自覚はありますよ。不本意ですがね」
俺は勇者の質問もとい尋問に答えていく。
それにしても、チラチラと通り過ぎていく人の目線がうっとおしい。その原因は言うまでもなく俺の格好だろう。
くそッ…不審者を見るような目をしやがって!…だが否定できないのが悔しい!
「…服がほしいな」
本音がぽろっと漏れる。
「それでしたらいいところ知っていますよ。あっちにありますので向いましょうか。ちょうど私も向う予定でしたので」
「ちょ…背中おさないで。一人で歩けるから!」
俺の本音が勇者は聞こえたらしく俺の背中を押されて行き先を決められた。
◇◆◇◆
「クレアさん…ここどう見てもお高いお店ですよね?自分で言うのもなんですが、俺みたいな浮浪者のような格好をしたやつが入っていいお店じゃないと思うんですが…俺にはもっとこう…普通の店でいいんですよ。普通で…」
俺は、大理石をふんだんに使った大きな建物の前にいた。前世でもこんな建物を見たことが無い。というか服屋なのかこれ?どこから見ても立派なお屋敷にしか見えないんですが。
「庶民向けではありませんが、オーナーがいい人なので何とかなると思いますよ。さぁ、入りましょう」
「おさないで!せめて心の準備をさせて!」
「そんなもの必要ありません」
俺の低抗空しく背中をおされて入店した。
「あらぁ~!騒がしいと思ったら噂の勇者様じゃな~い。ようこそマダム・リッキーへ。そちらの目つきがチャーミングな方はどなたかしら~ぁ?」
「リカルドさんお久しぶりです。こちらは、ヤクザさんです」
「は…始めまして。やくざです」
店に入って出迎えたのは、厳つい鎧を着た巨躯のオカマだった。色々突っ込みたいところはあるがインパクトが強すぎてどこから突っ込んだらいいかわからん。辛うじて名乗れた俺を褒めたい。
「その格好をしたリカルドさんは久しぶりに見ますね」
「あら~やっだ~も~。私だってこんなむさくるしい鎧なんて着たくなかったわ~ん。でも、領主様から魔物の討伐の依頼が来たんだもの~仕方なくよ仕方なく~。でも、よかったわ~ん。勇者様が倒してくれて~。おかげさまで、嫌な汗掻かなくて済んだわ~ん」
クネクネと巨体をくねらせるオカマ。
うーん、この二人の接点って何だろう?
「あ、ヤクザさんこの方は、私のマスクを作ってくれたリカルドさんです。今は、様々なファッションを手がけているデザイナーですが元は、ロングランド王国の騎士団長で王国の忠臣だったのですよ」
「あらー、やだーもー。元騎士団長なんて紹介しなくていいのぉ。その肩書きを捨てた身なんだからぁ。それにしても、勇者さまが私が作ったマスクをつけてきてくれるなんてうれしいわ~ん。デザイナー冥利につきる~」
…なるほど。どうやらそういう接点があるらしい。良く考えてみれば仮面を被っていたのにこのオカマは勇者だと気付いていた。変な仮面の製作者本人なら納得である。
というかこのオカマが元騎士団長なのか…騎士団長ってゲームとかラノベだと相当偉い立場じゃなかったか?色々と大丈夫か?
改めてオカマのお店を見わたすとゴスロリ、メイド服、法衣、黒装束、胴着、巫女服、甲冑、鎧、ボンテージ、水着etc 統一感の無い品揃えである。
入った時はオカマのインパクトのせいで気がつかなかったが変な店だ。
「クレアさんこの店大丈夫なんですか?」
俺が小さな声で勇者に聞くと
「リカルドさんの品物は少々変わっていますが性能は一級品ですよ。例えば私のマスクは見たものの認識を疎外する強力な魔法がかけられています」
「認識を阻害する割にはものすごく目立っていましたが…」
デザイン的な意味で…
「…そのことでリカルドさんに用があったんですよ。私は気に入っているのですが…周りの方から変だといわれて…」
「ほう?」
勇者がマスクをさしてそういうと低い声が響いた。リカルドである。リカルドの目が赤く光り腕が膨張し篭手が破裂して飛び散った。体からは、赤いオーラーのようなものが揺らめいておりその姿はまるで鬼のようである。
グリンと俺のほうを向く。
―殺される
直感的にそう感じた。
「だれかしらぁ?私の作品を変だっていった不届きものわァ…この拳で一発殴って、分からせないといけないわねぇ…そう思わない?ヤクザちゃぁん…」
これはまずい!回答を間違えたらあかんやつや!
「そうですよ!これは見る人によっては変というかもしれませんが、そうではなく斬新なデザインなんですよね!?これが分からないやつは、古い考えにとらわれている時代遅れのアホウですわ!いやぁ!俺はこういうデザイン好きだなぁ!?」
俺は、仮面を変だといった張本人であることを棚に上げて何とか取りつぐろう。後ろから勇者の冷ややかな視線を感じるが気にしない。
「よく言ったわ~ん!同士が勇者様だけじゃなくてここにもいたなんて~!その通りなのよ~お!これは新しいデザインなのよぉ!まったく理解できないやつが多すぎて困っていたけどアタシにはアナタみたいな理解がある人がいれば十分よ~」
すっかり元のオカマに戻っていた。
ふぅ、何とか乗り切った…
「でしたら、私と同じマスクをヤクザさんにもあげてやってください。彼は、目つきが気になって困っているようなのでお代は私が持ちます。」
「え?」
「あら~それいいわね~!こんなこともあろうかと同じものを用意してたのよ~。でも、お代は要らないわ~ん!何だって同士だからね~ん!サービスよ~!」
…変だといった俺の仕返しですか?
オカマが同調して勇者と同じマスクを棚から取り出して俺に渡してきた。
正直、要らないです…といえるはずもなく俺は笑顔で受け取った。
「いやぁ~うれしいなぁ!でも、こんな素敵なデザインのマスクつけるのもったいないわぁ~。部屋の壁に飾っとこうかなぁ!」
「つけないと仮面の意味が無いですよ。ヤクザさんそのデザイン好きなんですよね?変じゃないので付けられますよね?」
「いやぁでも!」
「付けられますよね?」
「…はい」
俺は、勇者の圧力に屈した。
「いいわねぇ~。二人とも目立つからいい宣伝になるわぁ~でも、やくざちゃんはその格好だと仮面も映えないわねぇ」
「そうでした。私の用は…まぁ済みましたのでヤクザさんの服を見てみましょうか。リカルドさんヤクザさんに似合うものありますか?」
「んーそうねぇ」
店内と俺を交互に見ながら何やら考える勇者とオカマ。
…嫌な予感しかしない。正直ここじゃなく普通のところで買いたい。絶対この二人のお勧めする服とか変なものに決まっている。何か手は無いのか…
店内をみながら打つ手を探るとあるものに目をつけた。
…これだ
「あのー」
「どうしたのかしら~ん」
「ここの装備って性能が一級品といいましたよね?すると、俺お金が無いわけで…これ水着が1000000って書いてありますけど…水着でこれだとたぶんこの店の商品買えませんよ」
俺は、派手で際どい水着を指していった。具体的な金額は分からんがたぶん買えないはず。
「いくら持っているのかしら~ん?」
「えっと、小金貨4枚と大銀貨5枚そして銅貨があるぐらいですね」
大銀貨が減っているが、屋台でたくさん買ったからである。
「ん~確かにそれだけだと、全部揃えるのは厳しいね~ん」
お?これはいけるかも
「あと、宿代も残さないといけませんし、別のお店で揃えたほうがいいかなと思いまして」
「…リカルドさんのデザインファン同士、ここは私がもちますよ」
「勇者様、結構ですよ!確かに、リカルドさんの装備は欲しいですが、これ以上迷惑かけられませんし!自分で金を溜めて買うことにします!」
「…そうですか」
本当に惜しいなぁ、残念だなと心に思っていないことを口に出しつつ、心の中でガッツポーズをした。また、勇者から冷ややかな目線を感じるが気にしない。
さっさと別の店に行こう。
「どうにかなりません?リカルドさん」
いや、粘らなくていいから!俺のために見逃して!
「そうね~ん」
真面目に考えなくていいから!俺のためにスルーして!
そんなふうに思っているとオカマが都合の言い情報を投下してくれた。
「私の作品じゃないけど…ヤクザちゃんに合いそうなもので売れ残りがあったわね。それならどうかしら?」
「え?」
「…リカルドさんの作品じゃないなら要りませんね。帰りましょうヤクザさん」
「ちょ!おさないで勇者様!リカルドさんその話詳しく!」
勇者が俺の背中を押して店から出そうとするが俺は扉につかまって抵抗した。
リカルドの作品じゃないなら変なものじゃないはず…このチャンスを逃さない手は無い。
「用意するからまっててね~ん」
そういって奥に引っ込むオカマ。
変なものじゃないと期待していた俺が馬鹿でした。
俺の目の前に出された装備は肩から棘が生えており全身黒ずめの衣装だった。それだけではないブーツ、腰、肘などいたる所が尖っており見ているだけで殺意を感じるような意匠。なによりも禍々しい漆黒のオーラが出ているのは気のせいだと思いたい。ファッションで色々な呼び方があるが、これは分類不可能なレベル。
ただ、例えるならぴったりな表現がある。
―魔王が着そうな服
「このへ…これなんですか?」
このへんなのといいかけてオカマに引きつき笑いで尋ねると誇らしげに出会ったエピソードを語ってきた。
「これは、私がまだ騎士団長だったときに、魔界で出会い一目ぼれして衝動買いしてしまった一品だわ~ん。買ったのはいいけどその子なんか自我があるらしくて着ようと思っても着れなかったのよ~う。仕方なく、観賞用として店前においたんだけど領主に住民が不安になるから止めろって言われてね~埃被ってたわけ~。ほら、目つきがチャーミングなヤクザちゃんと相性良さそうじゃな~い?」
「いやいや!色々とっつこみたいけど、自我があるって何?あちこち尖がっているし肩のとげとか下手したら頭に刺さって危険じゃないですか!?それに、なんか怪しい雰囲気出ているし絶対呪われていますって!?勇者様なら分かりますよねぇ!?」
「…これヤクザさんに似合いそうですね」
「嘘ですよね!?」
俺が勇者に同意を求めると。ちらっと俺と鎧を一瞥してひとごと。
やっぱおかしいって!この二人の感性!
「勇者さんせっかくなので着てみたらどうですか?…わたし見てみたいです」
「いやぁ、これはちょっと…」
表情の読めない勇者の目がキラキラ光っているのは気のせいじゃないだろう。
勇者のような超絶美少女に期待されるのは満更じゃないが、これだけは勘弁願いたい。
俺はファッションなんて無頓着だったがこれだけはファッションという言葉を冒涜するレベルだというのは分かる。
「そうね~ん!私も見てみたいわぁ!ヤクザちゃん!このこが着られている姿を見るのはわたしの悲願なのよ~う!アナタという極上のモデルはにがさないわよ~う!」
「ちょ…それリカルドさんでも着れなかったんですよね?なら俺も着れませんし、絶対に着ませんよ!そんな、期待のまなざしで見つめられても絶対着ませんからね!?」
◇◆◇◆
「…凄く似合ってますよ。ヤクザさん」
「あ~ん!私このときのためにこのこを買ったんだわ~ん!ありがとうヤクザちゃ~ん」
「…」
勇者が手を叩いて褒め称え、オカマにいたっては泣いて喜んでいる。
冷やかしだと思いたかったが、そう見えないし、本心からなのだろう。
嬉しくない。俺は死んだ目をしていることだろう。
というか、これ着れないんじゃなかったの?普通に着れたんだが…
「リカルドさん、これヤクザさんにどうにか譲ってあげてくれませんか?このまま、ここにおいておくよりはヤクザさんに使ってもらったほうがいいと思います」
「いやいや!リカルドさんの思い出の品ですし悪いですって!試着だけでいいです。これはお返ししま…あれ?」
突飛なことをいいだす俺は、この怪しさマックスの服を脱いで返そうとするとあることに気付いた。
脱げん
「これ脱げないんですが…」
「あら、そのこアナタのこと気に入っちゃったみたいね~ん。ちょっと寂しいけど、ヤクザちゃんに譲るわ~ん。その子がきめたことだもん…その子が…うっ!」
名残惜しそうに俺に譲ろうと言い出すオカマ最終的には涙ぐむ始末だ。そんな手放したくないなら返すから。要らないから。
「ちょ…いらないですって!こんなへ…あれなんで、首元が締まって…死ぬ!なにこれ!助けてくれ!」
へんなものといいかけて首元が急に絞まった。
「どうやら、意思があるというのは本当みたいですね。ヤクザさんそのこは持ち主をあなたに定めたみたいですので受け入れたほうがいいですよ」
「わ…わかりました!これはありがたく受け取ります!」
そういうと首元が緩んだ。どうなっているんだ?まさか本当に自我があるのかこれ?マジ変なもんじゃねーか…すいません俺が悪かったです。
また、心の中でへんなものだと思っていたら首が絞まったので急いで謝る。
―どうやら本当に意思があるらしい。