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ヤクザとクロードの町


「おぉー!大きい町だな!…一部倒壊しているが」



町に入って俺は嘆感するようにそういった。だが、ところどころ倒壊した跡が目だって残念である。


…マジすいません。それやったの俺でしたハイ…


俺の申し訳ない気持ちとは裏腹に路上の上では屋台がたくさん開いて、あちこちで賑わっていた。



「勇者様バンザーイ!」

「流石勇者様だ!」

「勇者様―結婚してくれぇー!」




あちこちで勇者を褒め称える声が聞こえる。どうやら、この賑わいの理由は勇者のようだ。

さっき、俺が報告したばかりだというのに動きが早い。早すぎるだろ。



「おう!そこの目つきの悪いにーちゃんクロードの名物巨獣焼きはどうだい?!巨獣の森で育ったビッグラビッドをふんだんに使った一品だ!今日は勇者様が町を救ってくれた出血サービスでもう一本付くぜ!」


「いやいや、目つきの悪いにぃちゃん!こっちの巨獣鍋のほうがいいぞ!こっちは、地震の被害にあった家族は無料でサービスしてるんだ!人助けだと思ってかってー!」


「いや、目つきの悪いひとこっちのほうがお勧めだよ!早くお店を直したいからかっておくんなー!」




俺が入口で突っ立っているとカモだと思ったのか、子供の客引きに捕まった。




「目付きが悪い、悪いうるせーよ!…全部一つずつ買うからいくらだ?」


「「「まいどありー!」」」



俺は、コンプレックスをなじってくる客引きどもの腕を払いながらも無碍には出来なかった。


子供と俺のやったことを引き合いに出すのはずるいと思います。それにしても逞しいなおい。


◇◆◇◆



「ヤクザさん、随分買いましたね。いや、別にお金はヤクザさんのものですから構わないのですが。食べきれるのですか?」


「…町の被害にあっているひとのためになればと、つい」




検問を終えた勇者が俺の両手に抱える料理の山を見てそんなことを言ってきた。

心なしかすこしあきれているように感じる。

勇者が当たり前のように真っ直ぐ俺のところに来たことはもう突っ込まない。



「お人よしですね」


「…それクレアさんがいいます?」


「…」



ぐきゅー


勇者が人のこと言えないことに気付いたのか沈黙すると突然勇者のお腹から間抜けな音が響いた。



「…おなかすいてるんですか?」


「気のせいです」



ぐきゅー


また、勇者のお腹から音がなる。どう見ても気のせいではありませんね。

恥ずかしいのか、仮面で表情は分からないがちょっと頬が赤くなってる気がする



「俺が買ってきたやつ一人では食いきれませんし食ってくれるとありがたいですね」


「…あそこにベンチがありますのでいきましょうか」



俺が気を使って助け舟を出すと勇者はベンチを指してそそくさと移動した。



凄い食うな…


俺は、ベンチの向かいで先ほど屋台で購入した大量の料理を凄い勢いで食べる勇者を眺めていた。ガツガツという感じではなく上品な食べ方なのだがとにかく手と口が一切止まらない。



「…美味しそうに食べますね」



俺が話しかけても首を縦に振るだけで手を止める様子は無い。よほど、お腹がすいていたのだろう。


それにしても…さっきから周りの人がこっちをちらちら見ているのは何なのか。気のせいだと思いたかったがそうではないだろう。俺は、目の前の勇者に目を向ける。


大量の料理を凄い勢いで食べる変な仮面を被った見るからに金持ちのお嬢様。


うん…注目を浴びるのに十分すぎるほど要素がそろっている。そりゃ、誰だって気になるわ。


勇者様目立ってるけどいいの?目立たないための変装じゃないの?ちらちらと目配せするが勇者は可愛く首をかしげてそのまま食事続行中だ。


気になって聞き耳を立てると邪神の力で強化されたのか分からないが聞こえる。そして、聞いたことを後悔した。



「美少女と野獣って感じ?」

「いや、貴族のお嬢様と不審者じゃないか?」

「悪い顔した兄ちゃんが食べ物でたぶらかしているんじゃないか?」

「警備兵に一応知らせるべきでは」

「目つきでゴブリンぐらいなら逃げそう…」

「あんな仮面をつける女の子も変わってるけどな」



どうやら悪目立ちしているらしい。特に俺の印象が酷すぎる。何だよ野獣と不審者って…目か?この目つきがいかんのか?

あと、たぶらかしてねーから!むしろ、ストーキングされてるから!

お巡りさんは止めて!ただでさえ勇者に疑われているのに勘弁してください!

目つきでゴブリン逃げるってなんだよ!いるかのかよゴブリン!



心の中で色々突っ込みつつ俺は、ふと冷静になって自分の格好を振り返る。


服装のあちこちがヘビモスさんとの逃走と戦闘でボロボロである。穴が開いているところは大量の擦り傷があったが勇者に治してもらって肌が綺麗なのがかえって不自然である。


…うん。俺が他人なら野獣とか浮浪者という表現を使うかもしれん。



「ヤクザさん、そんな落ち込んでどうしたのですか?…理由は分かりませんが先から食事に手をつけてないじゃないですか。元気がないのは食べてないからですよ。はい、口を開けてください」



そういって巨獣焼きという串焼きを俺の口元に持ってくる勇者。


いや、元気が無いのはそんな子供みたいな理由じゃないから!?

これってあれか?!あーんってやつか?!そんな恥ずかしいこと出来るか!見られてるから!


のぞける俺ににじり寄るように串を押し付けてくる勇者。



「あ、横危険ですよ」



俺は、限界までのぞけったところで勇者がそんなことを言って串を戻す。


…横…危険?



「グボッ!?」



勇者の言葉を理解するのに思考していると脇腹に鈍い衝撃が走った。思わずうめき声がこぼれる。



「目つきの悪いにーちゃん!さっきから見てたけど、変なねーちゃんしか食ってないじゃねーか!にーちゃんお腹すいているだろ?買ってけよ!」


「変なねーちゃんもっと食える?もっと買って!買って!」



俺の横腹に突っ込んできた犯人は屋台の客引きをしていたガキどもだった。騒がしいし、人の横っ腹に突っ込んでくるとはどういう教育を受けているんだと問い正したい。屋台で販売しているガキどもの保護者に視線を向けると笑顔で親指を立ててグッドサインしていた。


…まさかと思うが、あいつらが指示したんじゃねーよな?



「お前らたくさん買ってやっただろ!それにお前らの分買ったら食い切れねぇよ!」


「食ってるじゃん!」「じゃーん!」「ねー!」



くっ…このガキども。集団で可愛く同調しても俺は折れんぞ!勇者からもらった金を無駄遣いするわけにはいかない!



「それは、そこのおねーさんが大食いなだけだ!…クレアさんからもなんか言ってくれ。もういりませんよね?」


「私は大丈夫ですよ?」


「ほら!おねーさんもこういって…冗談ですよね?」



たくさん食っていた勇者に擁護を求めるとまさかの返答が返ってきた。


「いえ、王都からここまで全力で走ってきましたので。その上にヘビモスとの戦闘で体力を使いすぎたので体力を付けたいところですね。ヤクザさんもヘビモスに追いかけられたのですから空腹ですよね?」



「いやいや、その理屈おかしいから!それに俺は空腹じゃ…」



ぐきゅー


俺は反論しようと声をあげると俺の腹から間抜けな音が響く。



「…我慢はよくありませんよ。私が買ってきますのでヤクザさんは座っててください」


「やっぱり、食べられるじゃーん」「我慢よくないぞー」「ぞー」


「あ…はい…」



俺は、納得いかない気持ちで勇者とガキどもが屋台に向うのを見送った。


…なんで都合よくお腹がなるんだよ。




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