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第7話:大賢者はクエストを作る

 ミーシャは基本となる五属性魔法を使えるようになった。俺はミーシャが一対一で戦えるよう周りのゴブリンを蹴散らすことで、少しばかりお金が稼げていた。

 【円】がドロップしても大した金額にはならないが、それでも積みあがるとそれなりの金額にはなる。もともと持っていた金額と合わせてギルドの受験料と入会料を稼ぐことができていた。


 さっそくギルド入会試験の受験申込に訪れた俺たちだったが、ギルドの門を開いた瞬間に怒号が聞こえてきた。


「ふっざけんじゃねえぞ! クエストがねえとはどういうことだクソが!」


 一人の男性プレイヤーがNPCの受付嬢相手にブチ切れていた。受付嬢は困ったような顔をしている。

 周りのプレイヤーたちも困った顔をしているが、止めようとはしていない。

 ……しかし、これでは試験すら受けられないじゃないか。


「何があったんだ?」


 俺は事情を聞くことにした。


「ん、ああ……初心者か。それがな、聞いてくれ。この村周辺には俺たちに紹介できるクエストがないんだってよ。そんなことあるか? ありえねえよ」


「なるほど」


 確かに、クエスト数は日によって上下することはあれ、なくなってしまうということはありえない。

 最低限のデイリークエストは全員が受けられるようになっているはずだ。


「『俺たちに紹介できるクエスト』って言うと、紹介できないようなクエストはあるってことか?」


 男はやれやれと手を振って、


「あるにはあるんだがよ……こりゃこの村にいるレベルじゃ誰も受けられないぞ」


 誰も受けられないだと?


「この村一帯のモンスターが少なくなっていまして……原因はわからないのですが、繁殖力が高く、弱いモンスターはいるのですが、中程度のモンスターが激減しているんです」


 受付嬢が説明してくれた。


「俺はギルドの入会試験を受けに来たんだが、クエストを受けれないんじゃ意味がないな」


「す、すみません……入会試験に使える程度のモンスターが枯渇しておりまして……」


 受付嬢はしきりに頭を下げ続ける。

 しかしモンスターが出てこないとなると、【円】を稼ぐ術がなくなるということだ。

 それに、モンスターがいないんじゃレベルを上げることすらできなくなる。


「……受付嬢さん、俺に提案があります」


「提案……ですか?」


 LLO2のNPCは進化していて、自由に会話も可能だ。

 それに加えてギルドのようなプレイヤーと密接に関わるNPCにはさらに大きな権限が与えられている。

 それは新たなクエストの創造。


「モンスターが激減した理由、それを調査します。……入会試験の合否に代えてもらえるとありがたいのですが」


「調査ですか……わかりました、許可します。達成できましたら合格とします。凶暴なモンスターが増えている状況ですので、十分に注意して臨んでください」


 俺とミーシャは冒険者ギルドを後にした。


「こんなクエスト受けてしまって大丈夫なんですか?」


 ミーシャが尋ねてくる。不安半分、期待半分と言ったところか。


「まあこういうのは大体予想できているしな。問題を解決せよって類のクエストならともかく、今回は原因調査だ。もうクエストは終わったも同然だよ」


「も、もうわかっているんですか!?」


「言ってなかったか? 俺はできる確信のあるクエストしか受けないことにしているんだ」


「……聞いたことないです」


「そうか」


 俺たちは歩いて村の北門に進んでいく。


「それで、原因はなんなんですか?」


 思い出したようにミーシャが聞いてくる。


「これは俺の予想だが、食物連鎖だ」


「食物連鎖って言うと自然界の動物が食う食われるの関係になっているっていう、アレですか?」


「そうだ。ゲーム内ではモンスター同士にそんな関係はなかったし、新たなモンスターは突然ポップする。……しかし、数々の状況を照らせばそれ以外にはちょっと考えられない」


 弱いモンスターが激減し、凶暴なモンスターが増えている。

 俺たちがさっき倒していたゴブリンはポップ数が多く、減少を感じさせなかったが、個体数としては減っているのだろう。


「根拠はこれだけじゃない。【死の森】っていうインスタントダンジョンのシナリオと似ていると思ってな。そのダンジョンでは、モンスターに食う食われるの関係があった。確証はないが、似たような事態になっている可能性は高い」


「で、でもそれって私たちだけでどうにかできるんですか?」


「だから俺は調査クエストにしたんだよ。後のことはレベルの高い他の冒険者に任せればいいだろ?」


 NPCをある意味、騙して利用した。調査だけなら、予想の裏付けをとって報告するだけで終わる。何らかの原因があるとは思うが、面倒なことがあれば他のプレイヤーが頑張るだろう。彼らとてクエストがないと困るのだ。


「ミナトさんってそういうところ計算高いですよね……したたかというか」


 言われてみればそうかもしれない。


「ミーシャはそういうの苦手か?」


「いいえ、さすがだなって思っただけです!」


「そうか」


 ミーシャに嫌われていないようで何よりだ。

 俺たちは村の北門を抜け、フィールドについた。

 さて、ここからが本番だ。

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