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第4話:大賢者は決闘を受ける

 俺たちがゲームに閉じ込められてから二日が経った。


「今日はこのくらいでお仕舞にしようか」


「はい!」


 なにをするにせよ、レベル上げをしておいて損はない。この世界の娯楽のすべてを【円】で買うことができるし、装備や消耗品だってお金が要る。ゲームの世界だからメシは食べなくても死なないし衛生状態が悪くても病気になることはない。だが、気持ちよく快適に生活するには金がいる。


 俺たちは金と経験値のために最寄りの初心者向きの狩場で敵を倒していたのだった。

 敵は【ゴブリン】なので、それほど強くはない。ただ俺もミーシャもレベルは1のままだった。

 LLO2ではレベルが低いからと言って簡単に上がってはいかない。無論上がれば上がるほど必要量は増えていくのだが、レベル1からレベル2まででもそれなりに時間がかかる。


 村に帰る道中で、茶髪の少しイカツイ男が待ち構えていた。耳にはピアスをつけている。装備を見たところレベルはそこそこ高いようだが、武器はショボい。


 俺は黙ってミーシャの手を引き、迂回しようとする。


「オイオイオイオイ! そりゃねえんじゃねえか?」


「なんだ?」


 こういう派手な見た目の奴には頭のおかしい奴が多いので、関わらないのがベストである。俺の本能が察知していた。


「お前ら見たところ初心者だろ? 俺が格安でレクチャーしてやるかさぁ? 興味ない?」


「ないな。戦い方くらいわかってる」


 茶髪の男の眉間に皺が刻まれる。


「そんなこと言わずにさぁ、安くしとくよ? 今なら50万円でいいからさ。な?」


 この手のレクチャーは大したことも教えられないくせにそれなりに高額の授業料をかすめ取る詐欺であることは言うまでもない。


「じゃあアンタの実績を見せてみろよ」


 こういう相手には実績を確認するのが一番効く。実績のあるやつはこんなことをしないのだ。


「いいぜ。ランキング見てみな」


 だが、この男には自信が満ち溢れていた。

 少し意外に思いながら、ランキングを確認する。


「どこを見ればいいんだ?」


「へへ、モンスター討伐数ランキングだな!」


 確認すると、一位は断トツに討伐数が多い。名前はクライブ。

 茶髪男は自分を指さして、


「そのクライブとは実は俺のことなんだよ! お前らも俺のレクチャーを受ければ簡単にモンスターを倒せるようになるぜ?」


「あの……私たち初心者村で【ウルフ】を倒すばかりの生活はご遠慮します……」


 ミーシャが遠慮がちに答える。

 クライブはわなわなと震えて、


「な、なぜお前ら俺の秘密を……!」


 こいつは理解していないようだった。


「そりゃわかるだろ。だってアンタだけ討伐数の桁が違うからな。雑魚を倒して水増ししてるのは明らかすぎる」


「くっ……だが、実力は本物なんだからな!」


「それをどうやって証明するつもりだ?」


「け、決闘だ! 決闘しろ!」


 俺は呆れた顔でクライブを見てしまう。

 初心者相手に決闘を申し込むなんて、愚かすぎる。

 こいつにはプライドが欠如しているのだろう。


「初心者相手なら勝てると思っているようだが、負けたらどうするつもりなんだ?」


 クライブに問う。


「なら、俺の全財産を賭けよう。一千万円くらいはある。……お前らにはなんの不都合もないだろう?」


「……どういうことだ?」


「俺に勝てたら一千万、負けても俺のレクチャーを受けられるんだ」


 初心者相手のただの追い剥ぎに近いのだが、あくまでレクチャーという体にしているらしい。あまり露骨にやると運営に対処されてしまうので予防線を張っているということだろうか。

 今この状況で運営がちゃんと働いているのかは大いに疑問だがな。


「いいだろう、受けてやる。だが、条件付きだ」


「言ってみるがいい」


「戦うのは俺だけだ。ミーシャには手を出すな」


「ちっ、まあいいぜ。さっそく始めようじゃねえか」


 クライブから決闘が申し込まれる。俺は掛け金を五十万円に設定。クライブが一千万円に設定したのを確認すると、承諾した。


 決闘が始まる。決闘のルールは簡単だ。先に相手のHPを全て削り切った方が勝ち。アイテムや魔法・スキルの使用も認められる。


 まずはクライブのステータスを確認しておこうか。


―――――ステータス―――――

名前:クライブ

クラス:剣士

レベル:27/99


能力値:

STR【攻撃力】50/99

CON【体力】30/99

DEX【素早さ】35/99

INT【知力】10/99

MEN【精神力】12/99

CHA【魅力】13/99

LUC【運】15/99


魔法・スキル:

【ユニーク】

1.剣術

【剣】アイテムを使用可能。【剣】アイテム使用時にステータス上昇。


【コモン】

1.研師

刃物の研磨ができるようになる。

2.威圧

敵を恐怖させ、攻撃を鈍らせる。

―――――――――――――――


 剣士は魔法・スキルが少ない。その代わりにステータス面で優遇されている。良いアイテムで強化すれば攻撃力は99に届くこともできよう。

 ただしレベルが27とまあまあ高いので、このステータスでもかなりの攻撃力はあるはずだ。手を抜かずに戦おう。……レベル1だしな。


 俺には勝てる自信がある。

 まともに力勝負をすれば勝てる見込みは薄いが、俺には他のステータスがあるのだ。

 ちゃんと戦えば負けることはない。


「ミナトさん……気を付けてくださいね」


 ミーシャが背伸びして、上目遣いで俺を見つめる。めちゃくちゃ心地いい。もう負ける気がしない。


「大丈夫だ、絶対に勝つ。すぐに終わらせるから」


 俺はミーシャの頭を撫でると、クライブと対峙する。

 三秒のカウントが始まり、決闘が始まる。


 クライブは俺を初心者だからと侮っているのだろう。先制攻撃をするつもりはないようだ。

 その甘さがお前の敗因だ!


 俺はユニークスキル【風神の加護】を使い、移動速度を1.5倍に上昇。勢いをつけてクライブ目掛けて走っていく。クライブは剣を構えた。


 クライブと肉薄する。素早い動きで剣が襲い掛かってくる。

 俺はユニークスキル【魔眼】で剣の動きを見抜き、軽い動きでかわす。


 そのままクライブの鳩尾を殴打した。

 レベル1といえど、STR99の俺の攻撃はそれなりに強い。勢いよく身体は飛んでいき、背後にあった石に叩きつける。


 ……なんだこいつ。めちゃくちゃ弱い。

 これが本当にレベル27、STR50の剣士か?

 剣の動きを見れば大体の攻撃力はわかる。これはプレイヤースキルどうこうの話ではなく、能力として弱い。大して俺はレベルは低いものの、攻撃力はSTR99のそれだった。


 石に叩きつけられたクライブはわなわなと震えながら絶叫する。


「お、お前ええええ! 低レベル狩場にいると思ったらめちゃくちゃツエ―じゃねえか! 初心者の強さじゃねえ! こ、このクソがアアアアアアアア!」


「言いたいのはそれだけか? ちなみに、俺のレベルは正真正銘1だぞ? なんなら鑑定してみるといい」


「その強さでレベル1のはずが……な、なんだと!?」


 鑑定結果を見たクライブは驚愕した。


「レベル1……しかも賢者だと……? う、嘘だ……ありえない……!」


 ……ん? 俺は【賢者】ではなく【大賢者】なのだが、見間違えたのだろうか。

 まあいい。


「じゃ、決闘の続きを始めようか」


 俺は石にへばりつくクライブに歩いて近づいていく。


「ちょ、ちょっと待て! 今日のところは引き分けということにしよう! な?」


「何意味わからないこと言ってんだ? 初心者相手に勝負吹っかけてきたのはどっちだよ」


「や、やめてくれええええええ!」


 俺は【アイススピアー】を発動。氷の槍がクライブの腹を貫き、一瞬のうちに全HPを刈り取った。

 俺の頭上に【WINNER】表示、クライブの頭上に【LOSER】表示がポップした。

 これで決闘は完了。俺は一千万円を手に入れた。


「お、俺が賢者相手に……それもレベル1に負けるなんて……」


 まだショックから立ち直れないクライブがブツブツと呟いていた。


「ち、近寄るな! このチーターが! 覚えていやがれ! 復讐してやる!」


 俺が言葉をかける間もなく、クライブは帰還結晶を使い、村に戻った。


「ミーシャ、無事に終わったよ」


「お疲れ様ですっ! それにしてもミナトさんって強いんですね! クライブさんの方が強そうな装備だと思ったんですけど……本当にすぐに終わったのでびっくりしました!」


「まあ、良い装備に甘んじて実力をつけなければこうなるっていう良い例だよ。ミーシャもああならないように強くなるといい」


「はい!」


 勝利の後の「お疲れ様」はなによりのご褒美だ。相手がミーシャに限るのかもしれないが。

 俺は帰還結晶を使わず、ミーシャと手を繋いで村に帰った。

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