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殴り続ければ相手は死ぬ


石、岩、丸太、墓地にいた不死者たちの武具、爆薬、上から持ってきた武器群、凡ゆる物体を加速させて叩きつけ続ける。

射程の関係上今までできなかったが、10メートルなどと言う高位の探索者にとってはまるで距離にならない距離まで近づけば彼女に斬り殺される可能性と引き換えにこんなバカみたいなことができる。


『ッグググ!』


それにしても良くやるものだ。俺ならば途中で死んでいる。だがさすがは剣聖、攻撃をさばきながら此方へ攻撃してくる余裕まである。だが俺は死んでいない、まだ五体満足だし、異空間にある物資はまだ尽きない、いや、というか…


「何の勝算もなく、何の考えもなしに此処にいる訳じゃなかったんだよ」


最初から分かっていたのだ。相手が強大であることは、そのために階梯を上げ、魔魂をかき集め、物資を集め、時間を稼いだのか…勿論未攻略のダンジョンへの備えもあったが、1番の問題だったのは剣聖の遺骸、つまり彼女であり、推定だがこのダンジョンの核になっている存在の強さだった。


彼女自身がいなければ対策は不完全だったかもしれないが、幸運なことに彼女の魂は天使となり、そして今は魔法剣士となって此処にいる。

なれば彼女自身が最も嫌な戦い方、もっと言ってしまえば彼女の死因になった戦い方なんて言うのも分かる。


「剣を振る間もないほどの質量による波状攻撃、それが剣士であるが故の限界だ。」


超越者と言われようと、いくら階梯を上げ異能を得て、ダンジョンを制覇しようと、人間は人間を超えられないし、剣士は剣士としての役割のままだ。

勇者も老いて代替わりするし、英雄も死ぬから次が求められる。剣聖のような達人や武術家だってそうだろう。その戦い方を極めあらゆる局面に対応できても人であるが故に不完全であり、その戦い方に縛られるが故に弱みがある。


それは自らの膂力を振るう怪物と違う良い点であり、怪物をそのままでは殺せない人の弱さだ。


いや、そもそも剣というのは何処まで行っても対人専用である。自分で言うのも何だが俺のこの戦い方は怪物を倒す。と言うよりは怪物のような、戦い方である。

なにせ基本的に持ち物や地形、毒などを相手に応じて変えたりせずただただ巨大質量としてぶち当てているのだ。怪物ゴロシと言うよりは人間ゴロシ、もっと言うのならば倒すのではなく殺す為の戦い方、人として策を弄すまでもなく、策を弄すことも必要にならないほどの力でねじ伏せる。そう言う戦い方なのだ。



そして、相手は英雄級の人類種だったアンデッド、再誕者にして不死者、剣士と言う事は優位になるポイントだが…それ以外は非常に相手にし難い相手と言える。


それは何故か、それは彼女自身が削り取られ、いくらボロ雑巾のようになろうと、穴あきチーズになろうと、意志力さえあれば此方を殺しうるからだ。


『が…アアアアアアアア!』

「来たか…」


ジリジリと外側から削り取るように、抉るように、消し飛ばすように、丁寧に丁寧に弾幕を張っていたが…どうやら彼女の制限が外されたようだ。咆哮と同時に力任せかつ異能任せの大振り、放つ斬撃と言うよりは巨大な腕が辺りを薙いだ様な音が俺に叩きつけられ、花が舞い散った。


俺は短剣を構える。

此処までくれば、いや、ようやく此処まで来たのだ。あの絶望的な状況からようやく彼女から正気を奪うことに成功したのだ。

…正直に言うと、非常に後悔している。幾ら彼女の理性がある限り彼女の肉体が崩壊する様なことはないと分かっていても、こちらに一撃で彼女を屠れる様な斬撃無効の超質量が無いとはいえ、彼女をわざわざ黒幕であろう何者かに乗っ取らせるなど正気の沙汰ではなかった。


だが、これで勝ちだ。


咆哮と俺の飛ばした礫の粉砕を行なった何者かは外套の様なものの内側が、自分が乗り移ると同時に崩壊を始めたのを見て狼狽える。


『なんだ…何が起きている!』

「バカか、貴様は…剣聖が一体いつの時代の人間だと思っている?」


この世界、この加護と異能とダンジョンに彩られた世界では年齢と言うものが非常に長いスパンで考えられている。

いや、正確には一部の強者や強力な探索者にとっては寿命というのはあってない様な物なのだ。


「たしかに、今の人類は天上によって改良され異能や加護という外部からの強化に耐えうる様に改良され、100年200年なんか簡単に生きる様になった。」


だが、それを支えているのは肉体のうちに秘められた魂であり、そこに付与された加護である。人類の肉体は神の求めるスペックを備えさせるには貧弱すぎたのだ。


『ならば!』


そう言って崩れ行きながら黒いチリと成ろうとするナニカは呻く。だが、おそらく思った通りの結果にはならなかったのだろう。

彼が行使しようとした力はおそらく霊魂の操作、それも死人をわざわざ蘇らせあまつさえその魂を遺骸に括り付けるような業…


「にひひ…バカだねぇロキィ、私はしっかりと此処にいるじゃないか」

『誰だお前は!あの愚鈍な剣士の傀儡だろうが!出しゃばって…なっ!?』


天使は死後を売り渡した探索者のなれ果て、死後を売り渡した彼女の魂は分割され片方は天使に、片方は遺骸へと括り付けられたのだろう。もしそうじゃなかったとしても、何かしらの経緯の末に彼女の魂…正確には人格や精神といったものと異能と加護の宿る魂は分かたれていた。

しかし今、遺骸へと括り付けられていた魂はそこを乗っ取ろうとする何者かにもみ消された。ならば、彼女の魂に宿っていた彼女の異能や加護は肉体に宿る精神の持ち主が変わった瞬間に消失する。


そして、器に水が満ちるように、精神と魂は惹かれ合う。どちらかが器でどちらかが水なのではない、両方なければいけないのだ。


「いい気分だねぇ〜、こういう風になる様頑張ってきた会があったよー」

「ま、近づき方とか結構まじで剣聖が殺しに来るとか色々とイレギュラーはあったけどな」


俺は短剣を構え、加速し、動かない体にイラつく何者かを突き刺す。

異能が導くままに、原型のなくなってきている何か諸共、何者かを殺せる一点へ深く突き入れ…


「死ね」

『あ゛…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?』


加護や異能、あらゆる防御を失ったその遺骸を二度と蘇らぬ様に、そして殺しきれないだろうが彼女の死体を辱めた何者かへ少しでも苦痛を与えるように、見つめ、焼いた。



その時も死線は反応しているし、油断はしていない、だが、たしかにそこで気が緩んだのは失敗だった。


「え、」

「ごめんね」


俺を襲ったの消えゆく黒いチリでも、それにまつわる暗い企みでもなんでもない、それは所謂…裏切りというやつだった。

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