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ある一つの極致


一撃目は見えた。


「っぐ!?」


剣聖の一撃はまだ彼女の剣の間合いではないにもかかわらず一撃で花畑ごとダンジョンを真っ二つにした。

その威力に戦慄する間も無く、二撃三撃と重ねられた斬撃は容赦なく俺と魔法剣士に放たれる。


『斬撃延長…ソレを極めた私の剣…逃げ切れると思わないでね』


最小の動きで最大の火力を発生させるには異能と武器との連携もそうだが、異能とソレを扱う技術との連携も必要だ。

いや、正確に言えば…


「異能が前提の武術、これが剣聖の剣か!」


そう、魔法剣士の感じている自分への違和感、ソレは異能による補助がなくなったことや体の事もあるが、ソレ以前に彼女の剣は彼女の持つ異能の構成を前提とした物である。


『まだまだ行くわよ!』


おそらく彼女の持つ斬撃に関わる異能は斬撃延長だけではない、が、それだけでも刺突剣という剣の特性上振るうとその先端はわずかにしなる。そのしなりからも細かな斬撃が放たれ、一撃で二から三の斬撃が重なる。

さらに他の異能や彼女の技量、筋力などが合わさった結果がこの異常な切断力である。


しかし幸いなことに、彼女から遠ければ遠いほど避けやすくなる。俺と魔法剣士は直撃をもらうこともなく。かと言って距離を詰められるわけでもなく。じわじわと消耗させられながら、しかしながら五体満足で生きていた。


「どうする、元剣聖様!」

「…わかんない」


横薙ぎのソレを屈んで避ける。


「わかんないじゃねえ、お前の癖とか、隙とかは無えのかって話だよ!」

「バカね!そんなものがあったら剣聖なんて呼ばれないわよ!」


道理である。が…厳しい、本人に癖を聞くというのもナンセンス極まっているが、何よりもこの前のように上位存在による力の行使がされた場合今のような日和見的な隙はなくなり、自壊しながら殺しにかかってくるだろう。

そうなれば…


「本当に終わりだ。」

『…結論を出すのが早すぎるし、思い込みが激しいそうね…でも、勘が良いわね、そうよ私は神ってやつから干渉を受け続けてる。』


嫌な予感、嫌な直感というのは早々外れないものなのだ。ま、あくまで予感は予感なのだが…俺がここまで病的にそれを恐れる訳は…死線、それもかなり先の未来の光景、そこでは俺は両腕を飛ばされ、そして…


「何か打開策はあるのかい?」

「ない」


彼女が死んでいた。


それはダメだ、それは許せない、それは…今度こそ俺の心が折れてしまう。頭に血と糖を、思考に力を回せ、絶えず変化する視界の危険域を読みきって、確実に干渉の間も無く殺すためにはどうすれば良い!

最善手を打つだけじゃああの化け物には勝てやしない、いっそここで尽き果てる様に戦うくらいが丁度いい、最も良くても、ベターでも、ベストでもダメだ。


「一瞬でいい、本当に一瞬でいいっ!」


完璧を、見る。

観測さえして仕舞えばそれでいい、確定した事象を引き寄せれば事は成る。その筈だ。いや、だが魔眼を暴走させるにしてもタイムラグがある。


『愚者よ、またアレを使うつもりか?』


思考にふけりつつ攻撃を避けていると邪龍の声が頭に響く。


『…忠告はしておくぞ、あの遺骸は超越者、腐っても剣聖という訳だ。運命などというものはたやすく斬り伏せてくるぞ』


じゃあ、どうすればいいんだ!糞が!


『動きを見ろ、奴は骸だ。貴様らを捻りつぶさない様に配慮しながら剣を振るっていてもいずれは朽ち果てる。精々あがき続けろ』



「相変わらず、過保護だねぇ!」


彼女が右腕で剣を振るい斬撃の余波を斬撃で打ち消し、下がる。

彼奴の言葉を信用するのは癪だが、今現状としてこの剣舞を避け切る以外の選択肢は無い、避け切ったとて近づけていなければ意味がないが…賭けるしかないのか?



いや、ダメだ。ここで賭けに出るなど正気の沙汰ではない、付け入る隙があるとすれば…攻撃に殺意がない部分、正確に言えば死体を動かしているが故に発生するロス、そこにある。


彼女の斬撃は今の所一直線だが、刺剣の特性上その先端は鞭の様なしなりを持つ、つまり斬撃を重ねようと思わなければもっと広範囲に斬撃をばらまけるのだ。


そして今もなお斬撃を躱せているのは彼女の肉体もそうだが。斬撃自体を完璧に放てないがために負荷がかかっているためだ。つまり…


「彼女の攻撃の余波を読み切ってその方向に負荷をかけ続ける。」

「バカみたいな作戦ね、ついでに私の役が無いのもナンセンスね!」


そうすればもっと早くこの地獄を終わらせれるし、うまくいけば彼女攻撃に隙を作ることが可能かもしれない、が…


「問題はその為にどうすればいいかって事がさっぱりわからないという事だな」

「…ね、あなたもポンコツって言われない?」


失礼な!剣やらなんやらの才能もなく対人戦の心得はあれど不意打ちかハメ殺ししかできない俺に化け物めいたスペックの技量剣士の剣を見切れというのか!


「自信満々に自虐しないでくれるかな…」

「お前なら見切れるのか?」

「…できなくはないけど…誘導のために近づいていけば避けきれないでしょうね、残念ながら今の私は萌やしっ子よ」


自慢げにいうんじゃ無え…ま、だが…


「腹は決まった。俺が行く。死んでも文句言うなよ」

「…ああ、そうだね。精々恨み言をはかさせてもらうよ」


とりあえず目は慣れた。速度が上がっても恐らく避けるだけなら可能だ。そして何より俺も短剣使いとはいえ剣士の端くれ、異能を織り交ぜた新しい剣術と言う物に興味はある方だ。


「行くぞ」

『ああ、来てみてよ、そして僕を綺麗に死なせてくれ』

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