魔法剣士の野望
永遠の命、そんなものに興味があって探索者になったわけではない。
しかして、名誉や報酬を目当てにしているわけでもない、私はそう思ってこの世界を探索してきた。
だが、世界は私が見つけたかったナニカではなく。もっと悍ましい真実というものを突きつけてきた。
私は…その時に決心し、決心のままに死んだ。
いつか絶対に起こるその流れの中で特異点は現れる。英雄でも、勇士でも、勇者でもない誰か知らない人がこの神によって歪められた世界に現れるはずだと…そう願って…叶った。
ならばやるしか無いだろう。彼を巻き込むのは少々不安だが、ソレでもこのダンジョンをたった一人で生き抜き、神に怪我すらさせた彼ならば…或いは…
「おい、ポン子、おい!」
「ふぁい!ポンコツじゃ無い!」
「6時間の睡眠おめでとうだクソッタレめ、怪物の山がお出ましだ」
寝ぼけた魔法剣士をたたきおこす。
第五層までノンストップで、不眠不休とはいえ四時間程度でたどり着いたのはいいがまさか怪物どもの目の前で寝るなんていう頭のおかしいムーブをかまされるとは思っていなかった。
というかボス撃破時や敵の殲滅時は意気揚々としているが、その合間合間や移動時に地味にポンコツが入る。
というか眠いならこの階層入ってからじゃなくてその手前の結界内で寝てくれ…頼むから…
「ッ!っふ!」
「ナイスナイス〜」
俺が巨大な蟹や魚に足が生えた様な雑魚を足止めしソレを横から一撃で殺しつくす。その剣術や身体能力は驚くばかりだが…
「こんな感じかなぁ…」
「…」
やはりその動きは剣聖と呼ばれていた様な探索者のものとは思えず、代名詞であろう飛ぶ斬撃や不可視の斬撃なども戦略上散見出来るが、どれも俺が短剣で強化されればできる程度の力技、些か剣術としての理合が足りていない様に見える。
苛つく。
凄まじいまでに足りないあらゆる物に嫌気がさす。
些か強引な魂の入れ替えと天使の模造品の複製品という探索者の自分としては低過ぎるスペック。加護による異能が全て魔法系になっている上に骨格や筋肉があまりにも違う現状に、思うがままに振るえない剣に、剣聖は苛ついていた。
そのストレスは身体的機能の低下に、特に認知機能の低下に加担しいまだ馴染まない体は一定時間の休息を必要とする。
「駄目だねぇ…」
「はぁ…いいか、次の階層に着いたら少し休もう。」
足を引っ張っている。
今まで一度も感じたことのなかったその感覚がさらに剣聖の自尊心を傷つける。いや、彼は悪く無い、客観的に見て自分が悪い、だが神や運命と言うものの加護がなければ自分はこんなにも弱いのかと、そう痛感していた。
勇士でも時代や才能に愛されたと言う事を捨て去っても自分に残るものはあると信じていた。
いや、確かに技術や身体操作、様々な知識は残っている。だがそれ以上に喪われたものがある。そう感じてやまないのだ。
「やぁ!」
刺突剣、自分の手に馴染む様に改造と改悪を重ねた自分以外には使えない欠陥武器、最早見た目上は刺突剣でもその中身や性能は大剣などと同じ様なものだ。
見た目にそぐわない質量と威力は剣全体の重量が先端に集中しているから、そしてソレを振り回す剣術もまた我流である。
そしてその我流を使い続けた身体だったからこその剣聖…自分の体を失って初めて気がついたが、あまりに自分本位すぎて笑ってしまう。
「やっぱおかしいな…」
彼は短剣を使い敵の視線を弾き続け、私はソレにつられた巨大なウミヘビの様な何かを三枚におろした。
その剣筋は…あまりにも自分の知るものとかけ離れていた。
第六層、そこは一言で言えばダンジョンらしいダンジョン、と言うかある種の迷路らしさと地下墓地らしさを兼ね備えた洞窟型と双璧をなすポピュラーなダンジョンのイメージそのままのダンジョンだった。
俺は世界樹製のランタンを灯し外套に固定、やはりこの外套強すぎる。
「その外套、狡っこいねー」
「やっぱそう思うか?」
そもそも第一層で出たはずのこの魔道具、意思を持つ装備(外せない)と言うデメリットはあれど魔魂を吸収して成長するし、物を大きさを無視して仕舞えるしで良く考えなくてもすごい性能だ。
多分、クソ邪龍に焼かれた時やいつも戦っている途中で損傷しても次見れば治っているので再生機能もある。…?あれ、おかしいな、魔道具じゃなくて伝説級の宝具だったりするのか?
「流石に宝具では無い…でしょ、もしそうならニーちゃんが相当な過保護って事だよ?」
「誰だよにーちゃんって」
「え?そりゃあhすえbdydじゃいあj…あ、これまだ言ってないんだっけ?」
検閲事項により音がかき消され、ついでに頭痛がする。なんでそう言う禁則事項とかうっかり言ってしまうんだこのポンコツっ子は、というか密かに憧れていた剣聖がこんなのだったとか地味にショックを受けているのでこれ以上ドジっ子アピールしないで頂きたい…
あ、また転んだ。
残念な子を見る生暖かい目というのはこんなにも辛いものだっただろうか…いや、いざ自分がそういう目で見られていると思うと辛いだけか…
「はぁ…まだ身体が馴染んで無いんだよね…」
「まぁ、そりゃそうか、じゃここでしばらく休もう」
手を貸してくれる。前から思っていたが彼は優しい、罵倒してきたり、いじってきたりするけれどどこか優しい感じがする。
以前彼を蘇生した時にちょっとした事故によって彼の記憶を覗き見てしまったが、きっと彼の優しさは妹や両親を想う気持ちに起因するのだろう。
けれど、私はその手を取らず立ち上がる。
「大丈夫、これもリハビリみたいなもんだから…」
「そうか、ま、ソレなら良いがな」
とりあえず、私はもう一度剣聖としての『私』を取り戻さなければならない、そうでなければ私の野望は、結論は、力のない正義は…消えてしまうだろうから




