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都合のいい真実と甘美な毒


「パンパカパーン!」

「だからそれは虚「第10階梯おめでとうございます!と言うか今まで突っ込みませんでしたけど加護が二重とかチート系異世界転生主人公ですか?はっ倒すぞワレェ!」…」


もうなんだか俺もこいつもテンションがおかしい、それはそうだろう。なにせほぼ不眠不休で戦っていたのだ。…まぁ俺の方は世界樹の加護の第10階梯で付与された異能によって寝なくてもある程度のパフォーマンスを維持できる様になったためマシだが…いや、そんなこと言ったら天使にだって似た様な機能があるか…いや、だがそれでもこうなってしまうのが普通だろう。

通常であり、一般的であり、なんの変哲も無い凡庸なストレスへの反応である。


そういう点では俺の方が異常だらけだ。


「それはわかったからさっさと次のオーダーだ。もう分かりきっているがあえて聞くぞ」


装備、肉体面は問題ない、しかしその精神面は磨耗しておりある一定の反応は返すがこのポンコツのテンションについていける様な精神状態ではない、有り体に言えば…ま、疲れている。

なので結論を急ぐ。


いや、分かりきっているあらゆる事実を完璧に組みた立ててそれによって発生する答えを、避けていた一言を口にしてしまう。


「お前を殺せば終わりか?剣聖」


その一言に紅瞳は見開かれる。


「…記憶処理はちゃんとしている筈」

「俺をつつんでいる邪龍の加護の粋な計らいという奴だろう。俺は世界樹の支配下にあるあらゆる事象への耐性を持っている。それがたとえ神からの直接操作だったとしてもはねのけたコイツが、そんなことを簡単にしでかすクソトカゲが天使程度の力でどうにかなるとでも思うか?」


そう、俺の意識がなくなったのは記憶の欠落ではなく失血と疲れ、世界樹の加護により動けなくなったのは邪龍の加護が外側にあったから、そしてそれが防御しているのが身体ではなかったからだ。


「神ではないお前は他者の加護を操作するのに接触が必要だが、加護の持ち主である俺はその力を集中させる場所を動かすことができる。」


言いたくもない結論が口から飛び出る。


「まぁどうでもいいけど、結局どうなんだ?」


最悪の気分…というか…


『クハハハ、どうした我が契約者よ』

『今更我輩の方を見て、最初から気がついていたであろう?』


まぁね、というかまたなんでこんな事を…なに?俺の生存率を著しく下げたい訳?


『そんな事はない、というか…我輩は貴様の無用な悩みを解消させただけにすぎんよ、やはり貴様は愚かだなクハハハハ!』


一瞬に空白、いや、嫌なくらいに周りが静かになったように感じ…



天使は爆笑した。


「ブフォ!!」


腹を抱え、正に抱腹絶倒という四字熟語の通り、絵に描いたような笑いようだった。

ひとしきり笑った後、彼女はこちらに向き直った。


「クフっ、ブフっ…いやはや、君の推論は大まかにあっているよ、そう、このダンジョンはとある探索者の遺体が中心にあり、その探索者は世界樹以外の加護を受けていて、その死と同時に天使となった探索者はたしかに私で、私は剣聖…」


俺は答えが違った時ほど、それも高らかにその答えを叫んだ後に訂正されることほど恥ずかしいと思う事はないと思う。

人間間違うものだし、間違いが正されるのは素晴らしいが、それでもやはりそれを指摘されるのは少々気恥ずかしい物である。


「はぁ…で、なんなんだクソトカゲもお前も勿体ぶって、間違っているならさっさと正してくれ」

「そう怒るなって、りんごみたいな赤い顔で凄まれても笑えるだけだよ?」


…訂正、恥ずかしいというよりは気持ち怒りの成分が含まれていた。


「さぁて、答え合わせだ。御察しの通りこのダンジョンの最奥で、君がつい最近…いや一か月ほど前に行った十階層で私という存在の残り香と戦う。それはあっている。ついでに言えば一ヶ月前に君が起こしたちょっとした気の迷いがなければ、私がちょっとした仕込みをするまでもなく君と私はどちらかしか生き残れない戦いをする羽目になっていた。」


一旦ここで話を途切れさせる。

ポンコツ天使、もとい剣聖と呼ばれていた存在だった天使は権能を使用し刺突剣とポイントガードの様な最低限の急所のみを守った防具を身につけた。


「で、君のやってくれたとても素晴らしい誤算が…この身体だ。」


そう言って彼女が発生させたのは火球…火球?


「それはあの異能使いの!」

「そう!君は彼女の魂が囚われたあの身体を壊さず。支配権を持つ神からの干渉力だけを断ち切ってこのダンジョン内に残した。そこに私がどうやって駆けつけたか…きっと君にはわからないだろうが、状況としてはこう言わざる得なかったんじゃないか?『まるで異能使いの少女の中に天使がいる様だ。』とね」


そこから彼女に話された事は天界とやらの秘匿事項に当たるのか、ほとんどがノイズ混じりか異界の言語の様に思えたが、ひとつだけ言えるのは、彼女はすでにこのダンジョンを管理する権限をほとんど手放していると言う事と、彼女を相手に大立ち回りをしなくても良い、という事、そして…


「ポンコツ天使様がクソトカゲの加護を受けてたとはね…」

『愚か者よ、貴様程度が特別だと思ったか?クハハハ…まぁ、こやつと違い貴様との出会いは計算外であり、ある意味特別だったのだろうが、我が加護を受けし勇士はごまんといる。いや、正確には我らの…だがな?』


またわからん事を言い出しおって…


「まぁまぁ、いいじゃないいいじゃない、という訳でこっからはフルスロットル、今まで君に集めてもらった魔魂を使って私は天使の権能と管理がなくても大丈夫な所まで樹を育てて、ここから一週間で下に行くまでの時間は稼げるくらいの余裕は持たせた。後は…君と私でこのダンジョンを攻略するだけよ!」

『クハハハ!そうだ愚者よ、貴様の生き残る道は結局ひとつ、せいぜいその矮小な輝きを世界に刻んで見せるがいい…』


そう言ってクソトカゲの声は消え、俺の中からその気配が失せた。


「はぁ…相変わらず過保護ね…」

「?どうした」

「なんでもないわ、さっさと行きましょう?」


彼女が何か小声で言っていた様な気がしたが、俺は周りに寄ってきた蟻を始末していたので聴こえなかった。

最後の1匹は彼女が駆け出すと同時に振り抜いた剣圧で貫かれる。

さすがは剣聖…いや…


「そういえばどう呼べばいい?」

「何が?」


走りながら異能の試運転をする様に火球を完璧に使いこなしながら剣を振るう彼女に自身の才能の無さを痛感する。


「お前のことをどう呼べばいいか?ってことだ。もう天使でも剣聖でもないんだろう?」

「あ〜そういえばそうね…一応しばらくはタッグを組むわけだし…」


彼女は考えながら剣を振るう。その姿はまるで絵の様であるが、彼女が剣聖と呼ばれていた頃のソレとはいささか違う様な気がした。


「魔法剣士、魔法剣士と呼んで頂戴?」

「ああ、改めて宜しくなポンコツ魔法剣士殿」

「ポンコツじゃないもん!短剣使い君のバーカ!」


天使でもなく。英雄でもない、人間として、少なくとも俺の前ではそう振る舞うと決めたのであろう彼女との何気ない会話は、孤独に押しつぶされそうだった俺の心の隙間に容赦なく入り込んできて、その暖かさは、甘美なそして恐らく俺に対する毒となるだろう。

だが、約四ヶ月、約三分の一年ぶりに人に出会えた俺はその毒を煽り…失う事を恐れるだろう。

ソレがたとえ、どんな形であろうと神という巨大な上位者に背いた反逆者であると、頭の何処かで判っていても、である。


ねんがんのナカマをてにいれた。ゾ

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