階梯をあげて身体能力で殴る。
レベルを上げて物理で殴る。
それを攻略と呼んでいいのかと言う様な攻略法を勧められる様なゲームが全時代にはあったらしい、たしかに高い性能で低い性能のものを一つ残らず粉砕するのは気持ちがいいと言うのはわかる。
しかしそれが正解であるゲーム、果たして面白いのだろうか?
答えは否だ。
だが空想は空想、現実は現実である。
「という訳で本格的にこのダンジョンを制覇してもらうよ短剣使いくん」
「まあ呼び方についてはどうでもいいが…今の俺について何かいうことは?」
現在、俺は吹っ飛ばされた左腕の治癒のため出来るだけポンコツ天使の近くで過ごすと言う拷問めいた事をしているのだが、そんな中つい昨日邪な何かに操られた結果俺を殺し掛けた奴が『さっさと仕事して』とほざくのに、反論することは何かそんなにおかしい事だろうか?
否、おかしくは無いし正当だろう。
勿論、それが通常時ならば、だ。
「うん、それについては本当に申し訳ないが…まぁ、対策は講じたよ、で、それとは別になんでそんな急かすのかっていうとね…昨日の神に面倒な事をされたからさ」
そう言って彼女が見せてきたのはだいぶ回復し葉が茂り始めた世界樹の概略図、いや違う。それはじわじわと上昇しておりダンジョンごと上昇していっている。
そして点で区切られた6桁の数字が規則正しく減っていっている。
「これは…」
「ええ、危惧している通りこのダンジョンと世界樹の現状、天上に在わす至高の存在とやらの悪戯、いえ、貴方という存在をこの世界樹ごと吹っ飛ばすための用意…よりにもよって彼はダンジョンごと世界樹を引き抜いて異界のエネルギーを暴走させようとしてるってわけよ」
…なんだか世界の危機だったり、神の悪戯だったりハプニング多すぎません?
「当たり前じゃ無い、君は私に蘇生された瞬間から天上の監視がついてるし、そもそも不完全ながらも安定し始めてしまった世界で英雄や勇者を面白半分で作り上げているのは神なのよ、こんな御誂え向きの状況も、もしかしたら貴方だけが生き残ったのだって…」
「やめてくれ頭が痛くなる。」
クソ!やってられない!
なんたって俺なんかが…いや、本当に俺を監視しているからなのか?本当は俺に取り憑き始めてる邪龍を狙ってのことなんじゃ…いや、どちらにしてもハッキリしてない内に意味もわからない悪意や敵意をぶつけられるなんてクソッタレすぎる。
いや、まあいつも通りといえばいつも通りなんだがそれが嫌で外に出て、こんな辺境にいるっていうのに…なんで運命ってのは嫌な方向にしか俺を導こうとしねぇんだ。
「で、よ。」
何故かわからないが何時もの白い髪ではなく燃えるような紅の髪を揺らす彼女は言う。
「これから貴方にやって欲しいのはダンジョンの攻略なのだけれど…幾ら加護が二重になっていてもその階梯じゃ死ぬ訳なんだよ」
「そりゃあな」
前の5階層までと違ってボスも地形も不明、しかもダンジョンは後半になると指数関数的に怪物の戦闘力が上がる。
このダンジョンのような若いダンジョンは特にその傾向が強く。古く大きいダンジョンは一部理不尽なほど強いこともあるが、基本的には綺麗なグラフの様な滑らかな上がり方をする。
だが、今問題なのは俺が一人であると言う事、そして何より才能に溢れていないということだ。
「ぶっちゃけ第五層まで攻略してきたのだって貴方がああ言う戦い方を徹底した結果なのは自分でもわかっているでしょ?」
「ああ、元より豊富な資材を相手に直接ぶつける様な戦い方だ。あの時の手持ちが奇跡的なくらい相手に刺さったのもそうだが、途中であのクソ邪龍に遭遇したのもきいている。」
そう、俺の戦い方は武器や個人の才能ではなく適切な道具を適切なときに使う。どちらかといえば道具使いくんのような戦い方である。
それ故にスペック差、身体能力の差が出にくいし、才能というよりは慣れと空間把握能力の賜物だなのだ。だが、資材を大量に消費して戦う関係上道具切れが他の探索者と違って致命的な意味を持つ。
「第二層までは資材を消費せずにいけたとして、今の貴方の戦い方じゃ三層と五層で出てくる巨大なボス相手に攻撃を加えるには丸太爆撃とかそこらへんの質量攻撃しか意味が無いでしょうね」
「ああ、そうだな」
外套に持てるだけ持つのもありだが積載量に応じてかかる重量も多くなる。前回の様に運良く空中や地面に出されるのならいいが、どこか狭い構造物の中や水中などでは装備重量で取れる択が全然変わってくる。
また、第五層以降は天使の力でインチキをしようにもどうすることができないらしいので、何処かで補充、というのも不可能、辛うじて第五層のキャンプに少しは残っているだろうが…丸太の消費が回復できないのが痛い、第一層の丸太以上に扱いやすく加工しやすい物はない、ほかの階層には細く長い木やそもそも木がないなんていうのもザラだ。…下の階層にかけるというのも悪くは無いが…頭がいい方法とは言えないだろう。
「で、だよ、そこで僕は突拍子も思いつきを君に実行してもらう事で必要条件と時間を一緒に満たす事にしたわけだ。」
「…非常に嫌な予感がするが言ってみろ」
彼女は自分が整った容姿をしていると自覚しながら笑みを浮かべる。そしてたったそれだけの事なのに不思議と好意的か感情が湧いてしまう自分という男に、少しばかり簡単すぎるのでは無いかと思った。
「そんなこんなでこれだよ」
「にゅふふふ…さぁ!もっと怪物どもを殺すんだ!」
作戦はいたってシンプル。浮き上がる世界樹だが世界樹の操作権現自体はまだ彼女のものである。故に…
『根を張り続ける。大地に対してアンカーの様に根っこを突き刺しまくる。』
そしてそのためのエネルギー、魔魂を集め、かつ俺を強化するために第一層からダンジョンへ侵入、最もリソース量が多い蟻塚地帯のある第三層で一体につき2点、ボス討伐で29点の魔魂を獲得し続ける。という物だった。
蟻塚地帯は三箇所、適度に離れており中心部の空白に巨大ワームがいる。ボスの再配置は一時間に1日に一回だが働きアリや兵隊アリと言った所謂雑魚はその生みの親である女王アリが死なない限り、正確には彼女に対するダンジョンのエネルギー供給がなくならない限り無限湧きである。
で、それに対して俺は人間であり、十分な休息とエネルギーがなければ戦えないのだが…
「残念ながら半分ほど永久機関とかしているんだよなぁ…」
再び第六階梯になった時、また死線を手に入れた。まぁそれまでは精神の水薬で意識を覚醒させながら低下した身体能力で戦いつづけていたんだからそうなるのも不思議では無いのだが、それが最悪だった。
自分より格上、と言うのは定義としては何でも良い上にそもそも俺が人間である以上二メートルから五メートルほどの巨大なアリの軍勢は如何足掻いても格上としか言えない、故に死線が発動し低下した身体能力を補って余りある身体能力を付与、ついでに身体の一部であるためか精神などにもブーストがかかりアドレナリンなどの一部脳内麻薬などが過剰分泌される事で精神も肉体も励起される。
食べ物や水分はギリギリ摂取しているがそれも戦闘しながらである。
しかしそれでも戦えるのはやはりクソ邪龍の短剣と奴の魔眼だろう。…いや、と言うかそれ以前に…
「頑張れ♪頑張れ♪」
「何でお前ダンジョン内に入ってるんですかねぇ!?」
「ふふっ♪禁則事項です♡」
それは胸に星型のホクロがある巨乳にしか許されねえ台詞だ!
…はぁ、そうなのである。この天使様が何故か知らないが今回の作戦実行のためダンジョン内にいるのである。
どうやら根が届いているところまで世界樹である。と言う判定なのか問題なく彼女の権能は発動しており、今まではあまりしていなかった怪物の素材をエネルギーに逆変換したり、素材を元手に俺の装備を生み出したり、俺の階梯をあげたりしている。
そういえば言っていなかったが実はもう一ヶ月くらい戦っている。魔魂にして換算すると1時間に200ポイントほど稼いでおり、それが24時間完璧に続けられた状態で30日ほど過ごしている。
…色々誤差が発生するし最低でも1時間で100匹と言うだけでボスの討伐なども含めると面倒臭いが約144000、そう、14万と4000魔魂である。
…まぁ残念ながらそれは殆ど階梯では無く世界樹の根とここから世界樹を操作すると言う無茶、彼女自身のコストによって食いつぶされており、手元にあるのは両手の10階梯と言う数字だけ、まぁ、こんな無茶をやればこんだけ稼げると言う良い指標になりはしたが、これも天使がダンジョン内にいてしかも俺にのみリソースを使うと言う奇跡の賜物だ。通常ならあり得ない、だがそのあり得ないがそろそろ終わる。
さぁ、攻略開始だ。
現在の短剣使いくん(名前考えてない)
世界樹の加護第十階梯
身体強化Ⅳ
脚力Ⅱ
異能:回避Ⅱ
異能:死線
異能:不眠不休
邪竜の加護第十階梯
身体強化Ⅲ
脚力Ⅱ
異能:殺戮者Ⅱ
異能:手品Ⅱ
上位異能:邪龍乃魔眼
Q、異能ってこんなに増えやすいの?
A、火を出したり、回復させる様ないわゆる魔法的な異能は少ないが、不可思議な現象や技能と言う意味での異能はさほど珍しく無い、が、普通こんな爆発的に増えない




