天の采配
ダンジョンとは、過去この星を襲った怪物どもと神々との戦いの跡、痕跡であり未だこの星を狙う侵略者の尖兵である。
今一度、神としての力を振るえば弱くなったこの星がどうなるかわからなかった最高神はこの星の生み出した最高にして最悪の傑作、人間種をもう一度ばら撒いた。知識を封じても意味がないならと星に刻まれた数多の傷跡から滅びる前の人類の文明を掘り返しては与えた。
幸い、倫理や統制の為の加護は当初の予定通り聴いており、猿のような蛮人と話す時間も無く説明もその理解も一瞬で済んだ。
そうやっていくつかの大まかなルールの説明をしダンジョンを探索させ始めてから数百年、最初の七人は未だ生きている。
そして、最高神として活躍しなければならなかった時期を超えて、その権力を手放した神の一人は頭を抱えていた。
…そう、神とは人間より人間らしく、人間よりもどうしようもないのだと思い出したのだ。
「クハハハハ!見てくれよあの無様、あの狂騒、あの間抜け面、神である俺がわざわざ蘇らせてやったってのに蜥蜴ごときにテコを入れられたくらいで直ぐにコレだ。」
水晶玉のような、巨大なレンズのような道具で下界を見下ろし歪んだ情欲に満ちた笑みを浮かべる邪悪、これが神であると思うのならばそれはすなわち邪神だろう。
「さぁて…俺に君は何を見せてくれるのかなぁ?」
白く絹のような長髪に対照的な褐色の肌、そしてまるで自分以外を見下しているかのような目で彼はいう。
「ま、どう転んでも君は死ぬだろうけどね」
運命や神に愛されたものが勇者であり英雄ならば、凡人というのはどういうものなのか、それは神と運命に愛されなかった者のことを言う。
袈裟斬り、唐竹割り、胴薙、刺突、基本的な武器の型であり、一般的に使われる武器のほとんどに当てはまる振るい方、突き詰めればそれだけで一撃必殺の極致へと至れると言われるそれらだが、それを極めると言うのが如何に難しいかは言われているより知られていない、探索者のほとんどは加護とそれによって得た強大な身体能力でもって勢いと質量を振り回して勝つ。大剣使いや戦斧使いなどがその例だ。
身体能力の高さがイコールで強靭さに繋がらないこの世界において武器は巨大化し防具は薄く。軽くなった。
その様な当てれば死ぬ、と言う脳筋的な考えが広がり一般化しているのもあって片手武器はあまり優遇されているとはいえない、だが、片手剣や片手斧、バックラーなどが何故残っているのか、それは一重に…
「なぁ、だからさ…俺の何がそんなに気に入らないんだ?」
人を殺すのに向いているからだ。
「なっ…が…?」
「すまない…」
問いかけ、と言うのはリスクと共に一瞬の空白を生む。それが歴戦の戦士などであればまた話は違うが、目の前にいる彼は、少なくとも俺の知る限りの彼は対人戦闘における心理戦など考えたこともない様な強さを持つ人だった。
だから俺は俺の質問に、疑問に、ほんの一瞬だけ止まった動きの合間に短剣ごと腕を彼の心臓部へ突き込んだ。
それによって何か彼にとって致命的なものが砕けるのを感じるのと同時に…最後の死線が、発動した。
邪悪に歪む彼の笑み、知覚不能にして不可避の速攻、つまるところ俺の知らない彼の異能が発動したのだろう。
そして、その未来の先読みが終わると同時に俺の左腕が吹っ飛んだ。