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過去


過去、そうは言っても17歳の若造である俺の過去など幼少期を抜けばつい数年前の出来事だ。


「っふ!っは!」

「っぐ…」


正しい呼吸、正しい姿勢、正しい力み、性格無比な攻撃が的確に俺の急所を狙ってくる。その表情は余裕のない俺の姿を見て喜んでいるようにも、ただただ感情のままに剣を振るうという事に快感を覚えているようにも見える。


「っと!」

「ぐぶっ!」


だがやられるだけが俺じゃない、手に入れた異能の詳細がわからないのならば魔眼で観ればいい、俺はモノのある場所や動きをほんの少しだけ入れ替えたり動かしたりする異能、手品と外套のコンボを使い丸太を盾にしながらそれを蹴り飛ばし、火薬を紛れ込ませ、爆炎と質量で殴る。

いくら超人的な身体能力や頑健さがあってもそれらを攻撃力として変換するには短剣という武器のロスは大きすぎる。ましてや音を超える程度普通にやってくる天使もどきに対してそれを翻弄し得る程度の身体能力など普通にありえない、ましてや体格、筋力、瞬発力などあらゆる面で鍛えた常人並な俺にとって剣士としての才能に恵まれた彼の攻撃はいささか早すぎるし痛すぎる。


…今更だが、対人戦闘において爆薬や丸太は実は向いていない、やはりどこまで言ってもジャイアントキリング、人が怪物を殺すための手法なのだ。

だが、それが瞬間的に放てるのならば音を超える超人だろうが人は人、熱には弱いし音や光にも弱い、それに特殊な装備でも来ていない限り質量かける運動エネルギーという絶対的な破壊の法則には抗えないのだ。




思えば彼らとの出会いは俺の人間性に関わる大きな転換点だった。


それまでの俺、と言うか実家の近くでチマチマと階梯を上げていた頃はおおよそ人間的な感情的な部分を削ぎ落としていた。家族に迷惑もかけただろうし、心配もさせただろうが、元が元で家が家だった。俺が自ら死地に飛び込むのを喜んで見送り、帰ってくるのを見れば舌打ちをする悪意を隠そうともしない親戚達に心身ともに疲弊しきっていたのだ。


『早く死ねばいいのに…この無能が!』

『貴方のような無能を生んだから貴方の両親はあんな目にあわされているのですよ?』

『ハハっ!なぁ!お前の妹を寄越せよ、あ?逆らうんじゃねえよこの無能がよ!』


階梯を上げれば外へ行ける。外界の汚染地域は加護の力を直接消費してようやく命をつなげる死の大地だ。それでも俺はこの街から、あれら忌まわしい親戚の思惑通りと思うと腹立たしいが、外へ行くことを目指した。

チマチマと階梯をあげ、一度第十階梯まで届いた頃、俺はなまじ良く見える眼とともに故郷を離れこの街に来た。そのために一度街の外の汚染地域を走る護送車に乗った。最新の装備によって加護の損失は抑えられたがそれでも第二階梯まで落ち込んだ。

しかしながら新しいとは言っても浅いと言われていたダンジョンに来るベテランも多くなく。レベルが最も高いのは俺を含めた数人、即日動けたのは俺ともう一人、それとこの周辺俺がいた場所より近い場所に住んでいた探索者の一団だけだった。

その一団に混じっていた新米、それが彼らだった。


そもそも同じ街に住む者同士、そして信頼の置ける者同士探索者として名を上げようと思ってこの街に来た彼らは、とても純真で無垢だった。特に道具使いくんや大楯使いちゃんは世間知らずではないのだが警戒心が薄く。時たまとんでもない失敗をするのだが、それもまた良い雰囲気を作る一助となっていた。

最初のダンジョンアタックにおいて、第一層で彼ら新米や他多くの探索者が脱落した。剣士くんだけは食い下がろうとしていたのだが…今思えば同年代である俺のせいであるかもしれない、しかしながら他三人の制止もあって彼は踏みとどまった。

そのあとそれなりに稼いで情報を持ち帰れるギリギリで帰還した俺は一気に第四階梯までレベルを戻し、そして最も深く潜り帰還してきたたった一人になった。

斥候や敵の探査役としての面が大きかったのでそうそうもて囃す様なことはなかったが、それでも暫くやっていくのに十分な資金と探索者組合からの信頼を勝ち取り、今となっては意味がないが石から始まり白金に終わる探索者等級において銀の名誉すら受けた。

その後は剣士くんが言った通り彼らの指導をし、探索階数で追い抜かされ、彼らは、いや彼は俺の力を必要としなくなり…死んだ。


何が悪かったのだろう。

探索者らしい生き方といえば彼らはそうだったが、もう少し臆病になってもよかったのではないかと俺は常々思っていた。

くそったれな神様とやらのおかげでもう一度合間見えたが、激情に支配された彼に何故そうも生き急いだのかを聞いてもきちんとした答えが帰ってくる保証はないし、彼らの喋ることが俺の勝手な妄想でないとも言い切れない、だが確かなのは、俺にとっては良い思い出であり、良い後輩だったという事と、彼にとって俺は目障りな存在だったという事だ。




「なぁ、君は俺の何が嫌なんだ?」


気づけばそんな無意味な問いが口をついて出てきていた。

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