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反魂の根


本日二度目の死線発動、見えた未来は…避けきれなくなったところを殺されるというシンプルなものだがそれ故に恐ろしい、瞬間的に見えた未来から正しく情報を抽出する。そして俺にとって致命的になるであろう一撃目が掠ったところで身体全体のパフォーマンス低下を感じる。

毒では無い、視界も危険でいっぱいなのはいつも通り、逡巡した結果右手の甲をちらりと見るとそこには予想通りの物があった。

3000

その数字の示すところは…


「階梯への直接介入、まさに神の御力って訳か…」

『その通りである。クフフハハハハハ!』


いきなり脳に直接低く威厳のある糞野郎の声が響く。全部こいつの手の内ってことはないだろうが、いや、まぁあったとしても別に不思議ではないのだが…いかんせんタイミングが良すぎる。

別に答え合わせにだけ来たって訳じゃないんだろう。


「キヒィ!」


樹木の根を撃ち払い、切りとばすが、その合間合間に剣士くんの見た目をした別の何かが邪魔をしてくる。最早その表情から彼を知る人は彼を彼と認識できないだろう。


『さて…つい先日我が力の末端を打倒せし愚者よ、現状が続けばあと数十手凌げてもその後ジリジリと縊り殺されるのは目に見えておろう?』


剣の横を抑えそらし剣士くんに斬撃延長を利用して木に損害を与えようとするが…不可能、そしてそれに気づいた彼が次また斬撃延長を使うのはおそらく俺を仕留められると確信した時、クソ邪龍殿の言う通りの展開が待っているのは確実だ。


『そこで…だ。一つ戯れに力を貸してやろう。なぁに、遠慮するな少しばかり生き辛くなるだけよ』


こいつ基準で少しなのか、皮肉を効かせて少しなのか、もしくは両方か…少なくとも今この提案を受けなければ死ぬだけなのは確実と言うところでそういった事を囁いてくるあたり、邪龍と言うよりは悪魔、蛇は性格が悪いと言うことだろうか?


『なぁに、少しばかり隠し事というのが増えるだけだ愚者よ、今更何も失わない貴様にとってこれ以上ないほどに簡単な代償だろう?』


ニヤリ、と愉悦に口角の上がる死体のような呪詛の塊の姿が今も夢に出る。なぜ俺が彼奴を嫌っているのか、それは生理的に無理だと言うのもあるし、彼奴と俺との戦いは俺を態とギリギリのところで生き永らえさせるような気色の悪い殺意と、何かの思惑、そして悪意に満ちていた。

そんな相手に対して悪態をつかないのは余程の聖人だけだと俺は思う。

…だが、そんな奴の思惑通り動くのは癪だとはいえ死ぬのは嫌だし、上位者の思惑のぶつかり合いの中ですり潰されるなどまっぴらだ。


『クハハハ…ならば、叫べ、龍の加護を此処に、とな!』


言葉を口に出そうと思うと体が勝手に動き迫る根や剣士君の剣は黒い霧のようなもので阻まれた。俺は目の前で驚愕と憎悪に染まる彼の顔を見ながら短剣を掲げる。


「龍の加護を此処に!」

『フハハハハ!我が契約は此処に結実する。さぁ死ぬ気で耐えるがいい!』


愉悦に歪む邪龍の嘲笑が響き右手首の赤い筋が消え左手首に焼き鏝を押し付けられるような激痛が走り、全身を包む世界樹の加護の内側から怖気の走るような熱気が俺を包む。


「グッ…ガァァアアアア!?」


それはまるで生物のような、その息を吹きかけられているような、その体温に包まれているような奇妙な安心感と気持ち悪さが同居したような少し暗いオーラが俺を包む。

激痛によって思考が乱れるが口に精神の水薬を流し込み、眼球だけを動かし自分の体を見る。

見れば両手首に黒く燃え上がる鎖のようなものが巻きつき、それが離れたと思うと左手首には右手の甲とは違う文字だが3000という数字、そして右手の甲の数字はゼロになり左手首の数字が1899にまで減少した。


『貴様に加護を授けた。第三階梯まで上昇した結果貴様に付与されたのは邪龍乃魔眼、手品、身体強化だ。魔眼は効果は変わらないが使用回数が増えている。他はなんとかしろ、ではな。』

「ちょっ、ま!?」


声が消えると同時に靄が消滅、それを見計らって根と剣士君の攻撃がまた始まる。だが死の未来は見えない、そして本能的に回避できたと感じる。…非常に不本意だがあの邪龍がナニカシタようだ。俺の目の前まで迫った肉肉しい根が暗い色の混じったオーラに触れた瞬間に燃え上がり消え飛ぶ。


「なっ!?」

「…クソが、いい仕事だぜ!」


恐らくあの憎々しいナニカは触れた世界樹の加護を魔魂へと巻き戻す能力を持っている。だが、それが戻せるのはあくまでも世界樹の加護だけ、あの忌々しい邪龍と結んだ契約により世界樹の加護を邪龍の加護で包み、更になんらかの方法で加護を通してあの根を焼いているのだろう。

本当に忌々しいし、憎たらしいが今現在謎の神に喧嘩を売られている身としては敵の敵は敵でも利害の一致する一瞬、この今だけでも手札が増えるのは素晴らしいと思う。


だが、それが解決しても俺の目の前にいるのは怪物、それも探索者の技能を存分に使ってくる知性と理性を持ち合わせた面倒な存在だ。肉体的、能力的にも劣る俺が勝てる見込みは…なくはない、が、高くはない…いや、正直に言おう。


「こっからが勝負だな」

「ええ、そうですね!卑怯で名の通るあなたに対して僕は全力で真っ向勝負をしてあげます!」


愉悦と憎悪と殺意、それらをぶちまけながらこちらへ迫ってくる様子はまさに悪鬼、鬼のような表情で俺を見る眼光に宿る悪意、その根元がなんであるか俺はまだ知らない。

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