残念ながら冒険の書2も消えてしまいした
初手で邪龍の眼を使う。
勿論解析だ。外套にはリットル単位で精神の水薬、治癒の水薬、そして出血毒と麻痺毒を混ぜ合わせた注文通りの劇薬が入っている。精神の水薬を外套の一部を口に纏うことで直接取り込み頭痛を解消、情報を整理する。
『天使、正確にはその劣化の劣化のレプリカ、探索者となった端末の死後を利用し異能などのリソースを制限しながら天井より支給されている魂魄改造により加護の強化や異能の最適化が行われており肉体も最盛期の物以上のスペックに纏められている。しかしこれは特定個人への強い思いのみを切り取り増幅させた劣悪な品、少なくとも人類よりは強いが完全な存在とは言い難い』
…なんでこんなもんと戦う事になってんだろうなぁ、畜生!
『それは勿論我の所為だ。わかっておろう?』
さらっと会話すんな
俺は明らかに速度が上がったもののあの邪龍と比べれば、今脳内に勝手に語りかけてきている邪龍よりはマシだと思って避ける。実際、剣士君の異常な膂力はスピードにも十全に活かされているのだが、どうにも荒削りだ。剣の振りは最速最短で最も効果的な物なのだがそれだけ、それ以上のものではなく。あの才気あふれる剣技の冴えは今の所見受けられない、それにあの超存在と違い爆薬や丸太が十分な威力を発揮する。
というか質量的には変わらず。爆薬や丸太で吹き飛ぶような相手と戦うのがいささか久しぶりすぎてどうしてこんな苦難に満ちた人生を送っているのかと後ろ向きな気持ちが湧き上がってくるがそれを握りつぶして加速する。
だが俺の限界や物資の限界は遠くともただの鉄である短剣の寿命は短かった。剣士君の攻撃をかわし明らかに人間のものではない硬度の首へ振り抜く。
「ッチ」
俺は手の中で芯が歪んだのを感じる。というかだいぶ前から柄が半分ほどに折れていたのだ。俺はそれを思い切り投擲し道具使い君の弩の弦を切る。
まぁ、切ったというよりは引っ掛けて無理やり壊した。という感じだがな?
そして俺は忌々しいい白い短剣を取り出しながら先ほどと同じように精神の水薬を飲み込む。激しく燃え上がるようだった全身の感覚が死線と精神の水薬の効果で燻るような、しかし徐々に熱されるような感覚に変わり頭の芯はしっかりと冷静になる。
そして悲鳴をあげる肉体に死線の能動効果と治癒の水薬がしみる。
それと同時に剣士君が踏み込んでくるがその剣を正面からではなく横へ打ち払う。
「なっ!?」
凄まじい勢いで振り抜かれた短剣によって機械剣は横へ軌道を変え、生じた大気のヤイバが剣士くんの鎧や外套を切り裂く。
そしてもう一撃、首筋に放とうとするとそれを遮るように大楯が飛び出てくると同時に地面に杭を打ち込む。瞬時にそれを破れないのはわかったのでそこを足場にしつつ火薬を放物線を描くように投げ、爆発するのを尻目に…
「え?」
「死ね」
飛んできた矢を斬り払い、道具使いくんの首を切り、心臓部を穿ち飛ばした。
その瞬間、俺の目の前にはあの呪詛の塊のような、巨大な蛇のような竜のような龍の前にいた。
『さぁ、踊れ愚か者、我が手の内で舞え、それが我が存在の糧となる。』
「うるせぇ、黙ってろこの腐れ邪龍が!」
時は動き出す。
「あ…が…」
ソレは首だけでもこちらへ視線を寄越し、微笑んでいた。まるで生きていた時のように、まるでまだ生きているかのように、彼らの死に様の凄惨さからすればなんと奇妙な事だろうか、俺は視線によって受けられる恩恵が強化され、それによって見えた一瞬の口の動きを忘れないだろう。
『ありがとう』
最も強い感情によって生み出された彼は、俺への感謝の意を示して消えた。
「キサマァァァァァ!」
斬撃延長、その光が通常時なら捉えれられ無い速度で飛来する。回避しようと地を踏むが異能使いである長耳少女の異能の一つ、おそらく俺が抜けてから手にれたであろう地面を操作する能力が俺の踏む土だけを沼に変えていた。だが俺は笑う。
異能の発動と同時に光が目の前を包み…効果は終了する。憎しみ、妬みそれらに染まった剣士くんの表情が驚きに変わる。ほかのメンバーもそうだ。
そういえばこいつらには一度も見せたことがなかったな…
「残念だったな、俺の異能は『回避』あらゆる事象、あらゆる攻撃を回避する。」
なんだか効果はぶっ壊れだが、回数制限が苦しい、たった3回で何が回避だ。死の回避をするまで確信が持てなかったんだぜ、『絶対回避』とかもっとそれらしい名前になった出直してこい…いや、と言うか…視界の色が安定しない、先ほどまでは画一的な感情の発露しかなかったが盾の少女と長耳の少女の感情が揺らいでいる。何故だ?
「あああああ!」
思考をカット、暑くなってきた思考に精神の水薬をかけつつ剣士くんの剣の軌道を読み切り迎撃不可能な角度から丸太を打ち付ける。
ゴリっという破滅的な音が背骨あたりから聞こえたが、それはみちみちと音を立てて修復され体ごと動いたために剣の軌道が大幅にそれるはずがそれを人外の膂力で無理やり修正、しかし二度目の剣撃が輝きを帯びたあたりで一瞬加速し下から上に向かってもう一本の丸太を出す。
「ごえあ!」
今度は怯んだ。どうやら肉体の各器官は存在しているようで、脳は脳のあるべき頭蓋に収まり、道理に沿って顎への衝撃は脳を揺さぶった。そして俺は斬撃延長の発動した剣を異能使いの方に向けて振り下ろさせもう一度細かく加速し顔面を丸太で撃ち抜く。ゴリッという音と共に頭蓋を粉砕したような音が聞こえ剣士くんは盾の少女の方向へ吹き飛んでいく。
とりあえず追撃しようと異能使いの方を向くが…そこには吹き飛んだ首を拾い上げ元あった場所に直す彼女の姿があり、その痛ましい存在に俺は…哀れんでしまった。