アイサツ無しのアンブッシュ、ジッサイシツレイ!
起きた。体操した。食った。
「エィー!」
…疲れた。そろそろ暖かい寝床で、柔らかい寝床で寝たい、ので!
「ちょっと頑張って毛皮を取ろう。」
今日の目標はカエル数体とモフモフした奴ら数体、とりあえず潜ってみて様子を見てから数は決める。
俺は回収して来た装備品が雨など、とりあえず水に晒されないように簡易的な屋根だけの小屋を作りそこに放り込むといつも通りの装備でダンジョンの入り口まで歩き…背嚢を空にするためにクソ硬いパンを拠点に吊るしてからもう一度ダンジョンの入り口に移動した。
「…装備は…大丈夫だな、うむ。」
短剣と一応異常事態であるため使う機会があるかもしれない直剣は研ぎ直してある。ついでに鎧も手入れしてあるが、これもそろそろ干さないと不味い、今日の探索を終えたら燃え残った炭を使って臭い消しをしつつ天日干しにしよう。
「それにいつかは壊れる筈だ。」
それまでに位階を上げて身体能力をあげたり、異能ガチャに勝利し、回避を信じて生き抜こう。壊れたら壊れたで別の装備を探したり、最悪自作しなければならないだろうが…
「…ま、俺の戦い方でそんな傷つくとは思えないけどな。」
洞穴のように空いた世界樹様の足元、根の隙間、歩みを進めていけば視界に赤色が混じる。
俺の祝福ではない、俺個人が持つ力、祝福を受けある意味純粋な人類と言えなくなったこの世界の住人、そこから生まれる生き物が純粋な人類であるはずもない、少なくない、むしろほとんどの子供が異能よりも弱いものの異質な力を持って生まれる。
「俺も魔法使い同士の子供みてえな厨二心くすぐられるギフトが欲しかったぜ…」
その中でも俺は微妙、と言われるようなギフトをもって生まれた。よく空気が読める人、とか言うだろう?俺は視覚的にその場の雰囲気を見ることが出来る。赤は危険…とかな、他にも色があるが、基本的に警戒色や刺激の強い色は危険や危機、敵意や殺意を表し、柔らかい色は安全や親愛、偶に恋愛感情なども見える。
いろいろ面倒なことも多いが、俺はこのギフトをもって生まれて良かったと思っている。心を読むようなギフトと違い人によって違うので過信できない所や、安全性や危険などは一定の色味だが、親愛などの感情が高ぶりに高ぶった結果敵意や殺意と変わらないほどのやべえ色に見えるところとか面倒な所も好きである。
さて、ダンジョン内、此処辺境のダンジョンはほぼ全域、といっても探索済みなのは4階層目までだが、そこまでは全て林と平地が点在する湿原である。
「さぁて…と…」
「ゲコゲコ」
「ゲコゲコ」
「ゲコゲコ」
くさむらのむこうに ジャイアントカエル が さんたいいるぞ!
たたかう
はめる
はめごろす
かりつくす ◀︎
ジャイアントカエル、巨大蛙とも言われる彼らは多くの初心者や近接職にとって狩にくく、しかし実入りはいい怪物の一つであり、このダンジョンでは第1層から居るが初球探索者の登竜門的な怪物の一体である。
皮は鞣すことで水を通さない上質なものになるし、ゴム質の皮は装備の裏地、持ち手なんかに巻いてある皮として需要は絶えず。腿の肉は食用に適しており、妙なクセもなく。簡単に調理できるのでこれもまた需要がある。
2メートルはあろうかと言うその巨体を跳ね上げる筋肉もすごいが軽量ながら頑丈な骨も金になる。
問題としては基本的に丸呑み攻撃なので下手に舌などで捕らえられたりすると、唾液に含まれる強力な麻痺毒によって自由を奪われるため単独、それも近接には辛いのと、ゴムと皮下脂肪それに筋肉と言う三重の鎧がその肉体を守って居ることだ。
対処法としては、柔軟性の高い皮膚や皮下脂肪、筋肉でも刺突に弱いので突き殺すと言うのが一つ。若しくは鋭い斬撃と言うのもいい、強弓や弩、銃などの狙撃も可である。
とりあえずある程度までの打撃を無効化してくるのだが…なのだが、問題は初級探索者にそんな大それた武器や攻撃法が用意できるか、若しくはそんな真似ができるかどうか、である。
「ま、普通できねえんだよな。」
正義感ましましだった剣士くんの斬撃延長などの例外はあれど、初心者殺しとして名高く。珍しく魔法系の異能に耐性があるなど意外と面倒な彼らだが、その習性に見つけた獲物をまっすぐ追いかけてくる。と言うのがある。勿論跳躍などで大きく飛ばれるかもしれないが、それでもこの大きさになってしまった彼らは自分の体長の二倍、約4メートル以上跳ぶ事はあまりない、と言うか出来ないなので落とし穴最強伝説が幕を開けるが、それはめんどくさい。なのでスマートに行こう。
俺は慣れた手つきで小石を拾いカエルのうちの1匹に当たる様にぶん投げる。すると1匹だけでなく全員付いてくるので俺は近くの木に登って待機、鼻は良くないし視覚も、聴覚もさほど良くない、しかし動くもに異常に早く反応するため獲物を狩ったり、探索者を襲ったりするのは一級だ。
とりあえず彼奴らは石ころが飛んできた方に正確に歩いてくる。感覚器官のほとんどが微妙な中触覚が最高レベルでよく。表面に触れた物がどこからきたのかとか、そう言うのはよく感じ取ってくれるらしい…とりあえず3匹目が通り過ぎる所で…
「死ねぇい」ボソ
「ゲェ!?」
ダイナミックアタック、(上空から短剣を下に向けた状態でダイブ)炸裂!感覚、特に嗅覚が鋭い獣には使えない技だが、こいつにはドンピシャである。
だが、これで他の2匹に気づかれる…だが、此処はすでに林の中、迂闊に飛び跳ねれば自分から鵙のハヤニエ状態まっしぐらである。なので舌を伸ばしてくるが…
「死体蹴りご苦労さまでーす。」
基本的に後ろ足のお肉が狙い目な俺は殺したカエルの死骸の後ろに伏せて隠れ下の攻撃をやり過ごしつつ待つ。ちなみにカエルの攻撃でカエルの体が傷ついたことは無い、鞭の様にしなる彼らの舌だが、先端の丸みが風圧で広がることで粘液による獲物の獲得力を上げている都合上、打撃としての威力は弱い…勿論、人間が受ければ死ぬんだけどね!
さて、そんなこんなでバキバキバキバキ音を立てていると、いつのまにか俺は彼らの背後にいます。
まあ、あれなんだよ、彼らスケールアップしても外の蛙と同じで止まってる物や静止状態に近いものは見えないのだ。
まあ、こう言う弱点があるのも低層の怪物のお決まりなのだが…まあ、抜き足差し足ではないものの体温や物が揺れ動いたりして当たらない様にゆっくりと動けば…もう一回アンブッシュできるわけだ。
「死ねい(2回目)」ボソ
ちなみにこの方式だと短剣…そうは言っても二の腕ほどあるこの剣を籠手ごと頭にぶち込んでかき回すことになる。
まあ、粘液まみれになったり、自分の血や相手の血で塗れるのはバカのやることなので脳漿だけを華麗にぶち抜くこれはスマートと言わざる得ないだろう。
…ちなみにこの落下攻撃、背面からやらないとパックリいかれるので注意である(二敗)。その時は中をやたらめったら刺すとか、俺の場合だが回避の異能による強制的な回避で逃れるのがいいゾ!超疲れるけどな!
「さて、一対一…とか真面目にやるわけないんだよなぁ…」
林に誘い込んだ理由ははただ木の上からのアンブッシュができるってだけではない、ダンジョン内の怪物は動物的な習性とどこか機械的な習性の二つを持っており、怪物の多くは原則的に、テリトリーと呼ばれる自信の領域から一定時間、基本的に30分ほど離れると唐突にあらゆる戦闘行為を放棄して元の場所に戻ってしまう。この時、彼らにはダンジョンから力が供給され異常なスピードで回復してしまうため、普通はこうやって領域外まで引っ張って殺すなんて言う事はしない、ちなみにこの時は脳と心臓を潰そうが死なないので…領域内に戻るのを見届けて、小石で釣ってアンブッシュ安定なんだよなぁ!
「これで6本、まあ切り詰めれば一週間、きちんと食っても三日持つ。」
背嚢に入れた耐水袋に腿を詰めた俺はいっぱいになった背嚢を眺め…そして徐々に赤くなっていく空気を視界に捉える。
「うん、一旦帰るか。」
林の中で暴れたので他の怪物や階層毎にいるボスクラスが見にきたのかもしれない、かなりのスパンでその場の危険度の移り変わりが見えるこの目に感謝しながら、俺は帰還を決めた。