残念ながら冒険の書1はなんとやら
花畑、花園、まるで楽園かと見紛う様な場所、そこにそぐわない月明かりと肌寒い様な空気、まるで幻想的な光景だが俺の視線の先にあったそれは明らかにこの雰囲気にそぐわない物だった。
「墓標?」
「そう、墓標だよ」
声の方向に剣を向ける。剣を向けると言っても短剣なので体ごとだが、そこに居たのは予想外の人物だった。
煌びやかとは言えないが手入れされダンジョン産の素材や部品で強化された剣、確かに最後見た時と同じ機械仕掛けの剣だ。
鎧は傷つきながらも様々な道具や異能で補修された跡がある。そう、確かに彼は盾を持たず。剣を両手に構え敵を引き付け倒していた。そう、彼こそが斬撃延長の異能持ち
「剣士くん…」
「…その呼び方、卑怯者さんですね…まさかこんな所まで来れるなんて、やっぱり実力を隠していたんですね?」
いや、勘違いも甚だしい俺は天使の、あのポンコツによって送り込まれただけだ。実際未踏はで未知の階層を五階層から四つ抜けてここに来れる自身がないと言えば嘘になるが、それでもまた苦しい戦いになるだろう。
そしてその先にあるここがどういう場所であるかも、よくわかっているつもりだ。俺は外套の中で左手を動かし中身を確認しつつ警戒をする。
何故警戒するかって?それはなぁ…
「なぁ剣士くん、お前さん仲間はどうした?」
「…ええ、死にました。貴方の指摘通り僕らは快進撃のままに突き進んでここにたどり着き…死にました。あの墓標、見たでしょう?まだ見てない?どちらでもいいですがね」
俺の目が言っている。彼はもう…人間では無い。
いったいこの階層がなんなのか、彼奴の言っていた緊急事態がなんなのか、俺にはわからない、わからないが俺の新しい異能がバリバリ反応している。
「それにしても妙だな、お前さん、いったいどうしてたんだ?今まで、こんなダンジョンの奥底で…」
俺のセリフが終わる前に、右側から殺意を感知、左のバックラーで弾く。
厭らしいが悪くない、俺は異能による攻撃を警戒して盾を矢が飛んできた方へ投げる。すると「ぴぁ!?」と言う叫びとともに爆音が響き大きなカバンを背負った小柄なオトコの娘が飛び出てくる。それと同時に異能によって形成された火球を外套で打ち消した。
すると剣士くんは拍手する。
「やっぱり、流石ですね、これくらいじゃ倒せないとは思ってましたけどまさか無傷だなんて…」
「あいにく、一人でやってればこれくらい普通さ」
ちらりと見た彼らもやはりまとう雰囲気が人間のそれではなくなっている。というか…
「あと一人いるんだろう?盾使いちゃんよ」
「…」
やはり、か。だが一体これがなんだというのだ。彼らが人間ではなく。そもそも生き残りが俺だけであるとあの天使が断じたのだ。今更夢を見たりはしない、だがそもそもこの階層は…
「では、死んで貰いましょうか」
考える暇もなく。俺は4対1とかいう頭の悪い戦力差での戦闘を開始することになった。
ガチリと言う音が目の前の鎧を着込んだ所謂ドワーフという亜人である少女からも剣士くんからも聞こえる。確か…
「ダンジョン産の魔導具を特殊な異能持ちに改造させた特注の変形型の特殊片手剣と可変大楯…だったな」
「…覚えていたんですね、いえ、そうでしたね僕らの事を一番最初に祝福してくれたのも、なんだかんだと世話を焼いてくれたのも貴方でしたね?」
道具や弩を弾き異能を外套で防ぎつつ二人と距離を詰める。斬撃延長が最重要にして最強の手札、どうあがいても非物質を着ることすら可能なあの斬撃に対してやりようは…あるが、こちらもあまりやりたく無い、と言うか恐らくだが…
『ファミチキ、聞こえてますか』
…ふざけた念話、いや加護を通した遠距離通信か、まぁ天使からなのだろうがわざわざこんな事をしてくるなど、いったいどんな事が…
『ファミチキ、ファミチキ…きこえていま『聞こえてるから早くしろ、緊急事態がなんなのかわからなければ対処しようがないぞクソポンコツ貧乳天使』…落ち着け私、平常心よ、平常心で対応す『早くしろ!もう接敵してんだよ!』あああああ!うるさいですね、簡単ですよ簡単、目の前の人もどきを殺して下さい、それらは全て一部の天上から送り込まれてきたッ』
通信が途絶する。
ついでに相手の遠距離攻撃も激しくなってくるし、大楯までは近付けたがなかなかうまい、彼女より先に進めないし彼女の防御力を信頼してしかもできるだけ彼女に当たらないように射撃と異能が飛んでくる。
だがまだ手ぬるい、というか殺意は感じるが本気で殺しに来てないように感じる。…いや、というか…死線が発動しているのに動きが遅すぎる。
大楯の後ろから剣士くんが飛び出してくるがやはり反応できる速度、しかも斬撃延長の特徴である輝きがない俺は短剣で横腹を押してそらそうと思ったが…死線が発動した。
「ッ!」
見えたのは剣ごと押し込まれ肉片になる俺の姿、俺は刃を合わせる事なく後ろに飛び、剣が地面に触れると同時にまるで爆発したかのように錯覚するほどの破壊を生み出したのを見て冷や汗を流す。
「ふむ、避けましたか、流石ですね」
「…お前ら…一体何になりやがった?」
俺は出来るだけ落ち着いて尋ねる。明らかにあれは剣の仕掛けではない、そもそも奴の場合威力を高めるのでは無く射程を伸ばした方がいい筈だ。
「いい質問ですね、答えてあげましょう。」
そう言って彼奴は、いや彼奴等は一瞬動きを止めると純白の羽を生やす。
そう、羽根だ。
それはまるで世界樹を守る天使のようで、まず間違いなくそれそのものだった。
「「「「…我々の目的は邪龍の因子を消し去りこの星を再び偉大なる我らの手中に収める事、つまり、だ…」」」」
その声は、つい最近聞いたような、あのポンコツから聞こえてきた声、あの邪龍以上の邪悪を思わせるような、それでいて神らしい無機質で如何ともしがたい上位者の声だった。
「「「「消えろ!イレギュラー!勇者や英雄以外の特異点など、邪魔でしかない!!」」」」
俺は、武器を構え直し、いつもの闘い方をすることに決めた。
何故ならば…
敵は化け物だからだ。




