二階層一階層(めんどい)
悲報、全身筋肉痛
「はぁ…マジクソ」
身体能力の強化、聞こえはいいが所詮ドーピング、副作用というのはやはり存在する。
その根元が別の世界の法則による肉体機能そのものの強化ならばそれもまたひとしおであった。
「まじで、まじでなんなんだ…そうなるだろうなとは思ったけどここまでひどいか?ええ?」
加護による肉体の強化、より効率よく強化を強くするにはどうすればいいか、簡単だ。強化される肉体を強化すればいいのだ。だが加護という鎧の下はどうあがいても脆弱でありそもそも加護による身体強化でも多少の負荷があるのに肉体を直接強化すれば…ま、どうなるか判らなくはないだろう。
階層と階層の接続点、今回の場合はそこにかまくらを作って凌いでいるが、腕や足は熱を帯びておりおそらく筋肉が広範囲で断裂している。まぁ、それくらいなら加護で何とかなるのだが、問題は全身を余すところなく使う戦闘方のおかげで回復が間に合わないほどの筋肉痛と内部出血を強いられているということだ。
動けなくはないが、動きが劣化しすぎている。そもそもどんな階層でも攻撃を避けて、殺される前に殺す戦法なのでこんな状態で行けば死ぬのは確実だ。
「折角勝ったんだから生きて帰らねえとな?」
と言うか普通物語だったら山場超えたらいい感じの転移が入ってとりあえず危機は去ったみたいな感じで終わるだろ…なに?リアルにそれを求めるな?…仰るとおりだこのヤロー!
「ま、暫く休むしかねぇか…」
1日とは言わないがここで半日潰すことになったのは本当に痛恨の極みである。
やはり、信用できるのは物理と爆薬、加速と質量の産み出す破壊と硝石と硫黄と炭が産み出す爆発と熱なのだと確信した。
どうも付与される異能で使い勝手がいいのが回避位しか無いし、武具も武具で外套はお気に入りだがこのクソ短剣にはハイリスクハイリターンを越えた物しかない、死にかけながら相手を殺してもダンジョンに殺される。それでは意味が無いのだ。
加速を使って丸太を打ち出し、火薬を巻いて爆薬を爆裂させる。それで生み出せる結果のために命や五体を危機に晒すなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。
「はぁぁ…これが一番落ち着くな」
二階層に上がってすぐ、視界に映る危険信号と擬態によって隠しきれない殺意に向かって爆薬を投げ、驚いたところを丸太で仕留める。
簡単で、簡易で、完璧である。
やはりなれない武器は使うべきでは無いし、そもそもきちんと性能のわかっていない武装など百害あって一利なしなのだ。
「今回のことから俺が学ぶべき教訓は…自分に都合が良いだけのものなんて言うのは、どこにも無いと言うことを思い出せ、ということだ。」
教訓、と言うか判っていたことを調子に乗って破った戒め、とでも言ったほうがいいのだろうか?悲しいかな、人間は学習するが驕る物、傲慢が服を着て歩いている様な物だ。
未知のものなどありはしないと驕り、うっかり天上が異星の神にやられそうになっただけで滅んだ前人類も、今の俺の様に新たな力を得た事で今までの自分を見失いそうになったのも、多くの探索者が死ぬのも、それらは全て油断であり、不運であり、自らの実力不足であり…驕りだ。
「フゥ…ほんと馬鹿みたいだな」
手の甲の数字が3480になり、きりもよくなった。この先は様々な怪物がいるが例の物はもうしまってあるし、今の身体能力なら駆け抜けるのも容易だが、それに頼っていては半日前や五階層のボスを殺した時と同じだ。
いつも通り敵の存在範囲と移動可能領域の接点かその間を縫って、見つからない様に、慎重にしかし大胆に進む。こう言う勘は日々の積み重ねと知識の集積の賜物だ。日々絶やさず続けねば意味はないのだ。
「そういう意味では今回の遠征中は無茶というか、色々とイレギュラーしか無かったなぁ…」
予定通りの攻略ができたのは一、二、四階層くらいで三階層もそうだが推定百階層の謎空間や五階層はそもそも想定の斜め上だったのでプランどころでは無かった。
「今にして思えば五階層でよく死ななかったな…」
自由落下の感触は今でも怖気が立つ。必要とあらばやるかもしれないし、天井から丸太アタックなどの時もやったりしたが、突然アレは無いと思う。マジで。
そんなことを考えながらトレントの分体をきりはらい、特に魔魂を得ることもなく上の階層への接続点に到着、少し休憩を挟んで一階層と二階層の間にしか無い階段を上がった。
階段を上がると久方ぶりの一階層、景色も平和だし、暑くも寒くも無い春の様な陽気と気温が心地よい、ここで一睡というのも良いかもしれないが、それだったらふかふかベッドで美味い飯を食って寝たい、というかここまでくると自分の格好にも気が回ってくる。外套は自動で修復されている様だが、鎧は全般的に焦げ、溶け、砕けており最早ポイントガード以下の襤褸である。
盾は壊れて失くしてしまったし、短剣はゆわずもがな金属棒となっている。
「さっさと帰るか…」
そう言いつつ帰り際に帰るの背中から毒キノコを集めたのは内緒だ。




