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徹底的に瞬間的に情熱的に


手の甲、右手の甲には3223の数字、今更だがこの数字は誰もが違うものを持っており持ち主か盟約によって結ばれたパーティ、若しくは管理者である天使しか読めないようになっている。

ある程度の傾向はあるらしいが、多くは前世界の多言語による数字を組み合わせシャッフルしそれをまた整列させた物を使っているらしいが…ぶっちゃけ知らなくとも生きていける。というか学者のうちにそのパターンを全部覚えて自力で解読した変態がいたそうだが、さほど意味がなかった上に自分自身が読めれば事足りるので知識としては残ってもそういう研究は残らなかった。


…なんでこんなことを考えているのかと言えば、その答えは単純明快、現実逃避である。


自分の今の感覚は強烈な勢いで地面に向かって引き寄せられている感覚、いわゆる重力が産む加速度、今の状態を簡単にいうのならば…自由落下中である。


さらに言うならばどうやら最後の最後は湖、いや、水一色の階層らしい、ちらほらと島のようなものは見えるが…それも水の下の地面が高くなった結果のようだし、どうあがいても水中戦は避けられないようだ。

そして余裕を持って観察ができたのは此処までだった。突如真下で水が弾け上がったかと思うとその飛沫を吹き飛ばして圧縮された水が飛んできた。

俺は外套を操作し空気抵抗の受け方を変え辛うじて体を捩って回避する。

ちなみに装備品全てに留め具をつけるのは探索者の嗜みである。故に腰の片手剣は落ちない、他は手に持ってるのが一つと外套の中の謎空間の中だ落さない。罠と迷宮は切っても切れない関係にある。ダンジョンもまた異界の力の結晶という形ではあるがその中は未知と危険に満ちた迷宮である。

ならば罠に備えるのも嗜みだろう?


水弾は俺の爪先を一瞬かすめたが衝撃はあれど出血骨折などの損傷はない、だが魔眼もどきの保持者であるが故に俺の目は水弾の中で怪物がひしゃげるのを見逃さなかった。

どうやら敵は怪物らしい超常の使い手か、若しくはバカみたいな肺活量の持ち主か…普通に考えて水を球形、若くは弾型に形成して打出すのなら異能かつい最近あった龍種のような奇跡の使い手を考えるが、ある一定以上の力や能力というのは一見すれば異能だがその実身体能力による賜物であったりする事も少なくない、異能ならば楽だろうが…もし身体能力によるものだとすれば、相当の覚悟がいるだろう。


というか異常が出てるのがここだというのをすっかり忘れて突っ込んできてしまったが、ちょっとやばかっただろうなぁ…後悔というのはいつも後からくるものだ。

そう思いながら俺は姿勢を正し、着水の衝撃に備えた。



感想としては深い、動きにくい、苦しいといったところだろうか?

そして目いっぱいに広がる青が魔眼によって見える視界に変わると途端に真っ赤に染まるのが非常にバッドである。


(此処も第三階層みたいな感じか…?)


思考が深層ではなく表層に浮き出る。

肺活量の強化などはされないが自由落下中に大気を外套の中に仕込みそれを吸って吐いてを循環させている。それもその場しのぎだろうが、ないよりはマシだ。


思考がそのように纏まったのは酸欠ではなく周りの様子からだ。

第四階層も第二階層もそれこそ第一階層もだが通常の階層には怪物が複数種類、複数体いるものである。その様子が無いのが第三階層によく似ておりそのような作りではないかと疑わせた。

実際、この水が淡水であろうと海水であろうと水というのは生物の生息環境としては申し分なく。魚を始めとした多種多様な怪物が生息している事は町の機能が生きていた頃に確認済みだ。

ついでに本当はちょっとした大きさの無人島のような場所から出て海中にある神殿のような場所を探索するような作りであるというのも事前情報として知っていた。それもあってかこの階層の異常はかなり三階層のものと近く。先ほどの推断と合わせて判断するにまた一体か二体のボスが待ち受けているのだろう。


そう思いながら海面に浮き上がってみたり、ちょっと水を蹴って沈もうとして死にかけたりしていると地響きにような振動がしたと思うと突如水面がうねりだし渦巻いていく。


その中心を見るとそこには何やら巨大な動く影があり、更にそれをよく見ようと水面に広げた外套の上に立つとした時、ふとさっさと死なねえかなと思ったのが悪いのか、それとも戯れに丸太を思いっきり投げつけたのが悪かったのか…今となっては判らないが突如として渦はなくなり出てきていた波は高く大きくなった後それに乗じて数キロメートルはあろうかという太く、長い魚、西洋的な竜では無く。種族的な意味な竜でも無い、東方つまりこのクソッタレな世界樹とダンジョンだけしか無いような世界でも未だ残る大海の中の島国とその周辺で多くみられた伝承、龍が出てきた。


「藪をつついたら蛇が出たかー」


もはやデカ過ぎて全容が把握できない、それ故になんだか我ながら現実感がない、幸いな事に飛行能力はないようだがその体の殆どは筋肉で出来ているだろうし、今現在水面から飛び出して数分もの間頭上を胴体がアーチ状に通り過ぎていくのを見る限り骨格や外側を守る鱗も強靭そうだ。


幸運だったのは龍という物を見た直後なためにこの目の前の巨大ウミヘビから龍種の持つ圧倒的な存在感の様なものが感じられない事、不運だったのは龍種でもなく正しダンジョンにリソースを注がれ強化され巨大化した動物ベースの怪物であるために、あの水弾は身体能力によって生み出された物であるという事だ。

身動ぎ一つで此処までの大時化を生み出せるのだ。その全長は本当に測り切れないだろうしその巨体とそれを支える筋力が産む速度×質量の破壊力は尋常なものではないだろう。

俺は水面を片足で蹴り飛ばし外套を変形させ水上を風呂敷のようなものに載って滑る様に動く。

直後俺のいた場所が巨大な顎によって削り取られた。

その顔はやはりウミヘビのものであり、強いて言えばエラのような器官の下あたりに不自然に発達した膨らみがあり、体の前半分が異常に膨らんでいるのをみて取れた。

次の瞬間上からウォーターカッターの様な、高圧で吹き出された水の柱が水面を破り、衝撃と大瀑布によって視界と耳を潰してきた。

俺は身体を起こし、水面に直角にそそり立った胴体の上、俺が落ちてきたあたりにある顔を殺意を持って睨みつける。

此処からでは丸太の投擲も届かないだろうし、彼奴の身体に捕まれば水中に引き込まれて鏖殺されるだろうという予想を立てたところで身体から何かが抜ける感覚がした。具体的には右手首の赤い筋がなくなった様な、解析した時の様な感覚がし、ウミヘビの体が黒い炎に包まれた。



「は?」


一瞬気を失いそうなほど気分が悪くなり、右眼が燃える様に熱を持ち血涙が出た。

それを短剣を持っていない左手で抑え、呻く。


だが、その呻きが吹き飛ぶ様な勢いでウミヘビはその炎に巻かれ、水に身体をくぐらせては跳ね、波を起こすどころかこのままこの階層を破壊してしまうのではないかという勢いで暴れまわっている。

俺はぐっしょりと脂汗を流し、痛みをこらえ、波に対処していると右手の甲が熱くなる。

其処には3272という字がうっすらと見え、急激に水位が低下したかと思うと俺はいつの間にか地面に立っており、俺の意識は其処で途絶えた。

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