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黄金の意味


その刀身は白く。金の意匠が眩しいがその切れ味は想像もつかないレベルのものなのだろうと推察できる。というかうっかり凝視してしまったが為に詳細な説明の様な、具体的ではないが抽象的にどの様なものであるか、と言うのが頭に流れ込んできた。非常に痛い。

そして最悪なその性質とこの短剣を送りつけてきたんであろうあの邪龍の高笑いが聞こえる。だがそれでもやってやろうじゃねえか…多分来世くらいで超絶チートと化した転生を繰り返した可能性世界の俺が仇を討ってくれるだろう。

と言うか何だよ怪物を引き寄せ短剣を刺した相手を強化するって、馬鹿かよ、どんな諸刃どころか破滅の武器だよ、誰だよこんなアホな武器をよこしてきたやつは、ぶっ殺して…まじ殺せれば良いんだけどなぁ!


要点だけ捉えれば凄まじい、それこそ持ち主さえ斬りかねない斬れ味、それを実現する為に刀身に異界の呪いとあの龍の逸話にあるらしい持ち主を破滅に追い込む『黄金』を使用した剣、それらがこの世界に流れ込んできた為に、その為だけにこの特殊階層は生まれその馬鹿の産物を核にあのオリジナルの劣化版を数億倍に希釈して劣化させた様な龍は生まれ、俺はこんな死ぬ様な目を見て呪いの剣を授けられたわけだ。


「死ねばいいのに…」


まぁ、斬れ味はそもそも相手を一撃で仕留めるの前提で、強化機能は自刃しながら使えって言う意味なんだろうが…あいにくこの世界はかなり特殊な例を除けば、それこそ今回のような幸運を除けば怪我というのはハンデでありその後の生存力を著しく下げる原因である。今回のような狂気に飲まれた状態ならまだしも真面なままこれをそう言う風に使うのは選択肢にもならない愚策だ。

俺が手に握っている白い短剣を仕舞い込み、後ろを振り向く。そこには最早柄も何も吹き飛び尖った金属棒としか言えないような有様になった上にちょっと溶けかけている俺の短剣があり、俺はそれを手に持ち、外套で手に固定した。


「はぁ…」


ここで剣士くん達のようなこの世界の中でも主役と言えるレベルの力と運の持ち主だったならば様々な特別を手に入れただろうが、俺は失うだけ失ってそれと相応か報酬内で打ち消しあってプラスマイナスゼロ、唯一精神的狂気の解消はされたが、それでも時間の消費を考えれば普通にマイナスだ。

記憶を掘り返してみると残り時間は三日、最悪丸一日戦って、その後さらにまる一日寝ていたならば残り一日、一刻も早い解決が望まれる。

腹に力を入れ頬を叩く。気合いを入れ直し、死なない為に最初から身体強化の操作をし脚部と腕力を強化する。


「次は…第四階層、だな」


見れば周りの景色がだんだんと薄れて、光の粒のようなものへと還って行っている。ダンジョンの核、エネルギーの供給源である歪みを失くしたダンジョンはこのように消滅するらしいが…まだ表層に出てきていないダンジョンを潰してもそれに変わるものはいくつも出てくるし、そもそも特殊階層はどことも繋がっていない独立した場所だ。ダンジョンの制覇者は称えられるが、これくらいのことは運のいい一般人でも成し遂げられる。


「第四階層は…確か雪原だな。」


思考を切り替え進みつつ、次は通常階層にきちんと接続してくれるのを祈る。

探索は最小限、怪物が強くなる中心部か奥地がボスのいる場所、環境再現型の楽なところだ。


「確か…狼、だったかな?」


肌寒さと移動後特有の視界のブレ、そして未知の気配を感じると、それについて思考する間も無くあの邪龍の残した呪いの品がどんなものなのかを認識させられた。



雪原、吹雪、それだけならば砂漠の時の焼き増しだが、どうにも様子が違う。

見渡す限りの敵意、生物型の怪物で上の狼とは一線を画す白狼、せつげんと一体化するようなその白い毛皮と冷たく鋭い敵意が俺の視界を、いや、俺の周りを取り巻いていた。


「引き寄せるって言うか…かき集めるって言うか…」


見ればボスすら例外ではないようで巨大な気配が俺へと視線を向けている。

俺は仕方なく対策として考えていたとおりに鞘ごと外套の空きスロットに短剣を入れる。するともう集まってしまったものは変わらないが向けられる敵意がだいぶ緩まった。そこで俺はクラウチングスタートと一気に加速する。

溶けて変形した短剣は軋みをあげ、軌道上にいた狼は俺の突進を避けるか死なない程度に轢かれ吹き飛ぶ。そして目の前に大狼が口を広げて突っ込んできたところで残り少ない丸太を打ち込み、同時に跳躍、眉間に短剣を突き立て、目に片腕を突っ込む。

強化した腕力で頭蓋のつなぎ目に沿うように、そうでなくても無理やりに亀裂をつくり、深く。命を刈り取るように激しく突く。

コイツの顎が金属を叩きあわせるような音と共に俺の足を食いちぎろうとするが、生憎と俺はコイツの上に立っており、ついでに言えばコイツの顎はもう惰性で動いているだけだ。

肉が千切れる嫌な音と命というものが産む熱が急速に失われていくのを感じるとほぼ同時にコイツを丸太が貫き、頭と俺が手を入れた左目から血液が噴き出し、光になり、俺はすかさず次の階層へと繋がる接続面へ飛び込んだ。

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