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超特急の惰性で生きてる精神的にタフな人類的な何か


昼である。とりあえず焼いたパンを片手に歩くこと一時間、街の外周近くに到着する。ここら辺は探索者から衛兵へと転身した公務員の方々が詰めている詰所だったり、とりあえず世界樹に守られていてもたまにくる魔獣と呼ばれる外敵から街を守るための機構があったりしたんだが…


「うーん、瓦礫!」


一応様子が違うのは壁だった場所である。この辺はダンジョンが出来たばかりだったのでまともな探索者が集まるまでは世界樹の生み出す生活圏は広がらないと予想されていたため、ちょっとした門のような物が作られていたんだが…


「凄い熱で溶かされた…のか?」


門であったであろうものは近代アート的な、ちょっともう何を表しているのかわからない昨今の芸術めいた何かになっており、石が溶けてそこを何かで殴りつけたような跡が固まっていた。

これがポン子の言っていた超高熱とやらの名残だろうか?まあいい、今はいないんだし…とりあえず資材を集めるかな!


「ふんふんふ〜ん…おお!」


ダンジョンの中でもそうそう無い凄まじい不可の肉体労働だが、そんな時こそ収穫と言うのは感動する。そこにあったのは完璧に原型のある台車、人が引けるサイズでかつソコソコの大きさだ。どうやら家屋が崩れた際に柔らかい藁などが周りにぶちまけられていたために損壊を免れたようだ。

車軸も歪んでおらず。そのまま使える。今なら周り中真っ平らだしな!


「よし…」


とりあえず背嚢だけでは心許無かった所だ。周りのものを退け、瓦礫で塞がれた道をどうにか整備する。何も積んでいない状態なので持ち上げてもいいが、うっかり車軸が逝かれたりすると涙が噴き出てしまうのでここは慎重にことを運ぶ。

途中、珍しく。というか現状初めてとなる住人の装備品であったであろうダンジョン産の鉄や魔法金属の武具が纏まっておいてあった。門からほど近いのもあって、おそらく衛兵さん方の詰所だったのだろうが、やはり瓦礫の山、鋼鉄製の剣が見えてなければ鍬で掘削する事も無かっただろうが、これは上々である。


「…というかダンジョンを攻略しろっていうけれど、新しくできたばかりだから何階層あるのかとか、そもそもどういう怪物が出るのかとか全然わかってないんだよな…」


ふとそんな事を思う。というか物理無効の軟体生物やら、物理半減の霊体などが現れたらなどと考えると寒気がする。


「武器屋だったとことか…最悪教会やらなんやらにも行かねえとなぁ…」


そもそも物品が無事かどうかわからないがそれでも一縷、もしその時がきたのならやらねばならないだろう。…まあ、廃墟と化した街を盗掘しながら進むとか前代未聞すぎる上に犯罪なんだがな!


日が暮れて、金属製の武器や木材が山積みになった台車を引く。一歩一歩が凄まじく重いが、素の肉体を鍛える事で祝福の効果は倍増する。意図せずしてドゥーイングマイセルフ生活する身になってしまったものの、それもまた仕方がない事、外の世界を小型の結界と馬車で移動してきた頃の自分はもっと希望に溢れて日々鍛錬を口癖に生きていた。…というのは冗談で、今と変わらず自分のことしか考えていなかった。

ま、最初何人かとパーティーを組んで見たりもしたが、みんな俺のやり方を嫌って出て行ってしまった。…一体何がダメなんだろうか?最低限の労力で最大の効率を、最小限の悪で最大限の偽善を生み出す事の何が悪なのだろうか?

『お前には着いていけない』なんて、そんなさみしい事を言う奴らがいざ彼らだけでダンジョンに行けば次の日には装備だけが転がっている。この世界は夢見る馬鹿を狂わせるにはあまりにも簡単で単純だ。

なればこそ、悪辣に生きねば生き残れない、それが俺の持論である。


「ま、彼らが弱かっただけかもしれんがね…」


そう言って仕舞えばそれで終わるのかもしれないが、彼らはそれなりにバランスがいいパーティーだった筈だ。

確か……そうだ。魔法使いのようなレベルの希少な異能の発現者こそいなかったが、斬撃を延長する剣士と敵を追尾する矢を放てる弓使い、道具の効果を広域化出来る道具使いに頭の中に地図を描けるシーフ…パーティー全員が異能を持ちで将来有望、チームワークも悪くなかったはずだった。そんな彼らが哀れにも吹き飛んだのは当時結構な衝撃だった…もちろん、このダンジョンの戦力的な意味である。


なにせ、剣士くんの斬撃延長は剣の生み出す物理的な斬撃を伸ばせる異能だったのだが、伸ばされた部分は辛うじて物理ではなく純粋な斬撃と言う霊体やスライムなどの物理無効を貫通できる属性持ち攻撃だった。

そう言う点で言えば、彼だけが中位異能、他三人が下位の異能とも言えた。

まあ、道具使いくんの広域化も金さえあれば上位の異能とも渡り合える代物だったが、如何せん駆け出しだったので俺と同等かちょっといい装備くらいしかない、資金も潤沢とは言えなかったので、仕方がない。


「ま、結局彼らは夢を見てしまっただけなんだろうがな…」


俺は、台車を引きながら嗤う。

馬鹿な奴らだ。

死因は罠、そして怪物のチェインである。

チェインは怪物を複数引き連れてしまう状態を指すのだが、ある種の罠はそう言う状態を強制的に引き起こす。どうやら馬鹿正直にダンジョンを進んでいてそれにぶち当たったようだが、基本的にダンジョンは悪意を持って侵入者である探索者を排除しようとする。

例えば罠を使い怪物を強化したり…とかね。


まあ、想像力が、悪意が足りていなかったのだ。

剣士くんはいささか純朴すぎたし、弓使いちゃんは剣士くんに惚れていて剣士君全肯定マシーンになってたし、道具使いくんはお人好しすぎたし、シーフのお姉さんは年下である他のパーティーメンバーを守ろうとしすぎていた。

物語の中のようにうまくは行かないし、そもそも探索者は個人業だ。いくらパーティーでもそれは変わらない、『自分が生き残って』なんぼの商売であり、職業だ。

そうじゃないやつは早々に衛兵になるなり、農業やらパン屋やらすれば良い、人的資源が常時枯渇気味なこの世界ではそう言う判断も大事だ。


「あー、じがれだー」


仮設キャンプ地に武具を下ろし、日暮れ近いのでまた焚き火に火を灯す。とりあえずパン食って寝よう。

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