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俺と殺意と丸太さん


目が覚めた。運良く丸太がつっかえ棒の様に内側に食い込みそこに俺が引っかかった様だ。

うねる肉や血流からして、やはり体内、しかもかなりでかい、直近の記憶を掘り起こしやはり俺は2匹目のワームに食われたのだと断定した。


外とは違い湿った空気、少し蒸し暑いが生物の体の中である為にそれなりに快適だ。…ここが消化器官と思われる場所でなければ、だがな。


「ふぅむ…」


グネグネと動く体内は目まぐるしく回転や捻りを加えてのたうつ様に動いている。外の動きと連動しているのは確かだろうが、それにしてもいささか動き過ぎだ。


「まぁ、おそらく丸太さんが原因だな。」


さっきからしがみついた状態で冷静に周りを観察しているが、それもこの丸太が運良くこいつの体内に突き刺さり空間を作って引っかかってくれたおかげだ。というか、やはり巨大生物相手の戦いで体内の方が柔らかいというのはお決まりらしい、最初に飲み込まれる前にとっさに短剣を突き立てようとしたが、外殻の様に変貌した装甲に弾かれ刃が少し欠けている。

それに対して、ここはどこもかしこも刺さりやすそうで、薄皮一枚切るごとにこいつに確実な損害を与えられると確信出来る程に弱そうだ。


「問題は足場が不安定なことと、足を滑らせれば軽く死ぬ所だな」


砂漠への対応の為に変形させていた外套を今度は丸太への固定の為に使い、ブスブスと音を立てて自らの血液を一瞬にして消化する胃液を見る。

大暴れしているが動き自体が早い為に液体がこちらに来ることはない、問題はこいつが環形動物をモデルとした巨大な虫であるということ、丸太の杭は刺さるが、おそらくそのうち溶かされる。希望的観測をすれば、砂漠への対応の為に、砂やその中に潜むわずかな虫などを食べるように進化したので植物体の消化はできないとかなら良いのだが、そうで合ってもいつまでもここに居るのは嫌だし、そもそも危険だ。


「という訳で…」


巻きつけている外套を最小限に、正確に言えば背面の布だけを丸太の巻きつけ左右の端を金属化、鋭利に変形させる。


「ポールダンスって、知ってるか?」


俺は自らを暴風と化した。



回避、そして短剣、俺の選んだ武器は地味で、しかしそれを扱う為には最低限の一流の技能が必要な物だった。

筋力があれば拳でも良かったが、実際あれは悪手である。なにせ未知の怪物に直接触れるなんている愚を犯さなければならないし、そもそも武術や武道というのは体格才能英才教育など諸々の条件が努力と言う凡人の取れる選択肢を遥かに超えた比重を持つ欠陥品だ。

…少なくとも、対怪物、という点においてはそうとしか言えない、対人戦であれば一通り出来るようになっておくことをお勧めする。


さて、それで問題は短剣だ。回避や防御は多くの人から習えたが、短剣使いというのが少ない上に気難しいのがあって教えを請うどころかそもそもその姿を目にできることもなかった。

それでも尚短剣を使う事に執着したのは本当にそれ以外に俺が家を出る為に身に付けられる戦闘力に数えられるものが無かったからである。

…まぁ、実を言うと俺の家系はなんだかんだ言って優秀な異能使いの生まれる家だった。少なくとも妹や両親はそうだった。数少ない例外にして落ちこぼれである俺は父や母からは大事に、それこそ妹と出来るだけ一緒に、平等に愛されたが、祖父母や親戚は違かった。俺を見れば小言や暴力を振るい、悪意を持って俺を排除しようとしてきた。その手が家族に向くのは時間の問題だったし、もう向いていたのかもしれない、だから俺は探索者となった。

そしてその為に俺は最低限戦闘力を持たなければならず。しかし直剣や盾を使って戦うには才も身体も足りず、異能はその時ないしそもそも攻撃力などない、弓や銃はやはり上手く扱えず…と行き詰まっていた所で食事の時にふと手にしたナイフ、それが俺の原点だった。そして苦労の始まりだった。


「振り方や動きは一度で理解できたけど、それで攻撃力を出すのが大変だったなぁ…」


リズムを刻み、剣を振って盾で消化液を防ぐ。

目は危険域を直ぐに教えてくれるのでそれも回避に関して苦労がなかった理由だろう。


「最終的に踊りにたどり着いたっけ?」


口数が多いのは、独り言が多いのはある一定の間隔を口に出すことで体に刻み、それに合わせて足から始まる全ての加速を探検の先端に集中させる為、その過程で足腰も鍛えられ足が速くなった。

お陰で死ににくくなったし、実際助かったこともある。


「ま、けど、それでも不完全だし、お世辞にも人に教えられるようなもんじゃない、回避は目に頼っているし、異能の保険があるという安心感でやってけてるところがあるし、そもそもやっぱり短剣自体がね…」


トントンと爪先を丸太に押し付けて外套の許す限り剣を振るう。

血が吹き出て、さらに胃壁の先、筋肉の先にある他の臓物へ刃を届かせる。

外套は端以外も体液まみれになるが、それが逆に胃液を防ぐ盾となった。

左手の盾は補助程度に、というかそもそも雑魚狩や人型相手用の盾だ。上では流石に使う機会はないし、この虫相手には効果は薄い…


「ま、けどそろそろ終わりか…」


これを倒したらまた巣穴嵐の中である。精神の水薬を少し飲んで外套を変化させ丸太に抱きつく。次の瞬間俺は冷たい床に尻餅をついていた。

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