とある勇者「マ◯クラかよ!」俺「いいえ、シ◯ィライゼーションです。」
起きた。体操した。お腹減った。
新しい朝は絶望の朝である。微粒子レベルで存在していた『実は昨日見た光景は俺の潜在意識の生み出した幻影ではないか』説が完全に粉砕されあいも変わらず。というか昨日から変わらず瓦礫!更地!ノーマンズランド!と三拍子揃った荒廃っぷりである。
…とりあえず、資材を集めよう。多分昨日の今日で腐ってない生鮮野菜の一個や二個…いや、待て確かこの街は怪物からの野菜産出がないために畑が中心近くにあったはず…
そう思い立った俺は焚き火周辺の資材を纏めるのを一時中止し畑があるであろう方角へちょっと歩いて見る。
途中、パン屋の残骸があり堅く焼かれた人間を撲殺できそうな硬度のパンが原型を残したまま落ちていたので拾っておく。…勿論、火は通す。
テクテクと歩く事十分程度、俺の期待した畑は…
「oh…」
焼畑農業を始めていたようで、全てが丸っと焦げている。おそらく収穫できるのはカーボンか炭素か炭である。だが近くの小屋をひっくり返すと鍬とバケツとなんかタネがあったので探索者としてはペーペーも良い所な弱弱な身体能力強化を意識的に発動させながら3メートル四方を耕し、素人農業らしく種を蒔いた。
残ったタネは回収し水は…天の恵みを待つしかないだろう。
「なんかもう労働意欲が失せてきたんだが?」
毎日土をいじってる方々には感謝する。
とりあえず資材、もとい使えそうなものを探しながら焚き火後に帰ってくると羽の生えた美少女が倒れていた。
俺は資材を確認して何も減っていないのを見てから穴を掘る。
うん、きっと死にぞこなってここまできたはいいものの息絶えたのだろう。正直超美少女だが、死体に欲情するほど落ちぶれていないので丁寧に火葬してやろう。
「う…うーん」
「なん…だと?」
生きている…のか?いや、けど、うん?ついに俺の唯一の取り柄である特殊能力くんがご臨終?そうなると俺の生存率さんが息をしなくなるんですが?
「お…」
「お?」
「お腹減った…」
「…」
とりあえず火を起こしつつ昨日焼いたカエルの残りをあげたら蘇った。
「こんにちは我らが子よ、汝に世界樹の祝福があらんことを…」
「格好良く決めてももう無理だろJK」
「…ダメです!私個人ならまだしも天使全体、ましてや神の権威まで貶めるような事はできません!具体的にいうならば『ご飯なんかに負けないんだからっ!』という感じで」
「あ、じゃあこれは俺が「まままま、まああ!待つのです。ここはひとつそのカエルを私に」…」
とりあえず昨日取った分のカエルは消滅した。残ったのは骨だけである。
「で、どうしたんだよ天使様?」
「はむ?」
さて、突然かつ悲壮感が全くないこの超絶美少女は知り合いではないが、しかし知らないわけでもない、この世界では世界樹が人類の生存圏を守っているといったが、世界樹はあくまで機構、それを管理するのは人間では不可能だ。
では一体誰が世界樹の管理、そしてそれが生み出す生存圏の人類を護るのか、答えは簡単では無いが、神という超上位の存在が出した答えがこれ、このポンコツ臭のする少女、正式名称を『天使』と呼ばれるモノだ。
「ふむ、何から説明すればいいのやら…あっ、とりあえずこの地区にいた人はあなたを除いて全滅しました。」
「やっぱりか…」
改めて突きつけられた現実にめんどくさくなる。なにせこれから先、そもそも先があるのかどうかすら怪しいのだ。溜息が出る。
「はい、そして私は世界樹と人類を護ろうとしましたが、失敗し、現状を維持するのが精一杯です。…あ、申し遅れました。人類さん私はセラ、とりあえずのところあなたの唯一の味方です。」
「ああ、どうも…」
ちなみに天使というのはけっこうそこらへんで見る。この前もパン屋でアップルパイを食っていた。俺の目の前で売り切れていて殺意の波動に目覚めそうになったが、その日はレアで実入りのいい怪物であるメタルウサギを狩れたので機嫌が良かったのもあってどうにか堪えたはずである。
「それで、です。とりあえず生存していただいてありがとうございます。先の大戦の傷がまだ癒えない中起きたこの事件ですから、もし人類さんが全滅していたらリソースの回収的な意味でここの全てを最初からやり直すことになるところでした。」
「…ちなみにそれはどういう感じで?」
「そうですね、とりあえず世界樹の苗木を引っこ抜いて植え直すので私という存在は一度真っ白に漂白されてしまいますね!」
「怖っ!」
意外と怖い天界とか神様とかの事情を聞いてしまった…これ、聖職者とかに言ったら殺されそうですね、黙っとこ。
「それでですよ、人類さん、実は今世界樹はピンチなのです!」
「まあ、それは見たらわかる。」
「あはは!当たり前じゃ無いですか、真っ二つな上に折れちゃってるんですからね!」
はて、なぜ自慢げなのだろうか?
「ですがこれでも頑張った方です。まさかダンジョンからではなくダンジョンそのもの、淀みが意思を持って街を襲ってくるなんて…我ながらよくこれだけ守れたと自画自賛してしまいます!」
「瓦礫の山だがな。」
「あの超高熱の中で物質が原型を持っているのですよ!?超頑張ったのです!というか私が頑張ってなかったらあなたも蒸発してたんですよ!」
「テンシサマアリガトー」
「心がこもって無いです!?」
そりゃあそうだ。理不尽なこの世界から人類という種を彼らが保護するのは、彼らが創造した俺たちが絶滅すると彼らに不利益があるからである。
基本的に神様視点で言えば人類一人一人なんて塵芥のようなものなのだが、それが本当に一人も残さず全滅されると、神は多大な労力を使ってもう一度世界を作り直さなければ成らないらしいのだ。
彼女がいう先の大戦と言う物によってこの世界が一度は滅んだように、そしてそこから新たな世界の法則を作り、人類を保護したように…
まあ、慈悲といえば慈悲なのだが、そこにも損得勘定があるのである。
「まあ、それでですよ。もう私が何を言いたいのか半ばわかってると思うのですが…」
「わかりたく無いけどね、全然わかりたくなけどね!」
「はい、そうですね、人類さん、あなた一人でこのダンジョンをクリアしてください、できれば早急に、です。」
言われると思った。
「はい!現状、私も世界樹の苗木もとりあえず今を維持するだけで精一杯です。とりあえず今のところ外の世界からくる魔獣や世界を覆う塵なんかを心配する必要はないですけど、出来ればもう少し範囲を狭めて自己再生に専念したいところを頑張って人類さんにお願いしにくるくらいには必死なのです。」
彼女はハムハムしていたカエルの骨をボリボリと食べながらいう。
「残念なことに今は規定によって貴方に何かを授けることも、リソースがないために祝福を強くすることもできませんが、その分は出世払いですので!」
「それは俺が何かをもらう時のセリフじゃないだろうか?」
そんなことをしゃべっていると彼女の体が光の粒になって消え始めた。
「あ!もう限界みたいですね!じゃあまた今度!」
「え、なんかアドバイスとか…」
「無いです!」
そう断言するとあの天使は消え去った。…まるで嵐のようだった上に食料を減らされたが、とりあえず方針は決まった。
「地上部の探索だな。」
彼女と世界樹が倒れると俺は問答無用で死ぬ。
外に出て別の街を目指すにも、世界樹の祝福が足りない、この世界は上手くできている。世界樹は探索者たちが集めてくる魔魂によって成長し、ダンジョンを弱体化しつつ街の範囲を広げる。探索者達は街に物資を増やし、集めた魔魂で世界樹を成長させ、自分達に授けられた祝福を強化する。そして人類として強化された探索者は外の世界へと出ていけるようになり、また新たな世界樹の元で、さらに成長した世界樹の元でまたダンジョンに潜り今度は金や物資を稼いで外の世界の探索をする。
本物の探索者、本当の探求者ならそういう生き方をよしとするだろうが、今の俺はスレた16の青年Aである。とりあえず自分以外を切り捨てて自分が生き残ることだけを考えなければ…生き残ることすらできなくなるのだから。