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刺激的なダンスに酔いしれて


健忘症、ついでに視野狭窄、無自覚のうちに一月、これから恐らくそれを自覚した上で一月はお世話になる其奴らについて考えながら肩慣らしに一層の敵を粉砕していた。

手の甲には38、ギガントなカエルは遠くから丸太を射出して貫き殺した。


「何事もポジティブに、という言葉があったな…」


俺は狂気の利点を考える。

そもそも無自覚の間でも、たとえ何かを忘却していても、視野が狭まっていても身に刻み込まれた動きや多少の荒さはあれど臆病である事は出来ていた。それ故に自らに疑問を持つ事なく戦えていたのだ。

逆にいえば現時点で狂気には不利益も利益もないのである。

ならば利点を考えよう。ある事自体が不利益でそれを認識したのが悪手ならばそれを打開するにはそれに対して良いイメージと合理的な発散法を考えるしかないのだ。


「健忘症…視野狭窄…字面だけ見るとただの問題点だが…」


俺は目の前のウサギを見つめそれ以外をみることを諦めた。

ギュッと視界が狭まり自身の鼓動が早く感じられ、多少の頭痛と生死をかけた戦闘という行為自体で生じる些細なとは言えないストレス、それによって刺激された死んだ時の記憶が蘇り吐き気を催すが、抑え込む。


凄まじく重くなった一歩を踏み出し加速する。

正直、俺の動体視力は大した物じゃない、もし才能があるなら皆々様と同じような剣やメイス、槍なんかを使おうと思ったことがあったが、俺が十全に使いこなせる。と言える武器は目だけでなく肌や経験で間合いを補完できるが、あまり実戦に向かない、安全とは程遠い短剣という武器だった。


そもそも剣という武器が怪物相手では非合理みたいなところはあるし、近距離よりも遠距離の方が強いのは当たり前なのだが、初期のコストとランニングコストを合わせて考えると遠距離というのは戦うことがほぼ運命付けられている探索者という職において『戦えば戦うだけリスクが高まる』傾向の高い物なのだ。

それこそ無限に矢が出てくる矢筒や魔法の弓なんかが手に入れば話は違うが、期待するだけで無駄というものだ。


狭窄し切った視界は俺に今まで経験と色を見る目で判断せざる得なかった高速を魅せる。


動悸と頭痛と吐き気、狂気とは狂っているから、気が触れているから状態異常なのだ。それに利点など存在し得ない、しない筈である。

だが。狂うと言うのは人間という認識、一つの生命の持つ世界が生み出す恐怖であり、可能性だ。


短剣を振るう。

経験での見切り、技量を伴った結果では無い、かといって自分の持つ体の、その十全な能力では無い、視野狭窄とは目の前にある筈の物が認識できなくなり極度に一点に集中する現象であり、脳の機能不全であり…


「代償だ。」


肉を切り裂く感覚、慣れた筈のそれすらも生々しく、より鮮明に感じられる。肉体が本来持つ鈍感さというのを失ったわけでも野生の動物のような新たな感覚を手に入れたわけでも無い、これは極度に感覚や視覚の機能を制限した上で集中させた…結果だ。


「なかなか良いなぁ…」


呪うとすれば動悸や頭痛が激しくなり、さらにいえば怪物との高速戦闘を行う前衛、とりわけ剣士は先天的にこの極限をある程度持ち、その上で観察眼や戦術眼と言った経験と技量を積めると言う事であり…使い手が少ない武器、振るうにも敵を倒すにも経験を積まなければいけない俺とはやはりスタートが違うのだと実感してしまうと言うことだ。



「…次行くか。」


人の忘れるという機能の不全、知っている筈のことや忘れるはずもないことを一時的に忘却する。それが健忘症である。

これは感覚や肉体の動きではなく飽くまで記憶や知識でありまともであるために不可欠なそれらを忘却するが故に狂気である。

普通なら思考がまとまるはずもなく。考えが働くというだけでも異常なのだが…恐らく俺の場合無くなっているのは時間感覚とこの世界における一般常識のうちの探索者や世界樹に纏わるetc…正直利点もクソも無いが…


「逆にいえば無意識でも余計なことを考えず。生き残る事や敵を倒すことだけを考えられる。」


ブレなさ、それが健忘症の利点だ。


「以上を踏まえて、この状態で戦えるのか…というと…」


イエスかハイしか答えがないが、問題ないと言えるだろう。

実際、問題だらけだが、そもそも問題にし始めるとどうしようもない所とかもあるので、キニシテハイケナイ…


「とりあえず認識に肉体が追いつくのは良いが、やっぱり違和感がある。慣れないとな…」


少なくとも7000の魔魂、今ある分を考えれば6962魂、二層のボス約367体分…


「気が触れそうだぜ…全く…」


生きる死ぬのやりとりが前時代よりも身近になってはいるが、それは近くにあるというだけでそこにいる物に大差はなく。ある意味では昔も今も何も変わっていない、二分の一の賭けに勝ち続けられるかどうか、そんな頭のネジがぶっ飛んだ。狂った世界で、その内の一個人であるだけの、ちっぽけにして矮小にして卑小な俺が狂った所で、世界は何も変わらない、むしろ捻れたものをねじれたメガネで見てる分いつもよりもマシに見えるかもしれない。

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