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俺が今に至るまでの隙間


目がさめる。

思考がはっきりとしているが、代わりに凄まじい寒気と震えがくる。


「…はぁ…あ…」


思い出したのはつい最近の記憶、あの日ダンジョンを出た瞬間のそれだ。

今ならあの天使が、何故俺が言い出すまで何かアクションをしてこちらを楽にしようとか思わなかったかがわかる。

つまり奴は俺に戦って欲しいのだ。

今の様に銭湯が不可能なレベルなトラウマを呼び起こさせまいとしていたのだ。

重箱の隅を突く様な愚を犯さず。彼女からそのパンドラを開けようとしなかった。



震えが多少落ち着く。

だが、逆に良かった。おそらくこれは、この震えは最初の殺された記憶の物であるだろうが、それ以上に今までやってきた事、態々ダンジョン内で訓練したり、ボスを抹殺したりする時の恐怖、死への恐怖である。

この前のオーバーキルが俺の本性なのだ。

策を練って敵を倒すのではない、策を練って、異常なまでに臆病に警戒しながら安心する間も無く相手をひき潰す。それが俺だ。


…それだというのに、そうだから臆病者と、卑怯者と罵られそれを認めていたと言うのに、たかが狂気とやらで狂った程度で初心を忘れやがって、クソがっ!


「ほんときついぜ…おい。」


狂気というのは自覚できてどうなる状態異常ではない、むしろどうにもならなさで言えば他の状態異常以上の物だと言える。

そもそも正気でいられないのだ。

だからこそ気が触れている、狂っていると書くのだし、まさにその通りなのだが、俺のそれは狂気というよりも極度の恐怖、トラウマだろう。


「そうですね、たまに異常な精神力で死を許容しそれを踏み倒す様な人類もいますが、ごく普通の、いわゆるカタログスペック的な意味では人類にそんな精神的強靭さはありません。…あったら今頃肉体的限界を超える超人と言う名の哲学的ゾンビまみれでしょうし…」

「死ぬのが怖くない奴なんて怖くねえよ、物語だとか怪物だとかでそういう奴がいるけれどそういう奴らにはそもそも危機感ってやつが存在してない、あればそいつは死を恐れてないわけじゃないって事だ。」


呂律も思考も正常だ。聴覚もはっきりしているし多少の頭痛や目眩はあれど昨日ほどではない、


「それで、お得意の状態異常解除は効きそうかな?」

「無理ですね、少なくとも今のままではあなたを直して世界樹が崩れるとかそう言う感じになりそうです。」


俺はゆっくりと身を起こす。手を見れば震えが取れていない、一度認識してしまったものをなかったことにはできない、それに向き合うか、なんとかするかしないといけない…


「そういえば今回のことでもう色々と隠す必要がなくなったので言いますが、あなたの時間感覚は非常にダイナミックにずれています。ダンジョンの力場によって中での時間経過と外での時間経過に差が出ている上に、あなた自身が狂気に陥っていたこともあって、あなたの言動からしてここの壊滅から二週間かそれを少しすぎる程度しかすぎていない様に錯覚している様ですが、すでに一ヶ月が経っています。」

「…まじかぁ…」


じゃあ、もしかして一週間篭ってたって思っていたのは…


「はい、二週間、中での時間はそれ以上でしょうか?わかりようがありませんが、あなた自身がダンジョンと外を行き来しすぎているせいで内外での時間感覚になれることなく過ごしているのでその外套による筋力トレーニングもかなり長時間行われています。」


ですよねー、そんなに簡単にここまで体が変わる事はナイデスヨネー…


「まぁ、ですが探索者に施された祝福は身体機能の強化とその成長促進作用もあるので知識としては間違っていませんでしたよ?」


悲しい、ポン子をポンコツとか言っていた頃の俺を殴り殺してやりたい…


「ついでに言えば今は貴方が寝て3日目、漸く目覚めたかっていうところです。今回はサービスですが、お粥とファストフードどちらが良いですか?」

「俺はぶっ倒れてもよく食うんでな、もちろんモ◯バーガーだ。」

「かしこまりっ!」



久々のファストフードが身にしみたところで…さて。


「これからどうしようかねw」


いや、マジで。

頭を悩ますまでもなく天使が言う。…というかバックアップが目的なのに意図的に黙ったり、冗談を言ったり、よく考えると今まで見てきた彼女の行動はいささか俺の知る天使とはかけ離れて居る様な気がする。


「とりあえず言ってもいいのならば、最高神によって再編され世界樹によって強化された人類は精神汚染状態においても通常通りの行動と思考が可能です。」


極く当たり前にやばいことを言って居る様に聞こえるが、これが現状であり、旧人類とは一線を画す性能を持つのが現人類である俺たちである。

前時代の人類はその一部を地中と空高くに冷凍し、その叡智の欠損した。もしくは現行の法則内では当てはまらない物などをうしないつつも神と世界樹、そしてその管理者である天使に伝え残して居る。

稀に冷凍が解除され蘇るものや、ダンジョンの源である時空間の狭間、異世界とこの世界の衝突点から現れる者など様々だが、基本的に神に回収され現行の環境に耐えうるように強化されてこの世界に放り込まれる。

まぁ、それによって世界に変革が起きたりはしないあたり時間軸的には全時代の最盛期より以前の人類や文明レベル的に、もしくは根底にある常識から違う人類などバリエーションはあれどこの世界を一瞬で救う様な救世主はどこにもいないのだろう。


俺は天使の言葉に続ける。


「で、その後に状態異常によって記憶、意識、etcが改変され、改悪される。…探索者どころか一般常識だな。」

「ええ、その通りです。」


些か別のことを話し過ぎたが、今重要なのは俺の病状とこれからどうするかである。

整理知るまでもなく。狂気のような特殊な状態異常を一時的に抑えたり、解消するためには魔魂と世界樹の力が不可欠だが、世界樹は復活中、魔魂は欠乏しており世界樹も十全ではない、そこから出せる答えは…


「ですので、暫くは騙し騙しやるしかないです。」

「断言すんなよ悲しくなるだろ。」


まぁ、頑張るしかないということだ。

悲しいけど、探索者ってそういう者である。戦える限りその身を燃やすように戦い、世のため人のためそして自分の探究心を満たすため、毒に侵され、怪物に打ちのめされ、狂気に侵されようとも、たとえ五体が欠損しようとも血を吐くようなマラソンを続ける。そんな人種だ。


俺はゆっくりと息を吐き、そして吸った。


「休息はどれくらい取ればいい?」

「できれば一日七時間、ダンジョン内で戦闘を行った後は追加で二時間ほどの休養が必要です。」


つまり休息時間に寝れば状態異常の影響を最小限に戦える。


「内部での時間軸の正確な観測はできないですが、第二階層を超え三階層より先は現在世界樹の根が停止して居るのでこちらからの観測は不可能です。現状で出せる試算では貴方が二段階ほど位階をあげる頃には、世界樹の機能が治療可能なレベルに回復する予定です。」

「…」


…外套の効果で位階をあげるのが少し難しい中、7000魔魂ですか、そうですか…


「そういえばなんでそんな説明口調なんだ?」

「…折角のシリアスなのでそれっぽくして見ました!どうでした?お気に召しましたか!?」


…やっぱりこいつポンコツなんじゃねえかな?

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