拝啓、全略、ps街が更地になりました。ボスケテ
気がつけば一人だった。
たしかに、爽やかであるとは言い難い俺ではあるが、人並みには誰かに歩調を合わせるとかそういうとのできる人間だ。友達はいなくとも知り合いくらいはいた。
というか人類である限り親という知り合い以上友達以上なつながりがあるのだ。一般的かつ普通かつ当たり前のような奇跡を貪り食う俺にとってそれらはついさっきまで当たり前だった。
そう、気がつけば一人だった。
精神的な意味ではなく、孤独感という欺瞞的でどこか他人を求めているような人間らしい感情ではない、今、この瞬間、この時をもって、俺の周り、まったくもってどこからどこまでがそうなったのか知らないが、大雑把かつ悲壮感が出るように周囲100キロほど位が更地になった。
有り体に言えば物理的ボッチ、有り体に言わなくとも物理的にボッチ、現実問題物理的にボッチなのだ。
「はぁー?」
つい最近まで街だった物は瓦礫の山と化し、人類の生存圏を維持する世界樹も半ば折れているし、何より俺の目には人っ子一人、それどころか生物的な気配すら無い。
断言する。ここに人類は俺しか無い!
「全然嬉しく無いんだけどね!」
血もない、涙もない、というか生物がいたという痕跡が瓦礫くらいしかない、超希少な魔法使いによって幻影を見せられているのだと言われてもそちらの方が現実感があるくらい何もない、さらに言うなら自分でも最悪なことに悲しくもなんともない、というか知り合いの顔が思い浮かばない、流石上辺だけの関係を極めていただけがある。挨拶とたまに世間話をするくらいしかしてこなかった所為だろうか?
「ええ…どうしよう…」
とりあえず…うん、とりあえず瓦礫から木材なり木片を集めて燃すか、腹が減っては戦ができぬと異世界の勇者様も言っていた。背負っていた背嚢からジャイアントカエルの革でできた耐水性の革袋を取り出し中から生き血の滴るジャイアントカエルの太腿を取り出す。
「塩…塩ないかな…あ、あったあった。」
容赦なく瓦礫を漁りいい感じのフライパンと金属製のコップと皿、ついでにフォークやらナイフやらがまとまって落ちていたので仮設のキャンプに集めておく。
出てきた頃は夕方だったために急いで焚き火を作り視界を確保し、ついでに飯を食う。ちょっとは探索者らしいかなぁなんて思いつつも、今だに現実感のないこの更地の地平を見る。
…うむ、全然実感がわかないな。とりあえずありがとうパピーとマミー、取り敢えず息子は生きているぞ…ま、妹も弟もパピーもマミーも大樹市だし、あそこはこの辺で最大の都市だし、こんな片田舎のまだ名前もついてないようなとこにはいないんだけどネ!
「お、焼けたか…」
とりあえず腹を満たしたら地面で寝るか…
「ご馳走さまでした。っと。」
さて、腹が膨れたら寝よう…と、思ったんだが実は結構やばいのではないかと思っている。
なのがやばいのか、と言われれば後ろの世界樹様だ。
都市の中心には必ずダンジョンがあり、その侵食を食い止める世界樹がセットである。この世界ではガキでも知ってる常識だ。そしてさらに常識なのが人類の生存圏を世界樹、もとい世界樹の苗木が保証している。という事、有り体に言えば余程のことがない限り世界樹様から離れて暮らすことはできない、と言うことである。
他にも色々と世界樹様は人類の生存圏を広げるために色々してくれているのだが…とりあえず急務なのはこれだ。
ダンジョンの中は安全かもしれないが怪物が闊歩する中どうやって暮らせばいいのかと、というかそもそも怪物がいる時点で全然安全ではない。
まぁ、外に怪物がいないわけではないらしいが…この惨状を見れば納得だ。
「さて…どうしようか…」
今更ながら装備を確認する。
全然使ってない両親にもらった直剣、使い込んだ短剣とバックラー、このダンジョンの第三階層にいるスタッグアントの胸当て、脛当て、籠手、見た目通りの大きさでそれくらいしか入らない背嚢におそらく死んでいる薬師の作った治癒の水薬二本…おもむろに右手の甲を見る。
そこには200という文字が刻まれていた。
「昨日までで貯めたのが197だったから…今日1日で3、ジャイアントカエル1匹と一角ウサギ2匹だから魔魂はこんなもんか…」
確か、この間礼拝した時、俺の祝福は身体能力強化2に脚力1、異能として回避があった。だから俺の祝福は初期状態から四段階上昇してて、つい最近やっと異能が手に入ったって喜んでたんだが…
「ソロでやってくにはいささか弱すぎだな、うん」
というか回避の異能…一応魔法に分類されてるが1日3回敵の攻撃を問答無用で避けるとか、超絶微妙なんだよな、いや、ない奴よりはいいが、それでも1日3回である。これから先、最悪一日中、さらに言えば1日以上ダンジョンに潜るとなって、その三回以上まともに攻撃を食らえば…死ぬ。
そんな緊張感あふれる冒険をしたいというやつは早死にするタイプだ。
俺はカエル肉の余りをハミハミしながらイライラを落ち着かせる。
「とりあえず、寝よう。」
そう宣言して俺は寝た。とりあえずもうこれ以上難しいこと考えられない。