5.神器の目覚め
戦闘回です。表現など、まだまだ勉強中。
怪物が右腕の鎌を袈裟に振るう。それにぶつけ合うようにユウも宝石を握った右の拳を
振りぬいた。
衝撃、虹色の稲妻が辺りに弾ける。
怪物は身を屈めると左手を軸に回転、その勢いのまま右足で蹴りを放つ。
咄嗟に左腕を盾にして受け止める。踏みしめたアスファルトが抉れ、全身の骨が軋む。
「アアアアァッ!!!」
ユウが叫ぶと同時、宝石が輝きを増した。怪物が怯んだ一瞬の隙をつき、鉄山靠の要領で吹き飛ばす。
その緑の体躯が5メートルほど宙を舞い、頭から強く地面に叩きつけられる。
だが怪物は数秒間身体を痙攣させると、身体を振り子の様に揺らし飛び起きた。
ひび割れたバイザーから黄色い左目を覗かせ、自分を吹き飛ばした一人の人間を見つめている。
その目から流れた青い血が返り血と混ざり合い、黒い雫となって地面に零れた。
―――体中から力が湧いてくる・・・・これもこの石の力なのか?
目の前のこの化け物も、この石も何もかもが分からない。分からないが・・・やるしかない。
「危ないから逃げてください。こいつは俺がなんとかします」
ユウはもう一度構えなおし、目の前の怪物と相対する。
「わ、わかりました!助けを呼んできますから待っててください!!」
躓きながら薫さんが背後から駆けだした瞬間、化け物が跳躍、彼女へ躍りかかる。
「させるかよッ!!」
奴へ向けて拳を放つ。それとともに虹色のバリアが展開され、その鎌を弾いた。
「一体お前は何なんだ」
遠ざかっていく足音を背に尋ねる。
だがその問いに対して化け物は姿勢を低くし、地面を慣らすように踏みしめるのみだった。
「その気がないのならッ!」
虹色の稲妻が路地に走り、砕けたアスファルトを散らす。焦げ付いた臭いとともにその煙が道に充満する。
その一瞬で怪物に肉薄したユウはその勢いのまま膝蹴りを放つ。
ミシリ。虫の甲殻を潰すような感覚が広がる。だが次の瞬間、世界が暗転、背中を激しい痛みが襲った。接触したその瞬間、怪物が腕を掴み乱暴にも投げ飛ばしたのだ。
視界が霞む・・・その衝撃に身体は痺れ、指先から宝石が転がり落ちる。
ゆらりと、化け物が身じろぎしこちらへ近づく。ゆっくりとした足取りで、衰弱した獲物へとにじり寄るように、ゆっくりと。
一歩。―――――視界が戻ってきた。
一歩。――――あの石は右手側の地面に転がっている。身体を起こせば拾えそうだ。
一歩。――身体の痺れが薄らいだ。黄と橙の瞳はもう目前へと迫っている。
その右手の凶刃が突きだされた。寸前、右へ転がり回避。同時に宝石を拾い上げ後ろへ飛び退く。
怪物はそれを追うように腕を返す。その喉笛を引き裂かんと血に染まった刃が迫る。
だがその瞬間、凄まじい轟音とともに視界から怪物が消えた。
一体何が起こったのか?警戒しながら煙の中を注視する。
そこにあったのは、あの化け物とは別の赤く輝く双眸だった。
煙が晴れる。そこに広がっていた光景は異様の一言に尽きた。
先程まで俺を追い詰めていた怪物はひび割れたコンクリートの中に沈み、その原因となった存在を見上げている。
漆黒の鎧のような姿をした体躯。2メートル程だろうか?そのシルエットは人間に近く、あの化け物のような鎌も付いていない。投げ出した右手からはあの化け物を殴り飛ばしたのだろう、青い血が滴っていた。
ぱらぱらとコンクリート片が音を立てて落ちる。奴がその身体を起こそうと身じろぎしているのだ。しかし、その姿を見ることはもうなかった。
赤目の怪物が強く踏み込み、鋭い蹴りを叩きこんだ。
めきりと音を立て緑の化け物が力尽きると、その亡骸は塵となって消えた。より大きく広がった波紋がその威力を表している。
そいつはその塵の中からチップの様なものを取り出すと、静かに立ち上がりこちらを一瞥する。
交差する視線。おもわず身体が強張り息をのむ。
口の中は渇き、冷や汗が背中を伝う。
時間としては一瞬だったかもしれない。だがその時は永遠の様にも感じられた。
がらがらと、壁が崩れる音が静寂を切り裂く。
それに気を取られ、一瞬で近づいてきた怪物に反応しきれなかった。避けろと命令する脳に反し、身体は蛇に睨まれた蛙のように動かない。
殺られるッ!
そう思ったのと怪物が頭上を飛び越えていったのは同時だった。飛び跳ねるような足音が次第に遠ざかっていく。
ユウは緊張が解けると同時に膝から崩れ落ちた。その息は荒く、身体の震えは収まっていない。辺りには砕けたコンクリートの破片や抉れたアスファルトの跡が残り、起こった事の非現実さを物語っている。
ほどなくして、鳴り響くサイレンとともに薫が現れた。助けは無事に呼べたのだろう、警官隊と思わしき集団がこちらへ駆けよってくる。
「生きてる・・・・のか?」
抱きついてきた薫をよそに、ユウはひとりごちる。
擦りむいた背中に染みる汗が、何よりの証明だった。